BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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<ジルベール>恋愛ルート

3 ジルベール視点

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「シュレイバー、なんでここに?」
「お久しぶりです。ジルベール様」

 早朝に扉から音がして、誰かの来訪を知る。
 一体誰だろうと、扉を開けると見知った姿があった。伯父の屋敷で働いているシュレイバーだ。涼やかな見た目は、相変わらずだけど少しの焦りが浮かんでいる。
 見慣れた姿は執事服だけれど、今は簡素で動きやすい服に身を包んでいた。 
 いきなりの来訪に戸惑っていると、見慣れた隙のない所作で頭を下げてくる。

「ああ久しぶりだ。どうしたんだ。なにかあったのか?」
「朝早くに、申し訳ございません。ラージヴァル様より、急ぎこちらをお渡すように申し使って参りました」
 従兄からだと差し出された手紙を、その場で開封する。急いで遣いにこさせたなら、それ相応の理由があるはずだ。何かよくないことが、起きたのかと心配になりながら二つに折られた便せんを開く。

『兄さんがジルベールの想い人に、会いに行くと出かけていったから知らせた方がいいと思って筆をとりました』
 其処に書かれていた文字に、気が遠くなりかけた。

「一応、確認するけど、たちの悪い冗談じゃないよな」
「大変申し上げにくいのですが、ラージヴァル様よりご伝言を預かっております。ごめんね。兄さんを止められなくて、せめてと思い手紙を書きました」
 長年、仕えているせいだろうか。抜群に上手い声真似に、妙な感心をしてしまった。けどそんなことしてる場合じゃないと、思考を切り返る。

「急いでくれてありがとう。ラルにも礼を言っておいてくれ」
「かしこまりました。それでは、失礼します」
「ちょっとまて。ここまで一日で来たんだろう? 少し休んでいくと良い」
 手紙に記されている日付は、前日のものだ。ここからラルがいる場所は、急いでも三日はかかる。よほど急いだのだろうし、疲労もたまっているだろうと声をかけたがかしこまって頭を下げられてしまう。それだけで、彼の意思が理解できた。

「お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが主がお待ちですので、これで失礼させていただきます」
「そうか、わかった。きをつけて」
 また深々と頭を下げるシュレイバーを見送る。
 ―― 相変わらずだな
 雇い主は伯父さんで、子供の頃から仕えている。あくまで仕えているのは伯父さん一家だ。 
 けれど彼の忠誠心というか敬意というか、複雑な忠誠は従兄であるラージヴァルに集中して向けられている。
 さっきだってラルと少しでも離れているのが、苦痛だとでも言うかのような色を目の奥底に潜ませていた。

『あれが良い方に向かうか、最悪な方向に向かうかはラルの舵取り次第だろうな』
『何の話だ』
 ふと前にユージスが、こぼした言葉を思い出す。アレは確か伯父さん達と、食事をしたあとだった気がする。こいつとは仲良くないのに、良いんだって勘違いしてる母さんの計らいでラルも一緒に同じ部屋で過ごしてた。
 俺に見せたい物があるって、ラルがシュレイバーを伴って部屋を出たあとユージスが口を開いた。

『シュレイバーのことに、決まってるだろう。ああいう絶対の忠誠を、ちかいますって輩は二通りに別れる。自分の感情を押し殺して主のためになるように動く奴と、勝手に主のためになると自己を正当化して『主のため』って言葉を免罪符に己の感情を優先して暴走する奴だ。上手く使わないと、共に奈落に、道連れにされる』
『どうせそんなことには、させないんだろう』
 妙に演技ががかった仕草に、呆れながら答えると人の悪い笑みを返される。

『可愛い弟だからな。奈落には、あいつ一人を落とすさ』
『あっそ』
 予想通りの答えに、短く返す。こいつはラルを弟のことを、大切にしてるのは知ってる。だから別に、意外性もなにもない答えだなって思っただけだった。

『おまえは、そうなるなよ。本当に思う相手が出来たとき、相手のためだなんて免罪符ぶら下げて傷つけるような真似はするな』
『余計なお世話だ。そんな相手はいない』
 ソファに座って片肘をついて、こっちを見てくる。そのときは呆れと一緒に、返した気がする。だってあのときは、好きな人が出来るなんて考えたこともなかったんだ。

『これから、できるかもしれないだろう』
『興味がない』
『たっく、お前みたいな奴に限って、本気の相手が出来てから慌てふためくはめになるんだよ』
 あのときのユージスの言葉を、まさか思い知ることになるなんてあのときは本当に思ってなかった。図星だって認めるのは、癪だけど本当に言うとおりで嫌になる。

『そういうユージスは、どうなんだ。お前みたいな奴が、本気の相手がいるって?』
『当たり前だろう。俺はずっと、恋してる』
 いつも通りに茶化した物言いに表情を、浮かべていたユージスが別人のような顔をした。細めた目には、からかいの意図などなくただひどく優しい色が浮かぶ。

『気持ちが悪い……』
『はっはは、失礼な従弟殿だな!』
 あまりに変貌ぶりに、感心より先に来たのは怖気だった。自分で言っておいて、なんて言い草だと思うけれど正直な感想で、それに珍しく含みも何もない笑い声をあげって返してきた。


「なんだ、その反応は。失礼な奴だな」
 あいつのことなんて思い出してる場合じゃない。どうするか考えないとって、思考を切り替えたときシュレイバーの焦りを含んだ声と今一番聞きたくない声が聞えた。
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