BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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<シーディス>ルート

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「あら、先生」
「起きなくて良い」
 先生の後をついていくと、すぐ近くにある小さい家に入っていく。室内は清潔に保たれているように見える。ただ外観もそうだけれど、崩れてしまわないか不安を覚えた。
 ベットで横たわっていた女の人が、上体を起こす。心配になるくらいに痩せていたが、顔色はよく見える。

「そちらの方は?」
「悪いな、連れだ。外で待たせておくのも、不安なんでな」
 後ろにいる俺に気づいた女の人が、視線を向けてきた。なんて返そうかと迷っていると。先生が代わりに答えてくれた。

「お邪魔します」
「狭いところで、ごめんなさいね」
 視線でそれ以上は必要ないと言われている気がしたから、姿勢を正して頭を下げるだけに止めた。
 ここで俺が出来ることはないから、先生が診察をしている間は大人しく座って待つことにした。
 ―― 信頼されてるな
 治安が悪い所なのに、いきなり来た俺に対しての警戒を感じ取れない。きっと先生と来たからだろう。

 ―― そういえば 
 先生は基本的に怖い人だけれど、医者としては良い人だと思う。俺がドラゴンのブレスで焼かれたときも。治療も診察もきちんとしてくれた。

 ―― 怖いけど
 でもきっとそうじゃないところも、沢山あるのかもしれない。さっきの子供達と接していたとき思い出しながら思う。意外な一面を見えたことで、認識が少し変わっていく。

 ―― どっちにしろ、怖いけど
 子供には、優しい。病気の人への雰囲気が、穏やかだ。でも俺に対しては、怖いのが標準装備である。出来ればもう少しだけ、穏やかに応対していただきたい。


「おい、終わった。出るぞ」
「はい。お邪魔しました」
 いつの間にか診察が、済んでいたらしい。目の前に面倒くせえから、さっさと立てと言わんばかりの顔をした先生が見える。すごいな悪い方の感情が、口に出さなくても表情で分かる。


「ここらを、どう思う」
 家からでると再度また子供に囲まれる先生を、しばらく眺めて待つ。そのあと黙って歩き出した先生の後を、大人しくついていく。
 沈黙が重くて話しかけようとしたとき、先生から声がかかった。

「金がない奴らが集まって、治安が悪くなる。直す金もねえから、そこらは荒れ放題だ。他人から盗んだところで、生活が豊かになるわけじゃねえ。何も変わらず荒れたままだ。最悪だろう」
「あの……」
 治安が悪いのは、事実だとは思う。ここら辺りに住んでいる人達が、貧しいのも事実なのだろう。関わったのが絡んできたチンピラだけなら、肯定していたかもしれない。けど先生を慕っている子供達を、見ているから最悪という言葉に同意が出来ない。

「けど最悪だろうとなんだろうと、ここで暮らしている連中はいる」
 また最悪と、口にする。けど嫌悪を、感じているように見えない。
 前を向いたままの先生の眉間には、しわは寄っていない。なんというか、静かだ。

 ―― もしかして
 高額な治療費を取る理由は、あの子達のように治療費を払えないほど困窮している人達の治療をするためなのだろうか。とれるところからはとって、貧しい人達からは無償でしているのかもしれない。想像だけと聞いても答えてくれない気がしたから、尋ねるのは止めておいた。

「意思を通そうと、すれば金はいる」
 何も言わずに先生を見ていると、今度は不快げに眉間にシワが寄った。普通なら気分を害したかと思いそうだが、俺にとってはこっちの方がなじみ深い。

「金より価値のあるものがある。そんな綺麗ごとをほざく奴らはいるが、金がないせいでここらの連中は死んでいく。結局は金が、生死を左右する……状況によっては、金があろうがなかろうが死ぬけどな」
 目を伏せて呟く様に紡いだ声が、なぜか悲しげに聞こえた。淡々と喋っているのに、感情的な声色でもないのに何がそう思わせているのだろうか。

「もうここらには、近づくな。お前みたいな奴が、来るところじゃない」
「わかりました」
 ずっと前を向いて歩いていた先生が、立ち止まってこちらを見る。言われた言葉に大人しく頷き返しておく。ここでYES以外の返事をしたら、怖いことになりかねない。



「旦那、今日はありがとうございます」
「おう、また様子を見に来る。頻繁に来れなくて、悪いな」
 先生の言葉に頷いてから、また歩き出した先生の後に続く。
 気の利いたことの一つも言えずにいると、見慣れた姿が見えた。シーディスさんだ。しっかりとした建物から出てきて、ごついおっさんと話をしている。見た目で判断して悪いが、ちょっと心配になる相手だ。

「なあにおっしゃてんでさあ、旦那が忙しいのは、俺が馬鹿でも分かりますって!」
「少なくとも現状を変えようと、努力する奴は馬鹿じゃねえよ」
 表情までは、見えない。けど雰囲気から、険悪なものは感じなくて安堵した。仕事で来たのだろうか。

「いきなりんなこと言われたら、照れますって!」
「おい、痛てえ手加減しろって……」
 ごついおっさんが、勢いよくシーディスさんの背中を叩いている。こっちまで音が聞こえてきた。かなり痛いんじゃないだろうか。
 気安い様子に見えるし状況が、分からないのに止めに入るのも気が引ける。どうしようかと思っていたら、こっちを見たシーディスさんと目が合った。なんでか先生が、長い溜息をつくのが聞こえる。
「旦那?」
「悪い、もう行く。じゃあな励めよ」
「はい!」
 目を見開いていたシーディスさんが、おっさんに何かを言って早足で近づいてくるのが見えた。前に走れないと言っていたけれど、足は大丈夫なのだろうか。心配になる。

「レイザードなんで此処に……ギーニアス」
「勝手に妄想して、自己完結するな。ガキが俺の事を、つけてきたんだよ」
 もしかして仕事の話を、していたかもしれない。謝ろうと思っていると、その前にシーディスさんが、先生に鋭い視線を向けた。
 ―― うん、怖い
 シーディスさんは、とても良い人だ。それは分かっているのだけれど、顔が怖い。本人には絶対に言えないけれど、先生と違った怖さがある。

「なんでレイザードが、お前の後をつける必要があるんだ」
「面倒くせえから、ガキに聞け」
 どのタイミングで、口を挟めばいいのだろうか。怖いVS怖いで、ダブルで怖さが倍増している。そこに飛び込む勇気は、俺にはない。 

「おい、ギーニアス」
「ガキのお守りは、ごめんなんだよ。お前が、連れて帰れ」
 どうやらさらに怖い事態は、避けられたらしい。先生が至極面倒くさいという表情をしてから、背を向けて去って行く。

 ―― あっ
 まだ礼を、言っていなかった。勝手に後をつけた俺を、ここまで連れてきてくれた。邪魔だったろうに、診察するときに連れて行ってくれた。ちゃんとお礼を、伝えなければ――

「あのお世話になりました」
 多分、長々とした礼の言葉なんて、望んでいないだろう。そう思って短く伝えて、頭を下げる。一応感謝の気持ちは、伝わったらしい。眉間の皺が消えた先生が、鼻で笑ってから去って行った。
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