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<シーディス>ルート
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「あの野郎……」
「お仕事中ですよね? 俺は一人で帰れるので……」
今にも舌打ちしそうな表情をしているところを、勇気を総動員して声をかける。別に普通に声をかけるだけだ。怖がる必要はない。分かってはいるが、眉間にシワを寄せたシーディスさんには迫力がある。
「あーその……レイザード」
「なんでしょうか」
先生が去って行った方を眉間を寄せて見ていたシーディスさんが、眉を下げて歯切れ悪く俺の名を呼ぶ。
何か言い辛いことが、あるのだろうか。俺が何かしてしまったのかと考えて、盛大にやらかしたばかりなことを思い出す。
―― もしかして
あの貴重な鉱石に、傷がついたのだろうか。なんてことだ。弁償ものじゃないか。
払えるだろうか。貴重な鉱石で、高額な値段で取引されている。それだけで実際の値段は知らない。けれど俺が簡単に払える額じゃないのは、考えずとも分かる。
―― 言い出しにくいのだろうか
普通なら貴重なものを壊された。弁償しろって言えば、済むことだ。けどシーディスさんは、優しい人だから言えないのかも知れない。
―― 俺から言うか……
徹夜で商品を増産することに決めて、意を決して口を開く。
「申し訳ありません。必ず弁償します」
「すまなかった」
頭を下げて謝罪を口にすると、何故かシーディスさんが謝ってくる。意味が分からない。
「えっ?」
「弁償? なんのことだ」
多分同時に、頭を上げたらしい。困惑顔のシーディスさんと、視線が合う。俺もだいぶ意味が分からなくて、疑問符が浮んでいるんだが伝わっているだろうか。
「この前、貸していただいた鉱石に、傷がついたんじゃ……」
「傷? いや、ついてないが。そもそもついたとしても、弁償なんて言うわけないだろう」
心底ほっとした。思わず溜息がもれそうになって、なんとか堪える。
けれどならば、なんで謝ってきたのだろうか。余計に意味が、分からない。
「俺が余計なものを渡したせいで、嫌な思いをさせただろう。本当に済まなかった」
「えっ……」
また謝られてバグのせいで、おかしいことになったのを思い出す。ただアレはシーディスさんに、非のあることじゃない。全てバグと、影響された俺が悪い。
「あの謝罪は、必要ないです。シーディスさんは、悪く無いので……あれは」
なにか良い言い訳を考えようとしたが、何も思い浮かばない。表情筋どころか、脳みそまで仕事をしなくなったらしい。
「レイザード……いや、そうだな。すまなかった」
「いえ」
また謝らせてしまった。俺がもっとこう口が上手ければ、せめてジルベールの1割でもコミュ力が高ければ、こんな顔させずに済んだろうに。一瞬だが辛そうな顔をした、シーディスさんに胸が痛む。
「……帰るか」
「はい、あのお仕事中ですよね」
気をつかってくれたのか。表情を和らげて、先生が去った方に視線を向けた。そのまま続きそうになって、最初に気になったことを再度問う。
「いや、もう話は済んだ。だからせめて安全なところまで、送らせてくれ」
「ありがとうございます。お願いします」
本当はまだ仕事中だったんじゃないかとか、邪魔したんじゃないかと色々と考えが浮ぶ。ただ確かにこのまま放置されても、迷うのは目に見えている。申し訳なく思いながらも、頭を下げた。
「お仕事中ですよね? 俺は一人で帰れるので……」
今にも舌打ちしそうな表情をしているところを、勇気を総動員して声をかける。別に普通に声をかけるだけだ。怖がる必要はない。分かってはいるが、眉間にシワを寄せたシーディスさんには迫力がある。
「あーその……レイザード」
「なんでしょうか」
先生が去って行った方を眉間を寄せて見ていたシーディスさんが、眉を下げて歯切れ悪く俺の名を呼ぶ。
何か言い辛いことが、あるのだろうか。俺が何かしてしまったのかと考えて、盛大にやらかしたばかりなことを思い出す。
―― もしかして
あの貴重な鉱石に、傷がついたのだろうか。なんてことだ。弁償ものじゃないか。
払えるだろうか。貴重な鉱石で、高額な値段で取引されている。それだけで実際の値段は知らない。けれど俺が簡単に払える額じゃないのは、考えずとも分かる。
―― 言い出しにくいのだろうか
普通なら貴重なものを壊された。弁償しろって言えば、済むことだ。けどシーディスさんは、優しい人だから言えないのかも知れない。
―― 俺から言うか……
徹夜で商品を増産することに決めて、意を決して口を開く。
「申し訳ありません。必ず弁償します」
「すまなかった」
頭を下げて謝罪を口にすると、何故かシーディスさんが謝ってくる。意味が分からない。
「えっ?」
「弁償? なんのことだ」
多分同時に、頭を上げたらしい。困惑顔のシーディスさんと、視線が合う。俺もだいぶ意味が分からなくて、疑問符が浮んでいるんだが伝わっているだろうか。
「この前、貸していただいた鉱石に、傷がついたんじゃ……」
「傷? いや、ついてないが。そもそもついたとしても、弁償なんて言うわけないだろう」
心底ほっとした。思わず溜息がもれそうになって、なんとか堪える。
けれどならば、なんで謝ってきたのだろうか。余計に意味が、分からない。
「俺が余計なものを渡したせいで、嫌な思いをさせただろう。本当に済まなかった」
「えっ……」
また謝られてバグのせいで、おかしいことになったのを思い出す。ただアレはシーディスさんに、非のあることじゃない。全てバグと、影響された俺が悪い。
「あの謝罪は、必要ないです。シーディスさんは、悪く無いので……あれは」
なにか良い言い訳を考えようとしたが、何も思い浮かばない。表情筋どころか、脳みそまで仕事をしなくなったらしい。
「レイザード……いや、そうだな。すまなかった」
「いえ」
また謝らせてしまった。俺がもっとこう口が上手ければ、せめてジルベールの1割でもコミュ力が高ければ、こんな顔させずに済んだろうに。一瞬だが辛そうな顔をした、シーディスさんに胸が痛む。
「……帰るか」
「はい、あのお仕事中ですよね」
気をつかってくれたのか。表情を和らげて、先生が去った方に視線を向けた。そのまま続きそうになって、最初に気になったことを再度問う。
「いや、もう話は済んだ。だからせめて安全なところまで、送らせてくれ」
「ありがとうございます。お願いします」
本当はまだ仕事中だったんじゃないかとか、邪魔したんじゃないかと色々と考えが浮ぶ。ただ確かにこのまま放置されても、迷うのは目に見えている。申し訳なく思いながらも、頭を下げた。
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