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<シーディス>ルート
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あの後、本来の目的を思い出した。シーディスさんにお金を返しに来たのだという大事な用事だ。道ばたで金銭の受け渡しをするのもなんだからと、ギルドまでやってきた。シーディスさんの仕事部屋まで来て、すすめられて椅子に座ったときだ。ノックが聞こえて、男の人が入って来た。
「ロードストと、申します」
―― 渋イケ執事
声に出さなかった自分を、褒めてやりたい。
シーディスさんの補佐をしていると言って頭を下げたその人は、なんというか執事服の似合いそうな風貌をしていた。実際には、着ていない。俺が脳内で想像しただけである。
合うのは初めてではない。前にシーディスサンを尋ねたときに、案内してくれ事がある。その時も執事服が、似合いそうだなと思っていた。
「レイザートと申します。いきなりお邪魔して、すいません」
「いえいえ、いつでもおいで下さい。大歓迎ですので」
なんか凄く品のある人だったから、失礼にならないように名乗って返す。
―― 大歓迎?
何故かニコニコと微笑みながら、返された言葉に疑問が浮ぶ。社交辞令だろうか。
「ロードスト」
「これは、失礼いたしました」
頭が痛むのだろうか。眉間を押さえたシーディスさんが、少し声を強めた。
―― なんか良い雰囲気だな
顔に迫力があるシーディスさんが、眉間にシワを寄せている。ぱっと見ただけなら、怖い状況だ。けどちょっとしたやりとりで、二人の間に信頼関係があるのが分かる。
「ところでレイザード様。もし宜しければ、お好みの茶葉を教えていただけますか。それと、お好きな茶菓子も教えていただければ幸いです」
「えっ、はい……」
―― なぜ様付け?
俺はお客じゃない。シーディスさんと、仕事の話をしているわけでもない。借金の一部を返しに、来ただけだ。そんな俺に様という敬称をつける意味が分からない。
ただなんというか穏やかなのに、有無を言わさぬ雰囲気の笑顔に好みの茶と菓子を答えていた。
「すぐにお持ちしますね。少々お待ちください」
「お願いします……」
笑顔を浮かべたまま去って行くロードスとさんと、後ろで溜息をついているシーディスさんの対比が失礼だが面白い。
―― 結構ですって、言える雰囲気じゃなかったな
ただでさえシーディスさんは、忙しい人だ。持ってきた金を返して、すぐに帰るつもりだった。けど部屋に入ってきてから、ずっと笑顔を向けられ続けていたせいで言い出せず終いだ。
―― 壊したら、借金が増える
忘れる前に返そうと鞄をあけたとき、タイミングを見計らったようにロードストさんが戻ってくる。その手にある茶器も菓子を乗せた食器も、ものすごく高そうに見えた。あとお菓子もどこかの高級な店のだろうか。なんか細かい飴細工みたいな飾りと、お洒落な見た目をしていた。なんというか俺に出すには、とてつもなく不釣り合いな気がするものだ。
「悪い。嫌じゃなければ、食べてやってくれ。あいつ茶を入れるのと、菓子を作るのが趣味なんだ……」
「はい。ありがとございます。いただきます」
驚いたことに手作りらしい。執事じゃなくて、パティシエ……いやそもそも、執事じゃないな。
―― 戻ってきてから溜息の回数多いな。
ごゆっくりと言い残してロードストさんが、去って行った方を見て溜息をついている。
―― 疲れているのだろうか
忙しい人だしな。イベントでは忙しさがたたって、倒れるのもあった。もったいなきがするけど、速攻で間食して帰ることにしよう。
「うま……おいしいです」
「そうか、そいつは良かった」
お邪魔したあげくに持て成しってもらって、感想が美味い。言葉遣いが適切じゃない気がして言い直すと、なんでそんなに優しい顔をするのかって思うほど穏やかな笑みを浮かべたのが見えた。
「ロードストと、申します」
―― 渋イケ執事
声に出さなかった自分を、褒めてやりたい。
シーディスさんの補佐をしていると言って頭を下げたその人は、なんというか執事服の似合いそうな風貌をしていた。実際には、着ていない。俺が脳内で想像しただけである。
合うのは初めてではない。前にシーディスサンを尋ねたときに、案内してくれ事がある。その時も執事服が、似合いそうだなと思っていた。
「レイザートと申します。いきなりお邪魔して、すいません」
「いえいえ、いつでもおいで下さい。大歓迎ですので」
なんか凄く品のある人だったから、失礼にならないように名乗って返す。
―― 大歓迎?
何故かニコニコと微笑みながら、返された言葉に疑問が浮ぶ。社交辞令だろうか。
「ロードスト」
「これは、失礼いたしました」
頭が痛むのだろうか。眉間を押さえたシーディスさんが、少し声を強めた。
―― なんか良い雰囲気だな
顔に迫力があるシーディスさんが、眉間にシワを寄せている。ぱっと見ただけなら、怖い状況だ。けどちょっとしたやりとりで、二人の間に信頼関係があるのが分かる。
「ところでレイザード様。もし宜しければ、お好みの茶葉を教えていただけますか。それと、お好きな茶菓子も教えていただければ幸いです」
「えっ、はい……」
―― なぜ様付け?
俺はお客じゃない。シーディスさんと、仕事の話をしているわけでもない。借金の一部を返しに、来ただけだ。そんな俺に様という敬称をつける意味が分からない。
ただなんというか穏やかなのに、有無を言わさぬ雰囲気の笑顔に好みの茶と菓子を答えていた。
「すぐにお持ちしますね。少々お待ちください」
「お願いします……」
笑顔を浮かべたまま去って行くロードスとさんと、後ろで溜息をついているシーディスさんの対比が失礼だが面白い。
―― 結構ですって、言える雰囲気じゃなかったな
ただでさえシーディスさんは、忙しい人だ。持ってきた金を返して、すぐに帰るつもりだった。けど部屋に入ってきてから、ずっと笑顔を向けられ続けていたせいで言い出せず終いだ。
―― 壊したら、借金が増える
忘れる前に返そうと鞄をあけたとき、タイミングを見計らったようにロードストさんが戻ってくる。その手にある茶器も菓子を乗せた食器も、ものすごく高そうに見えた。あとお菓子もどこかの高級な店のだろうか。なんか細かい飴細工みたいな飾りと、お洒落な見た目をしていた。なんというか俺に出すには、とてつもなく不釣り合いな気がするものだ。
「悪い。嫌じゃなければ、食べてやってくれ。あいつ茶を入れるのと、菓子を作るのが趣味なんだ……」
「はい。ありがとございます。いただきます」
驚いたことに手作りらしい。執事じゃなくて、パティシエ……いやそもそも、執事じゃないな。
―― 戻ってきてから溜息の回数多いな。
ごゆっくりと言い残してロードストさんが、去って行った方を見て溜息をついている。
―― 疲れているのだろうか
忙しい人だしな。イベントでは忙しさがたたって、倒れるのもあった。もったいなきがするけど、速攻で間食して帰ることにしよう。
「うま……おいしいです」
「そうか、そいつは良かった」
お邪魔したあげくに持て成しってもらって、感想が美味い。言葉遣いが適切じゃない気がして言い直すと、なんでそんなに優しい顔をするのかって思うほど穏やかな笑みを浮かべたのが見えた。
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