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渋谷かな

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決めゼリフ!?

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「みんな!? どうしよう!? 大変なの!?」
 苺は、いつものように慌てて、ライト文芸部の部室に駆け込んだ。
「どうしたの? 苺ちゃん。」
 2年の宇賀神麗(うがじんうらら)が、いつものように尋ねる。麗はライト文芸部の副部長である。
「いつものように厄介事を持ち込んだに決まっています。」
 1年の小田急大蛇(おだきゅうおろち)が、苺が駆け込んでくるのは、いつものパターンだと言っている。
「どうしたんですか? 苺ちゃん。怒らないから言ってごらん。ニコッ。」
 同じく1年の越後谷笑(えちごやえみ)が、子供をあやす様に苺を扱う。
「実は、天が私が主役の作品がスランプで書けないって言ってるの。クスン。」
 苺は、悲しくて思わず涙ぐむ。
「何だって!?」
「あの部長が書けないだと!?」
「私たちの出番に関わってくるじゃないか!?」
 ライト文芸部の部員たちは衝撃を受ける。
「ご安心して下さい。いざという時は私がシャドーライターになり、部長の代わりに書きますから。」
「そうだわ! 私にはカロヤカさんがいたんだわ!」
 1年の軽井沢花。仇名をカロヤカさんと呼ぶ。才色兼備、文武両道、悠々自適、顔面骨折、何でもできるスーパーな女子高生である。
「ありがとう! カロヤカさん!」
「カロヤカにお任せあれ。」
 苺の悩み事は消えた。役に立たない天より、カロヤカさんの方が頼りになるのだ。
「はい! みなさん! 今日の和菓子は、甘くておいしい干し柿ですよ! もちろんお茶もありますよ! エヘッ。」
 本物の幽霊おみっちゃんは、ライト文芸部の部室に住んでいる約1000年前の幽霊さんである。
「今回の悩み主は、ライト文芸部の部長の天なので、彼女は、相談者の苺がライト文芸部に相談に来た時にはいない。それよりも自分たちの部室に、本物の幽霊がいることを不思議に思わない方が問題だ。あ、私は食べたら帰るからね。」
 桑原幽子。籍だけライト文芸部の帰宅部員であり、茶菓子とお茶だけは飲んで帰る優等生。
「良かった。戦闘シーンや、乱闘シーンもなく、無事に天の悩みを解決できたわ。」
 苺には、ライト文芸部という頼もしい仲間がいる。

「何とかできたなな。起承転結の転。それよりも私が第1回目のゲストとは満足じゃ! カッカッカ!」
 天は、作品よりも自分の見栄えを優先する。
「流れは、こんな感じでいいんじゃない。」
 麗は、可もなく不可もなくで妥当な出来であると言っている。
「私、少しきつい嫌われ役なんですけど? 何とかなりませんか?」
 大蛇は、真面目なだけである。
「私は満足ですよ。ニコッが良い具合に使われています。ニコッ。」
 笑は、良いポジションをゲットした。
「カロヤカさんがいてくれて良かった。」
 苺は、自身の主演作が形になって喜んだ。
「カロヤカにお任せあれ。」
 カロヤカさんは、いつも軽快にマイペースだ。
「みなさん! 今日の和菓子は、お多福豆ですよ! もちろんお茶もありますよ! ニコッ。」
 本物の幽霊おみっちゃんは、どこから和菓子を持ってくるのだろう。
「後はオチだ。苺ちゃんが天に悩み解決を伝える時の言葉に全てがかかっている。毎回変えるのか? それとも一言で毎回同じ言葉を言うのか? 全ては主役の苺ちゃんにかかっている! あ、私は食べたら帰るからね。」
 幽子は、ライト文芸部のことが好きなのか嫌いなのか分からない。
「さあ! ショートコント・スタート!」
「食べたら帰るから先に言っとくけど、苺物語は、ライト文芸部が出て来なかったら、今頃2万字は書けているよな。絶対の絶対に書けているよな。」
「それを言っちゃあおしまいよ。」
「そうよ。私たちの存在価値がない・・・クスン。」
「気を取り直して、苺ちゃんの決めゼリフを考えよう!」
「おお!」
「決めゼリフといえば、おまえはもう死んでいる! アベシ!」
「太陽に向かって走ろう! これが青春だ!」
「おら、ワクワクするぞ!」
「月に変わってお仕置きよ!」
「ボールは友達。」
「俺は巨人を駆逐する!」
「俺は海賊王になる!」
「私、失敗しないので!」
「控え! 控え! このお方をどなたと心得る! 先の副将軍! 水戸光圀公であらせられるぞ! 頭が高い! 控え!」
「文字にすると、決めゼリフって、パッとしないな。」
「やはり、マンガやアニメ、ドラマの絵があって迫力を感じるんだな。」
「絵の関係者の制作、監督、演出など皆、偉いわ。」
「で、苺ちゃんの決めゼリフは決まったの?」
「苺ちゃんが悩みの解決方法を天に言って、最後は、苺を食べるかどうか進める。それを天は、共食いだと言って、笑顔で走って去って行く。そこで苺ちゃんが青春っていいな、私にも若い頃があったな。この辺でいいな。きれいなエンディングだな。」
「苺ちゃんには、もったいない。」
「そうそう。苺ちゃんの物語じゃないみたいだ。」
「こらこら、おまえたち。自分の部活の顧問をなんと思っているんだ? おまえたちの宿題を100倍にするぞ。」
「それが苺ちゃんだよ。」
「パワハラが苺ちゃんだ。」
「苺ちゃん、どんなにきれいに生き直そうとしても、前科は消えないんだよ。」
「ウオオオオオー!? ここは我慢しなければ!? 不祥事を起こしては、私の主演作が無くなってしまう!? 我慢だ!? 我慢だ!?」
「うわ、本物の女優さんみたいに表にいる時は、優しそうな顔をして、裏では他人の悪口ばかり言ってるみたいだ。」
「性格の悪さが出ている・・・。」
「私が苺で何が悪い!」
「開き直った!?」
「さすが苺ちゃんね。」
「遊びはやめて、この話で起承転結の結を書いてしまおう!」
「おお!」

「お待たせ!」
 悩みの解決方法を持って、苺が天の元へ帰って来た。
「あなたの悩みを、私が解決してあげよう!」
「苺ちゃんが~?」
 天は、苺に自分の悩みが解決できるとは思わないので、疑いの眼差しを向ける。
「耳を貸して。」
 苺は、手招きで天に耳を近づけるように指示する。
「ほうほう。」
 天は、半信半疑で苺に耳を傾ける。
「いつまでもメソメソ悩んでいろ。あなたの代わりはいくらでもいる。」
 苺は、予想外に低い声で天を脅迫する。実際に天が苺の作品を書かないのなら、カロヤカさんが苺の作品を書くのである。
「ゾクッと!?」
 天は、苺の言葉と声を聞いて、背筋がゾクっと寒気を感じる。
「苺、食べる? 美味しいよ。」
 苺は、手に苺を持っていて、天に勧める。
「苺の共食いだー!?」
 天は、苺に恐怖を感じ、思わず走って、その場から逃げ出す。
「そうだ! 私が苺ちゃんの新作を書かないと、誰かが代わりに書いてしまう! 私の居場所は、私が守らないと!」
 天は、悩んでいるのがバカバカしくなった。悩んで動けなくなるより、苺の作品を書いた方が良いと悩みの答えを出して、頭の中がスッキリとした。 
「青春っていいな、私にも若い頃があったな。いいな。」
 天の悩み事は、見事に苺が解決した。
「三十路で独身はヤバイな。売れ残りだ。誰か私の悩みを解決してくれ!?」
 苺の悩みは、結婚するまで解決されることはない。
 つづく。
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