33 / 133
5.共通項
2
しおりを挟む
田中の出席番号って何番だっけ。
大体の数字を数える。
多分この辺、と思う2つ。
上向きに開く形式の下駄箱の蓋。そのつまみに触れる。
両手の指先に力を入れ、勢いよく手前に引いた。
田中の前は瀬古、後ろは田室。二人とも細身で小柄だ。
上下二つのうち、一方のスリッパに目をつける。
底のウレタンのへこみ方が多め。
こっちかな。
ふたをいったん降ろし、容疑者でないほう――たぶん瀬古の――をしっかりと閉じる。
そして下の段のつまみを改めて。今度は、ゆっくりと。
禁断の扉は錆をパラリと落としながら腕の動きに合わせて上向きに開いていく。
が、そこにあるのはスリッパだけだった。
下の段にスリッパ、真ん中に金属の網目。
あのクラフト封筒はない。
間違えたか? 何かないか。
田中の思われる下駄箱の輪郭全体をくるっと見回した。
…なんだこれ。
左上の端に何かが飛び出ている。
笑みがこぼれそうになるのを抑え、田中と同じように後ろ、左右を確認する。
誰もいない。
しゃがみ込んで上を見る。
ボール紙。
灰色のそれは下駄箱の上、金属がえぐれたところに挟まっている。
左端だけちょっと飛び出ていたために見えてしまったようだ。
大きさは下駄箱の天井とぴったり一致している。
つまり二重天井。
腰よりも下にあるこの下駄箱なら、立った状態だと上部分が完全に死角になる。
下の段のやつほど朝も帰りも人の邪魔にならないように、さっと靴だけ持ってすぐに立ち去るのが常だ。
そもそも大抵のやつは他人の下駄箱の中身なんてしげしげ見ないしな。
じゃあ、例のブツは、ここに?
ん~でも不用意に外すわけにも。どうするか。
…よし。
意を決してそっとそのボール紙を上に押した。
何かある。厚みのある何かが。指を滑らす。端のあたりに段差を感じるような?
多分、いや。
これ以上はやめたほうが。
でも。
考えのふらつきとは逆に、体は後ろと左右をもう一度確認していた。
誰もいない。
改めて視界に下駄箱を入れる。
葛藤と、脳裏に浮かんでは消えしていた言葉たちは消えた。
ボール紙の端を少しだけゆがませる。
分厚い。ボール紙の厚さじゃない。
にもかかわらず、紙の端は思っていたよりも楽に曲がった。
それはそうなるように付けられた折り痕が紙にあったからに他ならない。
裏側は段ボール。しかも針金補強付き。雑誌ぐらいのせても問題なさそうな強度になっている。
ふたの端にさっき感じた段差は段ボールよりボール紙が一回り大きくはみ出ていた部分で、中身とは無関係だった。
でも、中身は確信していいだろう。
風紀担当の先生の代わりになったような気分で、パンドラの箱の蓋を開けた。
現れたのは。
見慣れた良い笑顔の擬人化猫・ネズミ・ペンギンの表紙。
英語の副教材のワークブック。
えー…。
さっきまでの威勢がしゅるしゅると萎えていく。
いやぁ、またまたぁそんなぁ~。裏があるんでしょ、まだ。
改めてそっとボール紙を押した。
本当の天井に当たって止まった時の厚みはワークブックの分だけ。
どう考えてもその一冊しか入っていなかった。
手早くボール紙をもとに戻し、下駄箱の蓋を下ろす。
力を入れて押すと、がちゃんと閉まる音がした。
帰ろう。
振り返ると職員室の前に風紀主担当の先生が立っている。
もしかして俺さっきの田中状態になってないか。
国語教師でチビで眼鏡。通称チビメは、ドアに立ち止まって職員室内の誰かと話しているようだ。
アウト? セーフ?
先生はタイトスカートから覗く足を前後に動かして、頭・ウエスト・足首でひし形を描くシルエットそのままに職員室から、そして同じく俺から遠ざかっていく。
多分セーフ。
あの先生のことだ。もし見ていたとするとこっちに歩いて来ただろう。
すごい厳しいというわけじゃないけど、現行犯は逃がさない。
よかった。
ちなみに副担当のホームベース――顔の形が。しかも体育担当――だとすごい厳しいので、踏んだら一発でスリーアウトと言われている。
6限に続いて今日はツいてるな俺。
しかし謎は謎のまま。
校門を出ても大通りに出ても頭の中には葛藤に変わって『なぜ』の二文字だらけ。
あの封筒は?
予想ではエロ本――今朝買ってコンビニの袋から詰め替えた――なんだけど、違うのか?
それに英語って結構な頻度であるから、ワークブックあそこに置いてくと結構面倒だ。
ロッカーに置いといたほうがいいのに。
鍵もかかるし。うん。
確かに持ち物検査が入ったりしたらロッカーは開けて見られる。
英語のワークブックは家に持って帰れ令出てるから見つかるとねちっと小言言われる。
でもその程度。
割とみんな懲りずにやってるよな。
エロ本とかゲームみたいに学校生活に不要なわけじゃない。授業で使う立派な教材だ。
わざわざ持ち物検査が入らない下駄箱に隠す必要あるか?
めんどくさいばっかりじゃないか。
フラワーアンジーをぼんやりと通り過ぎる。
やっぱ、すっきりしない。
そうだよな。あんな精巧な二重天井まで作るほどのもんじゃない。
盗むやつなんていないし。
何なら網の上に直置きでもあのワークブックならダイジョブな気がする。
ちょっとした仮説を思い立ったのは、もやもやしながら家の前の小道に入ったときだ。
まて。整理してみよう。
大体の数字を数える。
多分この辺、と思う2つ。
上向きに開く形式の下駄箱の蓋。そのつまみに触れる。
両手の指先に力を入れ、勢いよく手前に引いた。
田中の前は瀬古、後ろは田室。二人とも細身で小柄だ。
上下二つのうち、一方のスリッパに目をつける。
底のウレタンのへこみ方が多め。
こっちかな。
ふたをいったん降ろし、容疑者でないほう――たぶん瀬古の――をしっかりと閉じる。
そして下の段のつまみを改めて。今度は、ゆっくりと。
禁断の扉は錆をパラリと落としながら腕の動きに合わせて上向きに開いていく。
が、そこにあるのはスリッパだけだった。
下の段にスリッパ、真ん中に金属の網目。
あのクラフト封筒はない。
間違えたか? 何かないか。
田中の思われる下駄箱の輪郭全体をくるっと見回した。
…なんだこれ。
左上の端に何かが飛び出ている。
笑みがこぼれそうになるのを抑え、田中と同じように後ろ、左右を確認する。
誰もいない。
しゃがみ込んで上を見る。
ボール紙。
灰色のそれは下駄箱の上、金属がえぐれたところに挟まっている。
左端だけちょっと飛び出ていたために見えてしまったようだ。
大きさは下駄箱の天井とぴったり一致している。
つまり二重天井。
腰よりも下にあるこの下駄箱なら、立った状態だと上部分が完全に死角になる。
下の段のやつほど朝も帰りも人の邪魔にならないように、さっと靴だけ持ってすぐに立ち去るのが常だ。
そもそも大抵のやつは他人の下駄箱の中身なんてしげしげ見ないしな。
じゃあ、例のブツは、ここに?
ん~でも不用意に外すわけにも。どうするか。
…よし。
意を決してそっとそのボール紙を上に押した。
何かある。厚みのある何かが。指を滑らす。端のあたりに段差を感じるような?
多分、いや。
これ以上はやめたほうが。
でも。
考えのふらつきとは逆に、体は後ろと左右をもう一度確認していた。
誰もいない。
改めて視界に下駄箱を入れる。
葛藤と、脳裏に浮かんでは消えしていた言葉たちは消えた。
ボール紙の端を少しだけゆがませる。
分厚い。ボール紙の厚さじゃない。
にもかかわらず、紙の端は思っていたよりも楽に曲がった。
それはそうなるように付けられた折り痕が紙にあったからに他ならない。
裏側は段ボール。しかも針金補強付き。雑誌ぐらいのせても問題なさそうな強度になっている。
ふたの端にさっき感じた段差は段ボールよりボール紙が一回り大きくはみ出ていた部分で、中身とは無関係だった。
でも、中身は確信していいだろう。
風紀担当の先生の代わりになったような気分で、パンドラの箱の蓋を開けた。
現れたのは。
見慣れた良い笑顔の擬人化猫・ネズミ・ペンギンの表紙。
英語の副教材のワークブック。
えー…。
さっきまでの威勢がしゅるしゅると萎えていく。
いやぁ、またまたぁそんなぁ~。裏があるんでしょ、まだ。
改めてそっとボール紙を押した。
本当の天井に当たって止まった時の厚みはワークブックの分だけ。
どう考えてもその一冊しか入っていなかった。
手早くボール紙をもとに戻し、下駄箱の蓋を下ろす。
力を入れて押すと、がちゃんと閉まる音がした。
帰ろう。
振り返ると職員室の前に風紀主担当の先生が立っている。
もしかして俺さっきの田中状態になってないか。
国語教師でチビで眼鏡。通称チビメは、ドアに立ち止まって職員室内の誰かと話しているようだ。
アウト? セーフ?
先生はタイトスカートから覗く足を前後に動かして、頭・ウエスト・足首でひし形を描くシルエットそのままに職員室から、そして同じく俺から遠ざかっていく。
多分セーフ。
あの先生のことだ。もし見ていたとするとこっちに歩いて来ただろう。
すごい厳しいというわけじゃないけど、現行犯は逃がさない。
よかった。
ちなみに副担当のホームベース――顔の形が。しかも体育担当――だとすごい厳しいので、踏んだら一発でスリーアウトと言われている。
6限に続いて今日はツいてるな俺。
しかし謎は謎のまま。
校門を出ても大通りに出ても頭の中には葛藤に変わって『なぜ』の二文字だらけ。
あの封筒は?
予想ではエロ本――今朝買ってコンビニの袋から詰め替えた――なんだけど、違うのか?
それに英語って結構な頻度であるから、ワークブックあそこに置いてくと結構面倒だ。
ロッカーに置いといたほうがいいのに。
鍵もかかるし。うん。
確かに持ち物検査が入ったりしたらロッカーは開けて見られる。
英語のワークブックは家に持って帰れ令出てるから見つかるとねちっと小言言われる。
でもその程度。
割とみんな懲りずにやってるよな。
エロ本とかゲームみたいに学校生活に不要なわけじゃない。授業で使う立派な教材だ。
わざわざ持ち物検査が入らない下駄箱に隠す必要あるか?
めんどくさいばっかりじゃないか。
フラワーアンジーをぼんやりと通り過ぎる。
やっぱ、すっきりしない。
そうだよな。あんな精巧な二重天井まで作るほどのもんじゃない。
盗むやつなんていないし。
何なら網の上に直置きでもあのワークブックならダイジョブな気がする。
ちょっとした仮説を思い立ったのは、もやもやしながら家の前の小道に入ったときだ。
まて。整理してみよう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~
中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」
ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。
社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。
そんな彼がある日、突然異世界に転生した。
――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。
目覚めた先は、王都のスラム街。
財布なし、金なし、スキルなし。
詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。
「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」
試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。
経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。
しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、
王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。
「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」
国王に乞われ、王国財務顧問に就任。
貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、
そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。
――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。
異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる