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8.第四界
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なんだこれ。
線と面。
丸、三角、四角、弧、波、球。
柱、壁、窓、天井。
バラバラのような全部は、一体になった一部。
ランダムな形のベニヤのようなものが柱のようなものにつぎはぎで貼り付いており、壁とも柱とも天井とも地面とも付かない何かを形成している。
ところどころから覗く窓や鏡やオブジェや写真は、どれが窓でどれが鏡でどれがオブジェでどれが写真かなんて金輪際どうでもいい、そう訴えかけるようだ。
思いの外高い天井に伸びる柱のようなーーたまたま今、視界の中央にあるーーいくつもの形がつくるそれは、何かを伸ばしたような、いや何かが降りてきたような。
んん…違うな…壁と柱があるって言うより、閉じていた何かの塊が俺達に道を開けてるような。
ところどころに黒や赤で模様のようなものも見受けられて。
一つ一つを見ると違和感の塊でしかないのに、つぎはぎで出来た全体は奇妙な統一感を醸し出していた。
部屋、なのか?
人が生活できるとは到底思えない。
だいぶ頭おかしい。
というか、頭おかしい人の部屋イコールこの部屋って感じ。
こりゃ武藤さんの混乱具合、相当だぞ。
出口になりそうな窓から出られるのか気になるけど、この様相だと足を一歩踏み出すのがさっき以上にリスキーな気がする。
「出れそう?」
コウダに声をかけるものの、見入ってて全然聞いてない。
肩を思いっきり叩くとびくっとなった。
「ああ、悪い」
あぶないあぶないって今まで散々言ってたのにこの始末。
結局自分が見たいもんは見たいんじゃないかよ。
「これさ、どうやって出るの?」
実のところ今入ってきたところと窓以外に出口が見当たらない。
窓が開けられなければ、引き返すことになり、そうすると、
「コウダがこっちに入るのと入れ違いくらいで、道の向こうから武藤さんがこっちに沿って歩いてきてた。
もしかしたらここに入ってくるかも」
コウダが真っ青になった。
俺も言ってから超重大事項だってことを再認識。
窓。
もうそれしか。
窓の外っていったって、見える限り屋内。
手摺りが付いた鏡張りの部屋が広がってるだけなんだけど、それでも後退るよりは大分安全に思えた。
「向こう見てくる」
背後から歩いてきてたはずの武藤さんの足音がしないのが気掛かりではあるものの、足元を確認しつつ手で前後左右の出っ張りにぶつからないようにしつつ、コウダは入り口へと向かっていった。
俺はまた後方確認。
入ってきた所の角の下のほうにしゃがみ込む。
人の気配はない。
部屋の中には低いところも高い所も突起に満ちている。
紐、ひっかかったりしないかなぁ。
再び入り口の廊下を見て、コウダを見ると、さっきと同じようにまた手招きしていた。
よかった。
ほっとしてコウダに駆け寄ったその時。
窓の外にさっき見たのと同じ人影。
思わずコウダの手を引っ張り、窓を背にしてしゃがみ込んだ。
「うわっ」
片膝をつきながらびっくりして俺を見たコウダ。
「本人!」
ああ? と悪態をつきながら窓枠の下の方から外を見るや、慌てて俺の横に窓の方を向いたまましゃがみ込んだ。
窓枠の下はさほどスペースがない。上半身がほぼ出てしまう。
阿吽の呼吸で左右に分かれた。
武藤さんはさっき確かにあの湾曲した廊下を歩いてたから。
あの先が更に変化して道ができたか、どっかにどんでん返し的なのがあったのか。
はたまた佐藤のときみたく、武藤さんが複数人いるか。
とにかくこれで、まどから外に出る計画は断念に近づいてしまった。
いま座ってる正面からは入り口が見えた。窓も多少見える。
あと、天井付近に丁度45度分欠けた黒い円の模様がある柱が見えるけど。
それは天井から逆三角形のような形態で垂れ下がっていた。
見てない間も部屋の中は変化してないようだった。
コウダのほうからだと入り口は見えそうもないけど、窓の外はばっちりだろう。
あの状況からさっと移動した割にはお互いナイスポジショニングだった様に思えた。
その窓の外から、また足音がする。
とっとっとっとっ
びっくりしたせいであんまり見てなかったけど、床を歩くこの音。
窓の外は屋外じゃなくて屋内だったのか。
足音は武藤さんだろう。さっき見た時彼女一人だったし。
どこにいくのか。
そう思ってると、武藤さんの足音が止まった。
「何やってるの?」
武藤さんの普段の声とよく似た、でも違う声がする。
多分また例によって武藤さん自身の『中』の声か。
このきっつい言い方は彼女そのものだ。間違いない。
「申し訳ありませんでしたお母様」
あれ? もう一つ声? しかも『お母様?』
コウダがこっちを見ている。
左手でピースしながら、かすかに声を出して口パク
『べ・つ・の・ひ・と・も・い・る』
おっとぉ…。ピースじゃなくて二人ってことね。
ちょっとだけ窓のほうを見て、引っ込んだ。
誰か分かった。
こっちもかすかに声をだして口パク。
『お・か・あ・さ・ん』
一瞬固まったコウダはちらりと窓を見て腹這いになり、ほふく全身で俺の方に寄ってきた。
外では声がする。
「申し訳ありませんじゃないでしょ。
週5のレッスンのうち、先生がいらっしゃってさっきまで聞いてて、御帰宅されたその直後にもうこの体たらくって」
「申し訳ありません」
線と面。
丸、三角、四角、弧、波、球。
柱、壁、窓、天井。
バラバラのような全部は、一体になった一部。
ランダムな形のベニヤのようなものが柱のようなものにつぎはぎで貼り付いており、壁とも柱とも天井とも地面とも付かない何かを形成している。
ところどころから覗く窓や鏡やオブジェや写真は、どれが窓でどれが鏡でどれがオブジェでどれが写真かなんて金輪際どうでもいい、そう訴えかけるようだ。
思いの外高い天井に伸びる柱のようなーーたまたま今、視界の中央にあるーーいくつもの形がつくるそれは、何かを伸ばしたような、いや何かが降りてきたような。
んん…違うな…壁と柱があるって言うより、閉じていた何かの塊が俺達に道を開けてるような。
ところどころに黒や赤で模様のようなものも見受けられて。
一つ一つを見ると違和感の塊でしかないのに、つぎはぎで出来た全体は奇妙な統一感を醸し出していた。
部屋、なのか?
人が生活できるとは到底思えない。
だいぶ頭おかしい。
というか、頭おかしい人の部屋イコールこの部屋って感じ。
こりゃ武藤さんの混乱具合、相当だぞ。
出口になりそうな窓から出られるのか気になるけど、この様相だと足を一歩踏み出すのがさっき以上にリスキーな気がする。
「出れそう?」
コウダに声をかけるものの、見入ってて全然聞いてない。
肩を思いっきり叩くとびくっとなった。
「ああ、悪い」
あぶないあぶないって今まで散々言ってたのにこの始末。
結局自分が見たいもんは見たいんじゃないかよ。
「これさ、どうやって出るの?」
実のところ今入ってきたところと窓以外に出口が見当たらない。
窓が開けられなければ、引き返すことになり、そうすると、
「コウダがこっちに入るのと入れ違いくらいで、道の向こうから武藤さんがこっちに沿って歩いてきてた。
もしかしたらここに入ってくるかも」
コウダが真っ青になった。
俺も言ってから超重大事項だってことを再認識。
窓。
もうそれしか。
窓の外っていったって、見える限り屋内。
手摺りが付いた鏡張りの部屋が広がってるだけなんだけど、それでも後退るよりは大分安全に思えた。
「向こう見てくる」
背後から歩いてきてたはずの武藤さんの足音がしないのが気掛かりではあるものの、足元を確認しつつ手で前後左右の出っ張りにぶつからないようにしつつ、コウダは入り口へと向かっていった。
俺はまた後方確認。
入ってきた所の角の下のほうにしゃがみ込む。
人の気配はない。
部屋の中には低いところも高い所も突起に満ちている。
紐、ひっかかったりしないかなぁ。
再び入り口の廊下を見て、コウダを見ると、さっきと同じようにまた手招きしていた。
よかった。
ほっとしてコウダに駆け寄ったその時。
窓の外にさっき見たのと同じ人影。
思わずコウダの手を引っ張り、窓を背にしてしゃがみ込んだ。
「うわっ」
片膝をつきながらびっくりして俺を見たコウダ。
「本人!」
ああ? と悪態をつきながら窓枠の下の方から外を見るや、慌てて俺の横に窓の方を向いたまましゃがみ込んだ。
窓枠の下はさほどスペースがない。上半身がほぼ出てしまう。
阿吽の呼吸で左右に分かれた。
武藤さんはさっき確かにあの湾曲した廊下を歩いてたから。
あの先が更に変化して道ができたか、どっかにどんでん返し的なのがあったのか。
はたまた佐藤のときみたく、武藤さんが複数人いるか。
とにかくこれで、まどから外に出る計画は断念に近づいてしまった。
いま座ってる正面からは入り口が見えた。窓も多少見える。
あと、天井付近に丁度45度分欠けた黒い円の模様がある柱が見えるけど。
それは天井から逆三角形のような形態で垂れ下がっていた。
見てない間も部屋の中は変化してないようだった。
コウダのほうからだと入り口は見えそうもないけど、窓の外はばっちりだろう。
あの状況からさっと移動した割にはお互いナイスポジショニングだった様に思えた。
その窓の外から、また足音がする。
とっとっとっとっ
びっくりしたせいであんまり見てなかったけど、床を歩くこの音。
窓の外は屋外じゃなくて屋内だったのか。
足音は武藤さんだろう。さっき見た時彼女一人だったし。
どこにいくのか。
そう思ってると、武藤さんの足音が止まった。
「何やってるの?」
武藤さんの普段の声とよく似た、でも違う声がする。
多分また例によって武藤さん自身の『中』の声か。
このきっつい言い方は彼女そのものだ。間違いない。
「申し訳ありませんでしたお母様」
あれ? もう一つ声? しかも『お母様?』
コウダがこっちを見ている。
左手でピースしながら、かすかに声を出して口パク
『べ・つ・の・ひ・と・も・い・る』
おっとぉ…。ピースじゃなくて二人ってことね。
ちょっとだけ窓のほうを見て、引っ込んだ。
誰か分かった。
こっちもかすかに声をだして口パク。
『お・か・あ・さ・ん』
一瞬固まったコウダはちらりと窓を見て腹這いになり、ほふく全身で俺の方に寄ってきた。
外では声がする。
「申し訳ありませんじゃないでしょ。
週5のレッスンのうち、先生がいらっしゃってさっきまで聞いてて、御帰宅されたその直後にもうこの体たらくって」
「申し訳ありません」
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