新説 六界探訪譚

楕草晴子

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11.ひとりきり

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 その時俺は弐藤さんの顔を見てた。
 どうしてか全く思い出せないんだけど。
 で。
 大きくて黒目勝ちの吊り上がった目。薄い眉毛。
 小柄で、手足、っていうか体全体が細くて色が白くて。
 顎と鼻と口が小さい。
 そのくせ顔が小さいわけではなく、寧ろ体と比例すると頭だけちょっとデカいような。
 あれ、これって?
 俺だけか? そう思ってんの。
 同意を取ろうと鈴木に、
『似てるよな。宇宙人に』
『は? 何が?』
『弐藤さん。
  エリア31? だっけ? そのへんの写真とかによくある…グレイ…だっけ?』
『…ああ!』
 ナイスリアクションの鈴木の顔を見て、自分の勘の間違い無さにスッキリしたもんだった。
 最近見ても思う。
 中二になった俺と四月一日あたりが両サイドに立って手をとったら、完全に一致! って。
 まあでも、その時はそれで終わり。
 単なる感想。
 俺も、同意した鈴木も、だ。
 悪意があった訳では全くない。
 女子の見た目に対する評価として最悪だったのはそうだろうけど、別に誰にも聞こえちゃいなかったんだろうし。クラスに広がる事もなかったんだからなおのことだ。
 鈴木もーーちゃんとLINEについてけてて、割とそういう情報を俺に連携してたーー『宇宙人』が普及してるなんてこと一回も話題に上げてなかったし。
 それがどういうわけか普及しちゃったのが今年。多分イジメ首謀者群の奴等が似たようなことを思いついたんだろう。
 で、思い出したわけだ。
 そういや俺、去年そんなこと言った気がする、と。
 普及してきたことにびっくりしつつ、普及するまで思い出しもしなかった自分にもびっくりしつつ、勘はやっぱ間違い無かったと思いつつ。
 その頃弐藤さんをチラチラ横目で見ることが多くなってたなぁ。
 自分の中で後ろめたさだけがずんずん膨らんで、バランス取れなくなりそうってのが理由だけど。
 でも、いつ見ても、弐藤さんは普通だった。
『まじ宇宙人やめて~?』
 キャハハと笑う武藤さん一派に耳を貸すこともなく黙々と本を読む姿。
 数学でその章の練習問題欄の一番最後の方にある、多分一番難しい奴当てられても、前に出てさらっと答えを黒板に書き。
 こそこそなんか言いあってるヤロー共に怯むことなく振り返り、コケそうになりながらも、自席に戻る姿。
 ぺたぺたとスリッパの音を立てるあのクセのある歩き方。それを揶揄されても、おどおどしたりしない。
 ああいうのを『強い』って言うんだろう。
「正直、尊敬してるんだ」
 田中は濡れ衣であんなんあった後、コソコソしてるけど、弐藤さんはそういう事がない。
 多少挙動不審に見えるのも、多分ただの特徴でしかなくて。
 それが分かってて、自分で自分を受け入れてるように見える。
 周りの同級生と比べて一回り人間が大きい気がした。
 だから武藤さんの『中』で弐藤さんが崇められてるみたいだったのは、俺自身の価値観的には全然YES。
 俺が思ってる武藤さんの価値観からすると謎でしょうがなかったけど。
 …いや、謎はあの2人に限ったこっちゃないな。
 親父、母さん、川藤さん、矢島、四月一日、安藤さん、安藤の爺、佐藤、武藤さん、田中、コウダ、じいちゃんなどなど。
 全部引っ括めて、他人って謎だ。
 ああ、親とかを他人に含めるとアレか?
 いやいや、でも、自分じゃないって意味で他人だよ、うん。
 コウダは俺の弐藤さん評に口を挟んだ。
「ニトウさんもお前と同じく顔に出ないと思われてるだけかもしれん。
  が、まあしょうがない。他の候補案もないわけだしな」
 片膝をついて立ち上がったコウダ。ぱんぱんと尻をはたく。
 一仕事済んでほっとしたのは俺も同じ。
「じゃあ、来週火曜日にもう一回で、水曜日決行、本屋帰り、でいいね?」
「ん、それで決まりで」
 言って立ち去ったコウダの後ろ姿はもう見飽きてきた。
 横で欠伸してた犬も今やすっかり寝入ってて。
 飼い主は誰かと喋ってて。
 やる気ねぇなぁ。
 俺もか、と思い至ったのは真っ直ぐ家に帰って残った宿題のプリントを、流石にそろそろと取り出して暫くしたとき。
 全く捗らない。
 シャーペンをノックして芯をギリギリまで伸ばしては、人差し指でそーっと折らないように収納していると、多少落ちた黒鉛がプリントを汚した。
 だって、勉強、嫌いだ。
 プリントの汚れを丁寧に消しゴムで消すと、元々白かった回答欄が消しゴムに付いた黒鉛でさらに汚れ、プリントの真っ黒だった枠は多少白っぽくなった。
 だぁああっ!
 消しゴムを机上に放り投げると、厚紙の立体模型に当たってバウンドし、机の下に落ちる。
 ちっ。逆らいやがって。
 足元のそれを拾いに屈むのも面倒になり、この前いじってた基盤から生えるLEDの先端を指でなでて気を紛らわした。
 つるっとした手触り。
 消しゴムやシャーペンと違って基盤があるおかげで机から落っこちたり汚れたりしない。
 安心感に満たされ出したあたりで。
 ふと、全然関係ないことが気になった。
 次は弐藤さんで決まったけど、その次どうすんだ?
 田中? ひととなりってとこにスポットをあてて順当にチョイスすればそうだろう。
 でも背後を狙いにくそうという点が解消されてない。
 ほかは山田・向井になるわけだけど、他もいいのいないもんかな。
 んー…。
 あれ、そういえば。
 先生は?
 チビメ、たしか帰りちょっとしてから学校裏門らへんの見回りしてるし、背後狙うのもやれるかも。
 恵比須も、意外と。
 だって授業終わると大抵理科室に一人だ。
 あれ? ホームベースは?
 チビメと同じく見回りするし。
 先生!
 コレ、いけるんじゃね?
 ひととなりが分からないと、ってコウダは言うけど、わかんない大人の方がわかんない中学生よりは絶対落ち着いてるでしょ。
 よし、今度提案してみよう。
 意外と俺、建設的じゃないか。
 あの欠伸犬とまったり飼い主を思い出す。
 有意義に休みの時間を使えた。
 やつらとは違う。
 満足。
 喜びにシャーペンをくるくる回す。
 晩飯、ちょっと凝ったのにしようかな。
 あんかけチャーハンとかどうだろう。
 湯気のたつアツアツトロトロの餡が、香ばしい炒飯にON。
 へへ。よだれ出てきた。
 そうと決まれば早めに支度だ。
 めくっていた国語の宿題のプリントをクリアファイルに挟み、筆記具を筆箱に仕舞う。
 宿題のいくつかが終わってないことを思い出し焦ってじたばたし出すのは、日曜の午後になってから。
 消しゴムを拾ったのも、その時だった。
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