ウザい先輩と可愛げのない後輩

黒姫百合

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30話

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「そうだな、本気で嫌がってるならしないさ。本気ならね」
「……なんですか、その意味深な言い方は」
「別に~。なんでもないよ~」
「うざっ、その言い方うざっ」

 明らかに含みがある紗那の言い方に、眉をひそめる真希。
 その意味深な言い方を追及すると、真希の神経を逆なでするかのようにはぐらかされてしまった。
 本当にウザい先輩である。

「ウザいのがあたしだからな」

 そして真希に何度も『ウザい、ウザい』と言われたせいか、紗那の中で『ウザい』は一つのアイデンティティになっていた。

「……誇って言うことですか」
「別に自分で誇ることは悪いことじゃないだろ。それにウザいというのは裏を返せば明るいって言い換えることもできるしな」
「凄いポジティブですね」
「よく言われるよ」

 自分で自分のことを『ウザい』という人を初めて見て真希は驚愕を通りこして呆れた。
 しかし紗那はなぜ真希が呆れているのか分からず、自分の考えを述べた。
 その紗那のポジティブさにさらに真希は驚く。

「言葉というのは表裏一体だからな。同じ意味でも良い面もあれば悪い面もある」

 紗那にはそんな意図はないのかもしれないが、サラっと深いことを言っている紗那に不本意ながら感銘を受けてしまった。

「だからあたしも北野後輩を傷つけるかもしれないが、その時は言ってくれ。謝るから」
「別に私はそんなに傷つかないので大丈夫ですよ」
「それでもなにか嫌なことや不快だったら言ってくれ」
「……分かりました」

 あまりにも念を押された真希は、引き下がった。
 別に他人に興味がないのでなにを言われても傷つくことはないのだが、こんなところで意地になって言い返しても意味がない。
 その後電車がプラットホームに入って来て、人を吐き出した後に呑み込んでから出発する。
 今日もいつもと変わらない朝の一幕だった。



 昼休み。
 今日は陽子たちや紗那たちに捕まることなく昼食を取ることができた。
 陽子たちは屋上か中庭とかに行ったらしく教室にはいないし、紗那たちもさすがに一年生教室に押しかけるような野蛮なことはしてこなかった。
 久しぶりに一人で静かに昼休みを過ごした真希は上機嫌だった。

「……トイレにでも行っておくか」

 まだ昼休みは二十分以上もあるため、今からトイレに行って教室に戻っても余裕がある。
 それに授業中トイレに行きたくなって我慢したり、先生に言って授業中に行くのは地獄である。
 あれは結構恥ずかしい。
 真希は一人席を立ち、トイレに向かう。

「ヤバい……財布忘れた」

 用を足して教室に戻っている最中、財布を忘れて自動販売機の前で慌てふためく少女に出会った。
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