楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第七話

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「大丈夫よ中村さん。私に任せて」

 ヘッドライトに照らされながら頼もしい声が聞こえてくる。
 葵は優の前に立ち、突っ込んできた暴走車を受け止めた。
 受け止めた。
 大事なことなので二度言ったが、葵は暴走車を受け止めたのだ。
 改めて日本語を咀嚼しても分からなかった。

「えいやー」

 葵は雄たけびを上げながら車をひっくり返した。
 ひっくり返した。
 また意味不明だったので二度言ったが、やはり意味が分からなかった。
 ひっくり返った車は激しくタイヤの音が鳴っているが地面にタイヤが接していないのでこれ以上暴走する心配がなくなった。

「大丈夫、中村さん」
「……」
「本当に大丈夫。中村さん、上の空よ」

 信じられない光景を見て思考停止していると、葵は心配しながた優の体を揺さぶる。

「だ、大丈夫です。むしろ楠先輩こそ大丈夫なんですか」
「私は大丈夫よ。だって鍛えてるもの」

 葵は自信満々に力こぶを作る真似をするが、鍛えてどうにかなるレベルを遥かに超えていると優は思う。
 確かに葵の言うとおり、見たところ傷はなさそうだ。

「ありがとうございます楠先輩。おかけで助かりました」
「どういたしまして。私は中村さんが無事で本当に良かったわ」
「それは私のセリフです。楠先輩が無事で本当に良かったです」

 助けてもらったのにまだお礼を言っていないことを思い出した優は改めて優にお礼を言う。
 葵が助けてくれたおかえで、二人とも怪我一つない。

「……心配してくれてありがとうね、中村さん」

 風が通り過ぎる。
 葵がなにか言ったような気がしたが、その声はあまりにも小さくて風に流されてしまった。

「えっ、あの女子高生無事なの」
「今、止めてたよな」
「車をひっくり返すことなんて人間にできるの」
「なんか面倒くさそうになりそうだから、逃げるわよ中村さん」
「えっ……」
「警察の事情聴取は何時間もかかるものなのよ。そんなことで時間を浪費したくないわ」

 面倒事に巻き込まれると察した葵は優の手を引いて、急いでその場を離脱する。
 いきなりのことに優は困惑しつつ、葵に手を引かれながらついていく。
 先輩女子の手は少し汗で湿っていて、とても柔らかかった。
 それに走って逃げながらも笑っている葵はとても可愛くて、思わずドキッとしてしまった。
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