楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第四十四話

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「は、はい。分かりました」

 葵に気圧された係員が急いで乗り終わったジェットコースターを止め、責任者を呼びに行く。
 初めて怒っている葵を見て、怒られていない優まで気圧される。
 体が無意識に震えるほど、本能的な恐怖を感じる。
 すぐ後ろでは瞳と実乃里が葵を見守っていた。

「ここの責任者の佐々木です。葵お嬢様、部下から聞きました。本日は大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 四十代ぐらいの中年の男性、多分胸がないから男性だろう、が葵に対して深々と頭を下げて謝罪する。

「別に私に対しての謝罪はいらないです。あなたならこの事態がどれほど危険なことだったか分かるでしょ。もし安全バーが外れて人が飛ばされたら最悪死んでいてもおかしくはありません。そうなっていたら謝罪だけでは済まないことぐらい佐々木さんになら分かるでしょ」
「お嬢様のおっしゃる通り、謝罪だけではすみません」
「亡くなった人の未来を閉ざすだけではなく、遺族も悲しみます。それに楠グループやこの遊園地に対して不買運動が起こったらここで働いていた従業員も路頭に迷うことになります。それがグループ全体に広がると、さらに路頭が迷う人が増えます。良いですか、まずはなぜこのようなことが起こったのか原因を究明してください。それが設備不良だった場合、いつもどのような設備をしていたのか、その設備は誰がやり誰が指示を出していたのかを聞くこと。もし人為的ミスの場合、誰がこのようなミスをしたのか、その指導係や上司はその人にどのように指導をしていたのか確認してください。今日一日はその原因究明に時間を使い、またこのような事件が起こらないようにどうするべきか対策案を考え、お客様に対しては今日は終日乗れないことを丁寧に説明し謝罪するようお願いします」
「分かりました。本当にこの度は申し訳ございませんでした」

 葵は責任者の佐々木に次々と指示を出し、佐々木は今回のことを重く受け止めており深々かと平謝りを続ける。
 テキパキと指示する葵を見て、まるでここの経営者に見えた。

「ごめんね中村さん。話は終わったから引き続き楽しむわよ」

 いつも通り優しい笑みを浮かべた葵が優に話しかける。
 厳しい顔で指示を出していた葵はもうどこにいない。
 そのおかげで優の緊張も解けた。
 本当にあの時の葵は怖かった。

「あの~楠先輩ってお嬢様だったんですか」

 ジェットコースターエリアを後にしながら優は葵に話しかける。

「まぁ~……お嬢様と言えばお嬢様ね。あまりひけらかしたくはないけど」
「凄いですね。だから楠先輩は上品で気品があるんですね」
「ちょ……どうしたの中村さん。いきなり褒められると照れるわ」

 突然優に褒められた葵は照れくさそうにする。
 葵と初めて会った時、とても上品な人だと思ったがまさかお嬢様だったとは思わなかった。
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