楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第七十二話

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「……どういうことだ実乃里。中村は楠先輩にキスをされたことが嫌だったんじゃないの」
「……私もそうだと思ったんだけど、違うみたいだよ」
「……っていうかそれってつまり……」

 急に愛音と実乃里は二人だけでコソコソと話し合う。
 一体なにを話しているのだろう。
 きっと優には聞かれたくない話だからコソコソと話しているのだろう。
 二人が優しいってことは知っているから悪口を言っているわけではないだろう。

「中村って楠先輩にキスをされたことを悩んでわけじゃないならなにに悩んでんの?」
「楠先輩が私とキスをしたことを忘れてからだよ。ホント信じられない。私ファーストキスだったのに。それを忘れてるってサイテー。ホント、能天気な楠先輩を見てるとモヤモヤするしイライラもしちゃう。楠先輩のバカ」

 愛音に質問され、優は思わず感情が乗ってしまい饒舌に葵の不満をぶちまける。
 そんな優を見て、なぜか愛音も実乃里も呆気にとられていた。

「……もしかしてあたしたち中村の惚気に付き合わされてるだけじゃない?」
「……本人は自覚してないけど惚気だよね」
「……まっ、深刻な悩みじゃなくて良かったと思えば良かった良かった。これなら二人の仲が戻るのも時間も問題だね」

 二人がまたコソコソと話している。
 悪口は言っていないと思うが、気になるものは気になる。

「中村。すぐに仲直りできるさ」
「きっと中村さんと楠先輩なら大丈夫だよ。中村さんも素直に自分の気持ちを伝えたらすぐに仲直りできると思うよ」
「えっ、どういうこと二人とも? そんな単純な問題じゃないよ」

 愛音と実乃里は自信満々に大丈夫だというが、どうしてその結論に辿り着いたのか理解できなかった優は困惑する。

「大丈夫。中村が楠先輩が好きなら大丈夫だ」
「そうだね。中村さんが楠先輩のことが好きならなにも問題ないよ」
「確かに楠先輩のことは好きだけど……なんで二人ともニヤニヤしてんの~」

 ニヤニヤしている愛音と実乃里に挟まれた優は意味が分からず絶叫する。
 なにが大丈夫なのか全然分からなかった。



 放課後。
 実乃里も愛音も放課後予定があるということで、今日は一人での帰宅である。

「中村さん、見つけたわっ」

 廊下を歩いていると聞きなれた先輩の声が聞こえてきた。
 そしていきなり後ろから葵に抱きしめられる。
 後頭部に柔らかい双丘が当たり、心拍数が上がる。
 制服越しでも分かるぐらい本当に葵のおっぱいは柔らかくて弾力がある。

「捕まえたわ、中村さん」
「……」

 葵は優に逃げられないように力強く抱きしめるが、決して痛くはなかった。
 葵は安堵の息を漏らす。
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