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第二章 牢獄出たらダンジョンで
閑話 名もなきスライムが名を得るまで
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「ちょっと遅くなるかもしれないけど、必ず探してまた会いに行きますから。約束ですっ!!」
ワタシの自意識がハッキリと芽生えたのは、おそらくその言葉を聞いた時だったのだろう。
ワタシはケーブスライム。名前はまだない。……いや、正確には大本のケーブスライムのヌーボ。その触手に核の一部を分け与えられた分体なので、ヌーボであるとも言えるし別の新たに生まれた何かであるとも言える。
ワタシが生まれた経緯についてそこまで複雑な理由はない。大本のヌーボが“トキヒサというヒト種を守れ”との命令の為に、咄嗟に分体を作っただけの話だ。
ちなみにこの命令はワタシにも適応される。自身がヌーボであるのなら、それは当然のことなのだから。
生まれたてという割には我ながら思考が流暢だが、これには少し理由がある。最初に言っておくがスライム種は大半が知能が低く、基本的に本能で生きている。
しかし何事にも例外はある。長く成長を続けて知性を獲得するか、上位の存在に強化される場合だ。
前者の場合は数年ほど生き続ければそこそこの知性を得る。まあそこまで残るのはあまり多くはないが。
ワタシ、と言うより大本のヌーボは後者だ。まずヒト種のテイマーにテイムされ、城にて看守の役割をこなしていた時点で少しだけ能力が強化されていた。
そのままでも簡単な指令を聞き分ける程度の知性を獲得していたのだが、肝心なのはその後だ。
イザスタ様というヒト種を名乗られるあのお方。あのお方の血を受け眷属となったことによって、大本のヌーボは急激な成長を遂げた。
そしてその結果、元々の種族のウォールスライムからケーブスライムへと進化を遂げる。
この場合眷属の知性、力量などは主人のそれに比例するので、それによって基本的な知性も大きく上昇し、分体であるワタシもヌーボの記憶と知識を持ったまま自意識に目覚めることが出来たという訳だ。
更に言えば、ヌーボは牢獄内にいたスライムの中でも比較的古株である。その分他の個体よりも情報量が多かったのも理由の一つかもしれない。
さて、自意識が芽生えた直後、守るべき対象であるトキヒサと共にどこか分からぬ場所に跳ばされるという事態になった訳だが……どうしたものだろうか?
現在位置は不明。洞窟か何かのようにも思えるが、周囲に流れる魔素の在り方がまるで違う。大本のヌーボが持っていた知識によると、どうやらここはダンジョンというものらしい。
どちらかと言えばこちらの方が心地よい。魔素が身体に合っているのかもしれない。……だが浸っているわけにもいかないようだ。カタカタと音を鳴らしながら、スケルトンがこちらに向かっていた。
ダンジョンにはダンジョン特有のモンスターがいる。このスケルトンもその一体なのだろう。スケルトンはワタシが巻き付いたまま倒れているトキヒサを認識し、攻撃しようと近づいてくる。
させるものかっ! ワタシはスケルトンが持っていた剣を振り下ろそうとした時、身体を伸ばしてスケルトンの核を一撃する。
幸い能力的にはこちらの方が上らしく、簡単に核は砕けてスケルトンはそのまま崩れ落ちた。……しかし、これだけ動いているのにトキヒサは一向に目覚めない。余程眠りが深いのか?
試しに軽く頬を叩いてみるが、反応はすれど目を覚ます様子はない。これは起きるまでまだまだかかりそうだ。
それからしばらく、ワタシは周囲の様子を探りながらトキヒサが起きるのを待ち続けた。散発的にスケルトンが襲撃してくるが、大半は一体ずつだし能力的にはこちらの方が上だ。撃退するのはそれほど苦ではなかった。
だが厄介なことに、トキヒサの近くに先ほどまで戦っていた黒フード。エプリとか呼ばれていた奴も倒れている。あちらが先に起きた場合は戦闘が再開する恐れがある。
気を失っている内に止めを刺すという選択肢もあるが、トキヒサがこの少女を助けようとしていたのは明白だ。目を覚まして死んでいるのを見たら気落ちする可能性がある。
つまりはエプリもトキヒサが目を覚ますまでは護衛対象という事だ。やるしかない。
そんなことをつらつら考えている内に、また何かが近づいてくるのを感じる。しかしその動きはスケルトンとは一線を画していた。
ワタシが警戒を強めていると、その何かが姿を現す。……ボーンビーストだ! その骨で出来た獣はこちらを認識すると、グルルと低く唸りながら今にも飛びかからんとする。
モンスターとしての格ならおそらくこちらの方が上だ。しかし格は上でもこちらは生まれたばかりの幼体。
おまけに倒れているトキヒサとエプリを庇いながらとなると、条件的には分が悪い。……だが、ここで逃げてはワタシの存在意義がなくなる。
ならばやることは決まっている。来るなら来いっ! ワタシは迫りくるボーンビーストを身体を伸ばして迎え撃った。
結論から言えば、無事ボーンビーストを撃退することが出来た。だがその戦いは長く厳しいものだった。
壁や床を縦横無尽に動き回って飛びかかってくるボーンビースト。対してこちらはトキヒサから離れることが出来ず、相手の攻撃に対してのカウンターを狙うことしか出来ない。
しかし素早いボーンビーストにカウンターを決めるのは至難だ。幾度もなく失敗し、身体の一部を逆に削られた。
おまけに戦っている間に別のスケルトンが出てくるなど、激闘と呼ぶにふさわしいものだったと本当に思う。
いけない。だんだん身体の動きが鈍くなってきた。生まれたばかりでこれだけの連戦をしたのだから仕方がないのだが、ここで眠ってはトキヒサが守れない。
スライム種はあまり眠る必要はなく、そこまで長い時間が必要なわけでもないのだが、その分ほぼ完全に無防備になってしまうのが欠点だ。
ダメだ。……もう、身体が……。
「うっ!? う~ん」
その時、やっとトキヒサが目を覚ました。トキヒサは服から取り出した道具で誰かと話し、その後周囲をきょろきょろと見回してワタシに気が付く。
「…………お前が守ってくれたんだな。ヌーボ」
やっと起きたのかと一発ひっぱたいてやろうと思ったけど、流石にもう限界だった。絡みついているのも困難で、そのままずるりと床に落ちてしまう。
「…………ありがとな。助けてくれて」
その言葉と共に、何か温かい水滴がワタシの身体に零れ落ちた。……どうやら泣いているらしい。ただ眠りにつくだけなので、涙を流すほどではないのだけど。
しかしその勘違いを正す前に、ワタシの意識は薄れていった。
そうして小さな激闘が終わり、ワタシが目を覚ましてからも多くのことがあった。
懸念だったエプリとは一応の和解をし、以前牢獄で戦ったようなヒトを凶魔化したものとも戦った。
さらにどこかイザスタ様と似た雰囲気を持つアシュというヒト種や、商人を名乗るジューネというヒト種の同行。偶然見つけた隠し部屋への突入。その中での攻防戦。
ダンジョン内のわずか三日でこの出来事である。トキヒサには危険を引き寄せる才能でもあるのかと疑いたくなるほどの内容の濃さだ。
トキヒサは先ほど隠し部屋で手に入れた石のことで、誰かと通信をしている。いつも夜中に通信をしているのは牢獄から変わらない。ワタシにも話してくれても良いのだが。
「……いよいよ明日か」
うんっ!? トキヒサが焚き火にあたりながらそう呟いた。誰かと話している様子もないから、おそらくこれは独り言なのだろう。
「本当に、俺は出会いに恵まれた」
確かにわずか三日間でこれだけ色々と出くわすのは、良い意味でも悪い意味でも才能だろう。感慨に耽っているようだが、一応ワタシのことも忘れてはいないかと袖を引っ張ってアピールする。
……今気づいたって顔をしたな! 僅かな怒りを込めて頭をひっぱたく。
「イタッ。イタタタッ。分かってるって忘れてないよ。ごめんごめん。お前にも助けられたよな。ヌーボ(触手)がいなかったら眠っている間にスケルトン達にやられてた。感謝してるって」
まあこのくらいにしておこう。他の同行者に比べればワタシは影が薄いと思うから。
「なあヌーボ(触手)。いい加減(触手)って付けるのも長いよな。そのままヌーボって呼んだ方が良いか?」
そのままヌーボか。ワタシはヌーボであると言えばそうなのだけど、それだと大本のヌーボと紛らわしい。それなら(触手)と付けた方が区別できるだけまだマシだ。
伝わるかどうかは別として、抗議の意味を込めてまたひっぱたく。
「というか前から気になっていたんだけど、意識というか人格はどうなってるんだ?」
そこはワタシも悩ましい。ヌーボであるとも言えるし、そうでないとも言える。身体を動かしながら分からないことを伝えると、
「……まあいいか。分からないってことは、少なくとも意識が別物である可能性があるってことだもんな。それじゃあひとまず仮でも良いから呼びやすい名前でも付けるか。…………ボジョって名前はどうだ?」
ボジョ。響きとしては悪くない。これなら良いか。そう思った瞬間、フッと何かがワタシとトキヒサとの間に繋がった気がした。
この感じは……なるほど。そういうことか。なら拒む必要はないのだろう。ワタシはそれで良いという意味を込めて、トキヒサの頭をスリスリと撫でた。
「……叩くか撫でるかっていう選択肢はさておいて、じゃあボジョで決まりだ。では改めてこれからヨロシクな。ボジョ!」
今の繋がった感覚。本能的に分かる。これはワタシがテイムされた証だ。
モンスターをテイムするには大まかに言って三つの条件がある。
モンスターに名付けをし、相手がそれを受け入れること。モンスターに自身の魔力を与えること。モンスターに自身を認めさせることの三つだ。
まず名付けは今したので間違いない。次に魔力だがこれは心当たりがある。以前のトキヒサの涙だ。血にこそ劣るが涙などにも魔力が宿っている。偶然涙を取り込んだことで条件を満たしたのだろう。
そして最後なのだが……自分でも少し意外なことに、ワタシはトキヒサを認めていたらしい。
これまでの行動を見るにトキヒサはお人好しである。あと頭は悪くないようだけど些か非合理的な面があり、それを何だかよく分からないロマンという言葉で片付ける。
……と言っても混血をすんなり受け入れるほどのお人好しともなるとそうはおらず、肉体の性能もそこそこ悪くないとは思うのだけど。
それにテイムされることでワタシの能力が上がっているというのも間違いない。自由意思を奪われるというものでもなく、明らかに出来ない命令であれば断ることも可能だ。
まあつらつらと考えてはいたが、結局のところこの言葉に集約される。改めてよろしく。…………ワタシのマスター。
こうしてワタシはボジョとなった。ちなみにトキヒサはワタシがテイムされていることに気づいていないようだが、それは言わずともいずれ分かることだろう。
トキヒサのテイムを受け入れたこの選択に後悔は……今のところ無い。あまりトキヒサがバカなことをやらかし続けるようであれば分からないが。
しかしそうなると一つ問題がある。ワタシはヌーボの分体として生まれた。そして、分かたれた者は一つに戻るのが必然だ。
トキヒサがイザスタ様と再び出会う時、それはつまりワタシとヌーボが一つに戻る時を意味する。その時、ワタシはヌーボとしてあるのだろうか? それともボジョとしてあるのだろうか?
まあワタシは今日もトキヒサを守るのみだ。……トキヒサには悪いけれど、その時が来るのが先延ばしになればよいと思いながら。
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