遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?

黒月天星

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第三章 ダンジョン抜けても町まで遠く

助ける理由

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 ……動けない。下手に刺激すればセプトが自身を刺しかねない。しかしこのままではいつ限界を迎えてもおかしくない。

「首輪を返してっ! 私を奴隷に戻してっ! じゃないと……」

 セプトは無表情に……いや。無表情を装っているが、どこか隠しきれない怯えと共にそう言った。そのナイフはカタカタ震えながらも真っすぐ自身の喉元に添えられている。

「待てって! 一旦落ち着こう。まずは魔力暴走を止めてくれ。その後でゆっくり話を聞くから」
「嫌っ! 返さないならここで死ぬ。

 何っ!? エプリはセプトが死んでも収まるとか言っていたけど違うじゃんっ!?

「さあ早くっ! ……返さないなら」

 セプトはナイフをほんの少しだけ喉に押し込む。皮一枚が裂かれ、そこから血の筋がつ~っと流れて地面にポタリと落ちた。これ以上は本当にマズい。え~いこうなったら仕方がない。

「分かった。分かったよ。ちょっと待て。今首輪を取り出すから」

 俺は腹をくくって首輪を再び買い戻そうとしたが、

「……あっ!!」

 そこで気が付いた。……

 首輪の査定額は六万デン。つまり買い戻すには手数料を加えた六万六千デンが必要だ。しかし俺の手持ちは何故か激減。追加分なんて払えない。ならば、

「あのぅ。つかぬ事を聞くけども六千デンくらい持ってるか? 六千デン分の物でも良いんだが?」
「……持ってない」

 セプトは無表情な中に困惑の色を滲ませながらもポツリと返す。……そりゃ困惑するだろうよっ! 戦闘中に敵に金を無心する奴なんて居ないもんな。

「持ってないか。いやあ残念だなぁ。これじゃあ首輪が戻せな……わぁ。待った待ったっ! 早まるんじゃないってのっ!」

 またチクリと自身をナイフで傷つけるセプト。慌てて止めるがいよいよ本当に限界だ。時間的にも精神的にも……あと金銭的にも。あと俺の手持ちで何か金になりそうな品は、

「……そう言えばこれが有った」

 服のポケットを全部ひっくり返す勢いで探した結果、思い出したのは以前ジューネから買い取った仕掛け箱。中身は危険物だから売れないが、入れる箱だけなら何とかなる。

「これは攻撃とかじゃないから動くなよ。……『査定開始』」

 セプトを刺激しないよう先に言ってから仕掛け箱を査定する。さっき出すのを見たからか、警戒しながらもナイフはそれ以上動いていない。もう少しそのままでいてくれよ。


 多重属性の仕掛箱(内容物有り)
 査定額 二十四万デン
 内訳
 多重属性の仕掛箱 一万デン
 闇夜の指輪(破滅の呪い特大) 二十万デン
 幸運を呼ぶフォーチュン青い鳥ブルーバードの羽 三万デン

 
 よし。あとはこの箱だけを換金すれば良い。それで首輪を買い戻してセプトに渡せば。

 ドサッ。

 何かが倒れる音に振り向くと、セプトがナイフを取り落として自身も倒れこんでいた。

 慌てて駆け寄ると、セプトの身体から黒い光のような靄が漏れ出している。見るからにマズいぞ!? もう爆発寸前だ。

「セプトっ!? おいセプトっ! しっかりしろっ!!」
「はあっ……はあっ。大、丈夫。早く、返して」

 セプトは再びナイフを手に取ろうとするが、手に力が入らないのか持った瞬間取り落とす。今だっ!

「ふんっ!」

 俺は取り落とされたナイフを蹴り飛ばした。これでもう自害は出来ない。セプトは荒く息を吐きながらこちらをじっと見据える。その瞳には怯えと共に、どこか諦観と絶望の色が見えた気がした。

「心配するなって。このまま逃げたりしない。だってそうしたら……お前が死んでしまうだろうが」

 その言葉に、セプトがまた困惑したような顔をする。

「何故死んだらいけないの?」
「何故ってそりゃあ……このまま逃げても爆発から逃げきれるか微妙だし、出来れば自分で魔力暴走は抑えてほしいし。あとお前には色々聞きたい事もあるな。クラウンが何をやろうとしているかとか。それと……何と言うかほっとけないんだよっ! !」
「……?」

 理解できないって顔だな。だけど仕方ないんだ。

「あのな。この世界の基準は知らないけど、俺から見たらお前は間違いなく美少女だぞっ! 別にそうじゃなくても目の前で死にかけていたら助けるけど、美少女だったら尚更だろ?」

 これは世の男達の大半が共感できると思う。

 まあプラスなだけで絶対的な価値ではないが、それでも美少女の前で気合を入れてカッコつけるくらいには価値があると俺は思う。

「……貴方は馬鹿なの?」
「よく言われる」

 セプトは少し悩んだ上で一言そう呟く。最近“相棒”以外にエプリやアンリエッタにも言われてるな。そうかもしれないけど性分なんだから仕方がない。

「という訳でだ。美少女が死ぬのは色々と損失だから助ける。何で奴隷に戻ろうとしているかは知らないけど首輪も返す。……だから死のうとなんてするなよ」
「……分かった」

 俺の言葉をどう受け取ったのかは分からない。だが、セプトはこくりと頷いてそう言った。




「じゃあ約束だ。首輪を渡したらセプトが魔力暴走を抑える。と言うかこんなに荒れ狂っているけど行けるのか?」
「大丈夫。限界の前に空に放出する」

 つまり被害の少ない所に敢えて自分から使ってガス抜きをしようってことか。

「なら安心だ。その後は話を聞かせてもらったらそのまま帰す。もし首輪のせいで魔力暴走が止められないって事になったら、また俺が一度外した上でその首輪を着けずにセプトが持っていけばいい」

 最悪セプトがまた襲ってくる可能性も残っているが、その時はその時だ。そのままクラウンの所に帰らせるのは不安だが、これが互いの妥協点ギリギリと言った所か。

「うん。……じゃあ首輪を」
「ああ」

 俺は仕掛箱を換金し、その分で隷属の首輪を買い戻す。この手に出現した首輪には微妙に嫌悪感があるが今は非常事態だ。俺はセプトに首輪を手渡した。

 首輪を受け取ると、セプトはギュッとそれを抱きしめる。その瞬間、無表情だった顔が少しだけ柔らかくなったように感じた。

 普通なら奴隷なんて嫌がりそうだけど、セプトは何故自分から奴隷になる事を望むんだろうな?

「……先に着けて良い?」
「えっ!? ……ああ」

 セプトの様子を見ていると、それは自分を縛る物であると同時に大切な物のようだった。その方が集中できるならと、俺はつい頷いてしまう。

 しかしよく考えてみたら、また首輪を換金、買い戻しの際の金が足りないよな? 気付いた時にはもうセプトは首輪を着け直してしまった。一度着けると勝手にロックがかかるようになっているようで、ピッタリとセプトのサイズに合っている。

「大丈夫そう」
「そ、そうか。……良かった」

 セプトは一度身に着けた首輪をそっと撫でて言う。幸い首輪を着け直しても問題なさそうだ。

「じゃあ、始める」

 いよいよだ。さっきからセプトの息が落ち着いてきたようだが、これは嵐の前の静けさ的なもののようで怖い。身体から漏れ出している黒い光も止まっていないしな。

 頼むぜ。上手くいってくれよ。




 セプトは一度深呼吸すると、頭上に向けて両手を翳す。すると急に周囲の気配が変わった気がした。これまではただ暴れまわっているという感じだったが指向性を持ったと言うか。なんとなく魔力の流れみたいなものが上に向かっている感じだ。

 見ればセプトから漏れる黒い靄のような光も、これまではその場で霧散するだけだったのに上に伸びていく。幕は上部で閉じているのだが、そこに向かって吸い込まれているようだ。

 よく分からないが物事が良い具合に進んでいるらしい。このまま行ってくれれば……。

「…………うっ!?」

 そんな簡単にはいかないよなやっぱ。セプトがまたふらりと体勢を崩しそうになるが何とか踏ん張る。

 しかし一瞬身体から出る黒い光の靄が一気に放出された。つまり自分から放出する量よりも、制御できずに溢れだした分の方が一瞬多くなったという事。そして幕の内側に靄が溜まり始めている。

 ここでふと思った。この幕の内側に外の影は手出しをしなかった。それが仮に首輪で強制された命令、つまり使い手であるセプトを傷つけない為だったのなら、ここに溜まっていく靄は何だ?

 もしかして……これが溜まり切ったら爆発するという事か? 内側から靄が幕を圧迫し、いずれ幕を吹き飛ばして外へ放出。そして完全に制御を失った魔力が爆発。……なんか想像したらあり得る話だ。

 最初に俺がここに入った時にはまだ靄があまり溜まっていなかった。それに裂け目もすぐに閉じたので大事には至らなかったって事か。

「セプトっ!? 大丈夫かっ!?」
「大丈夫。まだ、できる」

 そうやって強がってはいるが、セプトの顔色が悪いのは簡単に見て取れる。何でも良い。何か俺にも出来ることは何かないのか?

「何か俺に手伝えることはないか? 何でも言ってくれ」
「……じゃあ、倒れないように支えてほしい」
「分かった。任せろっ!」

 俺はセプトの後ろに寄り添うように立ち、バランスを崩しても咄嗟に受け止められるように身構える。俺にはこのぐらいしか出来ないからな。いつでもドンとこいだ。

「次、いく」

 セプトは再び両手を頭上に翳した。あとどれだけやれば暴走を抑えられるのかは分からないが、ガンバレセプトっ! 応援してるぞっ! ……応援しか出来ないけど。
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