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第四章 町に着いても金は無く
馬の代わりに羊はいかが?
しおりを挟む「え~。皆さんの目的をまとめた結果、一言で表すなら……金が必要という事で良いでしょうか?」
「そうだな」
「……えぇ」
「まあ金は無いよりある方が人探しは楽になるな」
それぞれ思うように返事をする。セプトは目的を見つけるのが目的という何だかよく分からない事になっているが、一応話には耳を傾けているようだ。
「ではそれを踏まえて、まずここでやる事を挙げていきましょう。一つ目はセプトさんの治療。これには少なくとも七日はかかるらしく、万が一器具が不具合を起こした時の為にもその間この町に留まる必要があります」
それはそうだ。信用していないという事ではないけれど、物事に絶対はない。不具合は起きないだろうけど念の為ってやつだ。
「二つ目は私の商談。これも場合によっては数日に渡る可能性があります。これにつきましてはアシュの言う通り、トキヒサさん達に同行してもらえると助かります」
「それは任せてくれ。俺じゃああまり役に立たないかもだけど、エプリとセプトがいるから護衛としてはばっちりだ。ボジョだってついてるしな」
「……そうね。護衛対象が増えるのはあまり気乗りしないのだけど、単純な戦力だけならそれなりのものでしょうね」
エプリはやや顔をしかめたが出来ないとは言わなかった。仕事上難しいと判断したらハッキリと言うから、おそらく問題ないという事なのだろう。
セプトも何も言わずにこっくりと頷く。ボジョは……俺の頭を触手で撫でながら、さらに触手を一つ伸ばして了承したように上下に振っている。忘れてないから大丈夫だぞ。
「ありがとうございます。それでやる事の三つ目ですが、ドレファス都市長の頼み事であるヒース・ライネルの鍛錬、及び調査です。鍛錬に関してはアシュの話し合いで期間等が決められるので何とも言えませんね」
この言葉と共にジューネが視線をアシュさんの方に向けると、アシュさんが軽く前に出て説明を引き継ぐ。
「まあこちらも少なくとも数日はかかると見た方が良いな。下手すると十日ぐらいはかかるかもしれない。その間ちょこちょこ鍛錬を見に来るという口実でヒースに近づくのか?」
「そうなります。今日は商談を優先しますが、明日からでも早速行動ですね」
半ば前払いで屋敷に泊めてもらってるもんな。それとは別に成功報酬もあるみたいだし、これもきっちりこなさないと。
あと都市長との細かい交渉はジューネがという話だったけど、そこら辺はどういう風になったのだろうか? それは後で聞いておこう。
「ひとまずこんな所でしょうか。まとめるとどれもそれなりに時間が掛かるものです。……それぞれの資金集めについても後で話すとして、何か質問がある方はいますか?」
う~ん。ひとまずやる事は大体分かった。後はその間いかに金を稼ぐかだけど、そこはやはり町の様子を直に見てみないとな。何が金儲けのヒントになるか分からないから。……初めての異世界の町を観光したいという気持ちも勿論あるが。
「……ところで気になったのだけど、商談とは誰とのものなの?」
「そういえば相手を聞いていなかったな。一体どんな人なんだ?」
ナイスだエプリ。もしおっかない人だったら事前の覚悟がいるからな。こういうのは先に聞いておいた方が良い。
「今日の商談の相手は三人です。それぞれ立場も居場所も違うのですが、どれも重要な商談です。……ここで話すと長くなるので移動中に話しましょう」
まあ町を見ながら話をする時間くらいはあるか。じゃあ今は聞かないでおこう。
「……ふぅ。大まかな内容としてはこんな所じゃないかしら」
一通りこれからの方針を話し終え、誰ともなく軽く息を吐く。意外に内容の濃い話し合いだったな。いつの間にか三十分近くは経っているぞ。
「じゃあそろそろ俺も行くとするか。今から行けばヒースの鍛錬についての話し合いにも丁度良い頃合いだろう」
話し合いが終わるのを見計らい、アシュさんがゆっくりと席を立つ。
「はい。ヒースさんの事はお願いしますね」
「おうよ。そっちもしっかりな」
背を向けるアシュさんに対してジューネが声をかけると、アシュさんも振り返って二カリと笑いながらそう返した。これだけでもこの二人が良いコンビだというのが分かるな。
「……さて、それじゃあ私達も出発しましょうか。一人目の商談相手が待っています」
アシュさんが行ったのを見送ると、ジューネはそう言って出発の準備を始める。いつものリュックサックを背負い、服装に乱れは無いか身だしなみを確認。どんな相手だか知らないが、俺達も身だしなみは整えておかないとな。
そうして全員の用意が出来ると、俺達は連れ立って屋敷の入口に向かう。……のだが、
「……あっ!? どうやって商談相手の所に行くんだ? 忘れてたけどもう馬車は無いんだぞ」
昨日使っていた馬車は調査隊の物。ラニーさんが乗っていってしまった以上もう使えない。もしかして歩いていくのだろうか? 観光には良さそうだが商談前に体力を使うのもなんだかな。
「フフッ。その点はご心配なく。ちゃ~んと用意は出来ていますとも」
俺の言葉にジューネは何やら含みのある笑みを浮かべる。代わりの馬車でも用意しているのだろうか? よく分からないまま屋敷の入口に出る俺達。するとそこには……雲があった。
「メエェ~」
「これは……羊か?」
鳴き声は羊のようだが、その見た目からそう思うまで少し間が出来た。大きさは小型のバスくらい。全身モフモフの白い毛で覆われ、僅かに覗くクルクルの角が生えた頭と四本のひづめから何とか羊だと推測する。
しかし遠目から見たらまるで空に浮かぶフワフワの雲のようだ。
「……クラウドシープなんてよく用意出来たわね」
「エプリ。これが何だか知っているのか?」
このフワフワのデカい雲羊を知っているようなのでちょっと聞いてみよう。
「クラウドシープ。上級指定モンスターの一種よ。……気性こそおとなしいけど、その体毛は下手な武器では突破できない防御力を誇る上簡単な魔法なら弾いてしまうの」
この雲羊がねぇ。こんなモッコモコでつぶらな瞳。頭から生えたクルリと巻いた角も意外に可愛らしいのだけど、そんな凄いモンスターとは。にわかには信じられない。
セプトなんかこのモッフモフの肌触りが気に入ったようで、さっきからずっとモフモフしているぞ。微妙に嬉しそうだ。
「都市長から滞在中の足として使うよう用意されたモンスターです。これに乗っていきますよ」
「これに乗っていくって……どうやって?」
見た所掴まるような鞍も何もない。それなりに大きいから飛び乗るというのも大変そうだ。
「こうやって……です」
するとジューネは軽く雲羊の頭を撫でたかと思うと、なんと毛の中に両腕を突っ込んだ。すぐに止まるかと思いきやそのままドンドン沈んでいき、遂には身体がすっぽりと入ってしまう。
そして少し経つと今度は毛皮の上の方から顔を出す。一体どうなってんだ!?
「クラウドシープの体毛は少しずつ力を加えると柔らかくなり、一気に力を加えると固くなるんです。だからこうやって毛の中を泳ぐなんて事も出来るんですよ」
「……テイムされたクラウドシープは要人警護に使われる事があるほどよ。毛の中に入ってしまえばそう簡単に突破できないもの」
聞けば聞くほどビックリな羊だ。しかしなるほど。毛の中に潜り込めば良いのか。
「あ~その、羊くん。俺もちょっと入らせてもらって良いかい?」
急に入って機嫌を悪くしないよう、さっきのジューネと同じように軽く頭を撫でながら聞く。
「メエェ~!」
すると雲羊は一声鳴いてこちらに体を寄せてきた。どうやら大丈夫らしい。俺も意を決してゆっくりと手を押し当てる。
モフモフの触感。そのまま力を少しずつ込めていくと、ズブズブと手が沈み込んでいく。
そして手首、肘、二の腕と入っていくのだが、手を伸ばしても本体らしきものに触れる気配がない。実に不思議だ。そして俺の頭まですっぽり入ってしまう。
羊毛なのでやはり暖かい。全身を高級な布団に包まれているみたいだ。意外に息もそんなに苦しくなく、そのままジューネのように上へ上へと毛をかき分けていく。
「……よっと!」
そのままこっちも顔だけ外に出す。すぐ隣にジューネの顔があったので一瞬ドキッとするが、向こうはそんなに気にしていないようなのでこちらも気持ちを落ち着かせる。
「それにしても……これは良いや」
乗り心地は結構快適だし、エプリの言葉によると防御力もバッチリ。こんな凄い雲羊を貸してくれるなんてドレファス都市長も太っ腹だ。
「さあ。皆さんクラウドシープに乗り込んで! 全員乗り込んだら出発しますよ!」
ジューネの言葉にセプトやエプリもゆっくりと毛に潜り込んでいく。いよいよ出発だ。
俺達は最初の商談に臨むべく、都市長の用意してくれたクラウドシープに乗って出発した。先頭に頭を出しているジューネが時折方向などを指示すると、雲羊はその方向に進んでいく。だが……。
「……なあ。ジューネ」
「何ですか?」
「一つ気になったんだけどさ……目立ち過ぎじゃないか?」
考えてみよう。見た目ふっわふわの雲みたいな羊が町中を移動していたらどうなるか? 答えは簡単。非常に目立つ。さっきからすれ違う町の人に好奇の目で見られているもんな。
おまけにこの雲羊はそこまで速度は出ていない。体感で言うと自転車より少し早いくらいだ。……雲みたいなデカい羊が車みたいな猛スピードで動いてたらそれはそれで怖いが。
「あぁ。それはそうですよ。これは敢えて目立つようにしているんですから」
「どういう事だ?」
「元々このクラウドシープは、ドレファス都市長が客人に貸し出すので有名なんです。つまりこれに乗っているという事は都市長の庇護下にあるという事。この町において都市長は相当の実力者ですからね。商談の時に切れるカードは多い方が良い」
なるほど。つまりこうやってわざと目立ちながら行く事で、商談相手にジューネのバックには都市長がいるぞって知らせてるわけだ。
なんか虎の威を借る狐みたいだけど、商人としては準備段階ですでに商談は始まっているみたいなもんなんだろうな。
「それに予めこうしておけば、この町で動く際には色々と楽になると思いますよ。顔も売れますし」
「商人じゃないんで別に顔は売れなくて良いんだけどな」
「……同感ね。逆に動きづらくなりそう」
まだ何かを売ると決めた訳でもないし、知らない内に有名人になっているってのも困るんだけどな。
エプリも何処かげんなりした顔をしているし、セプトはいつも通りの平常運転で時々周囲をじっと眺めている。ボジョは俺の服の中に引っ込んだっきりだ。
まあそれは置いといて。
「ジューネ。そろそろ商談の相手のことを話してくれても良いんじゃないか?」
「……そうね。護衛としては情報があった方がやりやすいから」
俺の言葉にエプリも追従する。移動中に話すってことだったからな。頃合いのはずだ。ジューネもその言葉を聞いて、雲羊に何かの指示を出すとこちらに向き直る。
すると雲羊は、心なしか少し速度を落として勝手に進み始めた。場所さえしっかり指示しておけば自分で向かってくれるらしい。賢い羊だ。
さあ。一体どんな商談相手なのやら。
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