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第三章
ネル 何か覚えのある課題に戸惑う
しおりを挟む森の中に隠されていた黒い扉を、あたしのファインプレーで見つける事が出来て喜んでいたのも束の間。そこにピーターが言うには少なくとも20人以上の変な集団が現れた。
だけどそこらの候補生が束になったってあたしの敵じゃない。ちょびっとピーターを庇いながらだとめんどくさいけど、まあそこはガーベラに任せれば何とかなるでしょ!
……ああ。さっきガーベラは、参加者は競争相手であって敵じゃないとか言ってたけど。
襲ってくる奴が相手なら、ちょっとくらい壊しちゃって良いよね。
あたしはとりあえず手近な奴から仕留めていくかと、飛び出すべく足に邪因子を溜め、
『待ってほしいっ! こちらに戦うつもりはない。まずは話し合いをさせてもらえないだろうか?』
集団の中から一人の男がゆっくりと歩いてくるのを見て、一旦だけど動きを止める。
そいつは一見眼鏡をかけた優男。物腰は穏やかそうで、見た目は二十を少し過ぎたくらい。といっても邪因子は老化を抑える力もあるから本当の年齢は知らないけど。
そんな中、ガーベラが油断なく髪を伸ばしながら男に合わせて一歩踏み出した。
「これは驚きましたわね。こんな序盤に攻めかかるような方とは存じませんでしたわよ。アンドリューさん?」
「それは誤解だ。僕はこれでも臆病なのでね。話し合いをしようと機を窺っていたら、メンバーが君に気づかれてなし崩し的にこうなってしまっただけの事。不幸な事故だよ」
「どうだか? ここで私達を落とせればそれはそれで良し。とでも思っていませんでしたか?」
「さあ? どうだろうね」
男とガーベラは互いに黒い笑みを浮かべながら対峙する。二人共目は一切笑っていない。
「ガーベラ。コイツアンタの知り合い?」
「ええ。アンドリュー・ミスラック。幹部候補生の中では割と有名でしてよ。なにせ昨日の邪因子量測定テスト。あれでネル。アナタに次いで全候補生中2位の記録を叩き出したのですから」
「へぇ~。やるじゃん。道理で」
あたしは邪因子を察知する力は高くないけど、それでもはっきりと分かる。コイツそこそこ強い。少なくとも周りの奴らよりは歯ごたえがありそう。
「大差をつけられた1位に褒められるというのも妙な話だがね」
アンドリューは苦笑しながらこちらに向き直り、軽く手を上げる。すると同時に話しやすいよう気を遣ったのか、集団がそれぞれ数歩下がった。
「改めて言うが話し合いをしたい。どうか邪因子を抑えてはもらえないだろうか? 戦うにしてもなんにしても、それからでも遅くはないのではないか?」
「……だってよ? どうするのピーター?」
「ふぇ!? な、何でボク!?」
突然の事に固まっていたピーターが、急に名前を呼ばれてビクッとこちらを見る。何ビビってんのよ。
「何でって一応リーダーはアンタでしょ? あたしが全部決めても良いけど、その場合面倒だからとりあえず皆ボッコボコにして終わらせるよ」
「普通にあり得そうなのが何とも言えませんわね。まあそれはそれとして、我がライバルに交渉事が出来るとも思えません。私がやっても良いですが……ここはリーダーさんの交渉力に期待いたしますわ!」
「え、トップが実質幹部候補生ナンバー2の集団と交渉しろって……え~っ!?」
ピーターが涙目になりながらも交渉を引き受けたのは、それから一分後のことだった。
「じゃあ、あくまでもアンドリューさんとしては、互いの情報交換をしたかっただけなんですね?」
だけど一度話し合いが始まると、ピーターは意外にも腹を括って堂々と喋り始めた。……ちょっぴり足が震えてるけど、それくらいならまあ良いんじゃないかな?
「その通りだ。こちらは既に草原エリアのチェックポイントをクリアしている。そちらは……」
「フンだ! こっちは山岳エリアの課題を済ませちゃったもんね! タイムじゃ負けてないんだから!」
軽く自慢すると、ピーターが慌てて指を口に当てる。ちょっと何よ?
「つまりもう山岳エリアの課題もヒントも知っていると。流石は歴代でも傑物と誉れの高いネル・プロティだ。ちなみにどのようなヒントだったのかな?」
「えっへん! こっちの手に入れたヒントはねぇ」
「あ~っ!? ネルさんっ!? それ以上は本気でダメな奴ですよっ!?」
あたしが話そうとすると、ピーターが慌てて口を塞いでくる。見たらガーベラもあちゃ~って顔して額に手を当てている。どうしたんだろう?
「我がライバル。そういうことは互いに少しずつ開示していくのが交渉というものですわ」
「……知ってたよ。これくらいは良いかなぁとちょっと余裕を見せただけだもん!」
あたしは軽く口笛を吹いて誤魔化す。危ない危ない。あたしの口を滑らそうだなんて、なかなかやるじゃないアンドリュー。
「なるほど。ではこうしよう。こちらが先に情報を開示する。その後でなら教えてもらえるか?」
「先に? ……書面か何かにして同時に出すのではなく?」
「先にだ。勿論そちらが情報だけ持って逃げるという事はあり得るが……ネル・プロティともあろう方がそんな程度の低い手を使う筈もない。まあ用心の為に互いにヒントそのものは出さないとするが」
ふふん! 分かってんじゃない!
「では草原エリアでの課題だが、簡単に言うとそこらじゅうを飛び回る球を制限時間の間避けるか捕まえるかしていくという」
……あれっ!?
「ちょっと待って? それってさ。もしかして幾つも色があって、色によって邪因子に反応したりしなかったりする奴?」
「その通りだ。なんだもう既に情報を握っていたのか」
「いや。知っていたっていうか」
な~んかそれ覚えがあるんだよねぇ。ついこの前オジサンが訓練とか言って出してくれた奴。ピーターもおやって顔してるし。
「形式はリーダーに加え、欠員が居ない限り最低2名以上の参加。定められた範囲から出ずに一定時間耐え凌ぐタイプだ。時間経過で球の種類が増えていき、最大4種類まで増えていた。なんでも、元々は現幹部の誰かが以前トレーナーから教わった邪因子訓練方法で、今回の試験如何では公式訓練の一環とするとかなんとか」
「……ネルさん。これって」
小声で話すピーターの言いたいことは何となく分かる。オジサンが試験に一枚嚙んでいるんじゃないかってことだよね。だけど、
「うん。多分偶然かな?」
しばらく一緒に住んでいたからなんとなく分かるけど、あのオジサン悪の組織の職員なのに不正が苦手だ。出来ないんじゃなくて苦手。
そのオジサンが、試験前に課題そのままみたいな訓練をやるだろうか? 答えはNOだ。他の参加者に対してズルになるとか言いそう。だから今回はたまたま被っただけだと思う。
まあ予習したみたいになっちゃったけど、偶然なら仕方ないよね!
こうしてアンドリューが話し終えた後、こっちもピーターが山岳エリアであった事を話した。崖登りをした事。上の方で暴風と落ちてくる球の罠があった事とかだ。
「やはりリーダーが動くことは必須か。となるとこの試験の本質は……」
話を聞いてアンドリューは口元に手を当てて考え始めた。気になることでもあったんだろうか?
「……んっ!? すみません。ちょっと良いですかガーベラさん?」
「なんですの? 何かありまして?」
そして今度は、ピーターがガーベラにちょっと耳打ちする。
「……そうでしたか。確かにあり得ますわね。分かりました。気を配っておきますわ」
「お願いします」
「ちょっと!? 二人でこそこそ内緒話なんかしちゃってさ。なんの話?」
「オ~ッホッホッホっ! 何でもないですわ! それはそうと向こうはまだ話があるみたいでしてよ」
その言葉通り、アンドリューも考え事が終わったのか、再びこちらに視線を向ける。
「情報感謝する。このことを念頭において次は動くとしよう。……さて。もう一つ。肝心な事をまだ話していなかった」
「肝心な事? やっぱりヒントが欲しくなったとか?」
そう尋ねると、アンドリューはいやいやと首を横に振る。そして、次に続けたのは、
「そこにある黒い扉。その扉を僕達に先に挑戦させてほしい」
あたしの見つけた扉を横取りさせてほしいという申し出だった。何よそれ!?
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