悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ

黒月天星

文字の大きさ
66 / 89
第三章

ネルはお姉さんに挑み、雑用係はお姉さんに頼む

しおりを挟む

「おっ!? おおおっ! なんかすっごく身体が軽いですよっ!」
「うふふっ! ちょこっと骨と筋と血管を正してあげただけよ。邪因子にせよなんにせよ、力が滞りなく身体を巡るにはそれに応じた経路が必要だもの。ほ~ら! この腰回りなんか明らかに分かるくらいシュッとして」
「ひぇっ!?」

 マッサージが終わり、軽く飛び跳ねて身体の調子を確かめるピーターだけど、イザスタに優しく腰の辺りを撫でられて小さく悲鳴を上げる。

 ああ。イライラする。微妙に顔を赤らめているピーターの事もそうだけど、あの女オジサンの幼馴染って何よ。それ以上の関係もOKって何よっ!?

「は~いお待たせ! 次はガーベラちゃんねん。こっちへどうぞ! 流石に服を脱いだ状態をピーターちゃんに見られるとまずいから、簡単だけど仕切りを用意したわ」

 そうガーベラを呼ぶイザスタの後ろには、いつの間にか簡易的なテントみたいな物が出来ていた。ならピーターの時から出せば……まあピーターは見られても良いか。

「オ~ッホッホッホっ! よろしくお願いいたしますわっ! ……ちなみに私、明らかな施術以外のおさわりには反撃いたしますのでそのおつもりで」
「あ~ら怖い。それじゃあ真面目に施術しないとねん!」
「えっ!? じゃあボクの時は真面目じゃなかったんですか?」
「勿論真面目にやったわよん! ちょっとそれ以外にも触っただけで。さあどうぞ中へ」
「分かりましたわ。ではネル。折角の申し出ですし、ちょっと行ってきますわね」

 そう言って笑いながら、ガーベラはイザスタと一緒にテントの中に入っていく。完全には警戒を解いてはいなさそうだけど、その顔はどこか落ち着いていた。

 ……何よガーベラの奴。あれだけあたしの事をライバルだのなんだの言っておいてさ。あんな女にホイホイ着いて行っちゃうなんて。

「ネルさん! イザスタさんのマッサージとっても効きますよ! もうここまでの疲れなんか吹っ飛んじゃって! 今だったら体力テストをまたやっても前より良い線行きそうです」
「……あっそ。良かったね」

 あたしの手はいつの間にか腰のホルダーに伸びていた。そこからお気に入りの棒付きキャンディーを掴み取ると口に放り込む。

 ドクンっ!

 そうして口の中で転がすのだけど、それでもこの胸の内のモヤモヤは収まってくれない。お父様の事を思い出して力が湧いてくる気はするけど。モヤモヤは何で収まんないのっ!?

 思わずキャンディーをガリっと噛み砕き、棒の部分を捨てようとして思い直し、ホルダーの棒入れに押し込む。

「……っと……ネルさん?」

 そうだ。こういう時は甘い物だ! 本当は試験が終わってから食べようと少しとっておいた、オジサンのホットケーキを取り出してかぶりつく。

 大体オジサンもオジサンだよ。ただでさえあの煙草女マーサ変態ミツバがしょっちゅう寄ってくるのに、今度はまた別の女っ!? 一体何人居るのよっ!? これが大人の関係って奴なのっ!?

 そりゃああの性格だから色んな人にお節介を焼くのは分かるけどさ、でもオジサンはあたしの下僕なのっ! あたしを一番に見てくれなきゃダメなんだもんっ!

 ドクンっ! ドクンっ!

 さっきからやけに鼓動の音がうるさい。なのに周囲の音は少しずつ消えていくような感覚があった。

「……さん? ……ルさ……ってば!?」

 それにピーターもあたしのなんだ! 邪因子はあんまりだけどそこそこ使えるしちょっぴり……ちょっぴり面白いあたしの下僕二号なんだよ。

 ガーベラだって、珍しくあたしに突っかかってきてくれる奴なんだ。やっと少しだけ楽しいと思えるようになってきたんだ。

 それを……それを皆持って行こうとしないでよっ!? あたしから……取らないでよ。


「……はぁ……はぁ……は、謀りましたわね?」
「え~? ちゃ~んとアタシは施術に必要な場所以外触れてないわよん! ただその分ちょ~っと念入りに身体をほぐしただけ。うふふっ!」
「くぅ~。確かに全身の疲れが取れているのがなんか悔しいですわ」


 そこへ、テントの中から何故か少し顔を赤らめたガーベラと、さっきより心なしか顔がつやつやしているイザスタが出てきた。それを見た瞬間周囲の音が戻り、あたしの頭に冴えたやり方が浮かんでくる。

 ああ。そうだ。簡単な事じゃないか。

 つまりはあたしから諸々取っていこうとする奴。

「はいは~い! じゃあ今度はネルちゃん! お待た」
「オバサンっ! あたしと勝負よっ! 幼馴染だか何だか知んないけど、オジサンはあたしの下僕一号なんだものっ! ぜ~ったい渡したりなんかしないんだからっ!」

 またさっきのドロドロが出てきても、それごと吹き飛ばすだけの力があれば良い。

 あたしは身体から溢れんばかりの邪因子を放ちながら、イザスタに向けて突撃した。




 ◇◆◇◆◇◆

「……ホント頼むぞ。くれぐれも張り切り過ぎないように。……ああ。またその内な。じゃあな」

 俺はイザスタへの通話を切ると、ふぅ~と大きくため息を吐く。

「ククッ。手を焼いているようだな。自由気ままな所は実に奴らしい」
「笑い事じゃないですよ。まったくこっちは頭が痛い。……アイツここしばらく見ない内に無茶苦茶しやがって」

 首領様が愉快そうに笑うのを見て、俺は頭をガシガシと掻く。

「妙な事になったねケン君。そのイザスタって人がなのかい?」
「……ああ。勿論意図してやったって訳じゃないけどな」

 レイが不思議がっているのを見て、俺は一つずつ事の経緯を説明していく。




 まず事の次第を知ったのは、俺の方にミツバから連絡を受けた時だった。

『はぁっ!? あいつらがイザスタの所に跳ばされたっ!? 一体どうしてそんな事に!?』
『それがですねぇ。どうもあの方からこっそり空間内を侵食してたみたいで、ロックが外見の薄皮一枚残して中身がガッタガタにされてました。それこそ本人の意思一つで気楽に外に出られるレベルですね。その際本来扉で跳ぶ筈の場所の座標が近かったのもあってエラーを起こしたみたいで』

 嘘だろっ!? アイツ何やってんだよっ!?

 無茶苦茶厳重なロックを誰にも気づかれずに壊していたのは驚かない。イザスタだしな。どうせ制約で自分が外へ出られない代わりにその内誰かを引き込もうとか考えていたんだろう。

 だがそこに何でネル達がピンポイントで直撃するんだ!? ……いや待て!? まさかか? だとしたら俺にも責任がある。

『分かった。イザスタにはこっちから言っておく。苦労をかけてすまんな。いずれ埋め合わせはするよ』
『埋め合わせだなんてそんな……期待してます! ひゃっほ~い!』

 そうしてミツバとの通話を終え、今度はイザスタの方に連絡。時間もないので説教は短めにした後、扉の復旧が終わるまでネル達の事を頼むとキツく言い含めた。

 ついでにネルの身体を診てくれと言っておいたから、これ以上何かをやらかすという事はひとまず落ち着くだろう。アイツ基本は自由人だが仕事は真面目にこなすからな。




 という事を説明すると、レイは分かったような分からないようなと微妙な反応をする。まあ口で言っただけじゃイザスタのやらかしっぷりはピンとこないだろうしな。

「しかし復旧までの時間はノーカウントとしても、折角のチャレンジ要素がフイになったんだ。マイハニーやピーター君はともかくとしてネル嬢は怒るんじゃないかなぁ? そのイザスタって人は大丈夫かい? 暴れるネル嬢にやられたりしない?」
「……ふっ。ハッハッハッハ!」

 その言葉を聞き、首領様が珍しく大笑いする。当然声を抑えてだが。

「首領様?」
「ッハッハ……いやすまん。などという珍事を見てついな! ……クククッ」
「ああ。イザスタなら心配いらない。むしろネルが返り討ちにあうシーンしか想像できないな」

 首領様が腹を抱えて笑うっていう方が珍事だと思いますけどね。レイがそれを見て目を白黒させている所に、俺が軽く補足説明を入れる。




「ロックなんか最初から只の気休め。イザスタが本気を出したら……そうだな。レベルだな。それも相性によっては押し負けるぞ」

 それを聞いたレイは、ひどく引きつった顔をして笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...