悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ

黒月天星

文字の大きさ
83 / 89
第三章

ネル 運営委員会からの通達を聞く

しおりを挟む

 それはあたし達が、意識を取り戻した候補生から簡単に話を聞いている時の事だった。

「すると、急にその人が苦しみだしたかと思ったら、突然変身して暴れだしたんですね?」
「はい。一体何が何だか」

 少しだけ顔色も落ち着いてきた候補生に、何があったのか聞き出そうとするピーターだったけど、あまり思わしくはないみたい。

「ガーベラ……どう思う?」
「一言で言えば不自然ですわね。暴走自体はありえるでしょうが、理由が分かりません」
「珍しく意見が一致したね」

 暴走自体はあり得ない話じゃない。当人の精神状態が酷く悪化したり、邪因子に酷い負担が掛かると時折発生するんだから、こういう厳しい試験で発生する事は理に適っている。

 でも、この人の話だと急に暴走が始まったらしいんだよね。それも戦闘中とかではなく。全くないとは言わないけどなんかこう……違和感がある。

「他に何かありませんでしたか? 実は向こうも怪我を我慢していたが限界を迎えたとか」
「特に何も……あっ!? そう言えば、一つ前のチェックポイントで彼、持っていた何かを飲み込んでいました。すると急に邪因子が活性化してそのまま課題をクリアしたんです」
「飲み込んだ? 薬か何かですか?」

 試験中のドーピングは、推奨こそされていないが禁止もされていない。

 どんな手を使ってでも目的を果たそうとするのは悪の組織としては間違っていないけれど、それはそれとして薬に頼るのは自分の力だけじゃ出来ないという惰弱さと見られるからだ。バレたら当然減点対象になる。

「多分……でも見かけは薬っていうより、ただのキャンディーみたいな」

 その時だった。


 ビーっ! ビーっ!


 いきなり腕のタメールから警報音が鳴り響いた。ちょっと!? あたし別に邪因子を流し損ねてなんかいないけどっ!?

「落ち着きなさいな我がライバル。私のもリーダーさんのも、なんならそこで倒れたままの人の分も鳴っていますわ。誤作動という訳でもなさそうですわね」
「ふ、ふんっ! ちょっと慌てただけだよっ!?」

 ひとしきり警報音が鳴り響いたかと思うと、急にばったりと音が止み、


『試験を受けている全候補生に通達する。こちらは試験運営委員会である』


 代わりに聞こえてきた言葉を聞いて、あたしの胸は一瞬とくんと高鳴る。の声だっ!

『現在この試験会場にて、候補生の一部が突如暴走するという事例が多数報告されている。これは偶然ではなく故意に引き起こされた物である』

 そこからお父様が語ったのは、本部兵器課で開発中の邪因子増強薬の粗悪品が、一部候補生達にばらまかれたというものだった。

『本来なら試験の中断も止む無しの状況だが、運営委員会は合議の下、この事態も試験の一環として加える事とした。つまり、
「なっ!?」

 その言葉にピーターが愕然とした顔をする。ガーベラは……少し顔を険しくしていた。

『無論本件はイレギュラーであり、どう対処しようとも。鎮圧するも良し。逃走するも良し。そもそも完全に無視して試験を続行するも良し。そこは候補生自身の裁量に任せる事とする』

 お父様はそこでいったん言葉を切り、

『試験終了まであと1時間と少々だ。時間的に厳しい者も、体力的に厳しい者も居るだろう。或いは……厳しい者も。それぞれの最後の奮闘に期待する』

 そう言い残して、タメールからの全体通信は切れた。……もっと、喋ってほしかったな。




 通信が終わったけれど、残った面子に微妙な雰囲気が流れていた。

「……はぁ。どうして暴走したのかは今ので分かりましたが、厄介な事になりましたね」
「ええ。まったくですわ」
「えっ!? どしたの二人共? 要するにこれはお父ゴホンゴホン……ごめん。運営さんからのボーナスステージって事でしょ? 良い事じゃんっ!」

 あたしがそう不思議そうに言うと、二人を顔を見合わせて大きくため息を吐いた。何よその態度は。

「良いですかネルさん? この状況をボーナスととらえられるのネルさんくらいのものなんですよ? ……どうですかガーベラさん。さっきの暴走個体、?」
「オ~ッホッホッホっ! 当然勝てますわ! 一体どころか二体でも三体でもどんと来いですわっ! ……ただ、これがという但し書きが付きますが。流石に邪因子の消耗を考えてとなると、そうそうまとめては相手取りたくありませんわね」

 と、ピーターの質問にガーベラは少し自信がなさそうに返す。これはガーベラにしては珍しいね。

「ボクの知る限り、ガーベラさんは今回の候補生達の中でもかなりの上澄みです。そのガーベラさんがこう言うぐらいには暴走個体は危ないんです。正直言って……ボク一人だったらボッコボコにされます。運よく勝てたとしてもその後邪因子切れになって失格になります。そんなのがあっちこっちに居るなんて悪夢ですよっ!?」

 なるほど。言われてみれば確かに。

 あたしならさっきの奴くらい四、五体いっぺんに来ても勝てる。今のやけに調子が良い状態なら尚更だ。

 でも普通の候補生にとっては結構な強敵で、まともにやり合っていたら手こずって試験にならない訳か。

「勿論それを補うためにチームがある訳ですけど、今は試験の終盤。当然全員疲労も溜まっていて、脱落者もそれなりに出ている筈です。とても万全なんて望めないんですよ。そんな相手をボーナスなんて言えませんって」
「それに、先ほどの動きを見る限り理性なんてほとんど見受けられませんでしたわ。死なないように手加減なんて期待はしない方が無難でしょうね。……この試験、下手をすれば死傷者がゴロゴロ出るハメになりますわよ」
「さらに加えてさっきの通信の言い回し。どこかようなものでした。あれじゃあ加点欲しさに一か八か危険覚悟で向かって行くチームも出てきますよ」
「それは……ちょっとマズいね」

 ここでガーベラが以前言った“他の候補生は競争相手であって敵じゃない”という言葉を思い出す。

 怪我の一つや二つはほっといても治るけど、死ぬのはダメだ、将来あたしが幹部になったら、その時に部下になる奴も居るかもしれない。

「じゃあ分かってもらえた所で……これからどうします?」
「そんなの決まってんじゃん!」

 あたしは腕を大きく上に揚げて拳を握る。

! そこの人と倒した奴を近くのチェックポイントに運んでからゴールを目指す。途中また暴走している奴が居たら、他の候補生にちょっかい出す前にぶっ潰すっ! これで幹部の座はあたしの物って訳よ」
「何と言うか……机上の空論も甚だしいですね」
「まったくですわ。全部やるだなんて欲張りも良い所ですわよ」

 そうあたしがバッチシな計画を立てると、何故かピーターもガーベラも呆れたような、或いはという風な顔をする。なんか行動が読まれていたみたいでちょっと腹立つな。

「何よ? 悪の組織が欲張って何が悪いの?」
「フフフ。いえ。な~にも悪くはありませんね。リーダーさん。ここから最寄りのチェックポイントはどちらですの?」
「そう言うと思って調べてます。ここからならさっきの草原エリアに取って返すのが近いですね」
「……だそうですよ?」
「オッケー。……よっと!」

 あたしはまだ変身から戻らないでっかいワンチャンを担ぎ上げる。同じくガーベラも、髪でまだ怪我が治り切っていない候補生を支えながら背負った。

「さあ。行くよっ! 幹部の座を分捕りに!」
「「お~っ!!」」




 見ててくださいねお父様。オジサン。二人に誇れるようにあたし、頑張るからね!




 ◇◆◇◆◇◆

 ちなみに、ネルは無意識にですが他のメンバーも一緒に幹部にするべく加点を狙っています。最初は自分一人が幹部になればそれで良い筈だったんですけどね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...