積年日々チョコレート

ちえ。

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あまい、あまい

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 重なった唇がぴくりと震えた。
 熱いそれを何度か啄むと、溜息のような吐息が零れ落ちる。
 顔が見たくて少し身を引いてみる。潤んだ瞳がうっとりと俺の唇を追って動く。
「………たいち」
 不安げな、甘えた小さな声。
 もう一度口付けると、伏せられた睫毛が肌を擽った。

「尚、……甘い、いい匂いするな」
 逸らした唇で耳元へ囁きかけると、呻くように詰まった息が甘美な音を掠れさせる。
 わざとらしく尚の耳元で鼻を鳴らすと、擽ったそうにひくりと肩が跳ね上がった。
「…た、たいち、……」
 恥ずかしそうな消え入りそうな呟きは、蕩けきったチョコレートのように甘い音をしている。
 尚の何もかもが、甘い。
「尚………、可愛いな」
「……………っ」
 俺の首筋を撫でる震えた呼気には、官能的な艶めきが乗っていた。

 これが全部、俺のものだって知ってしまった。
 尚を占めている、尚を煽っている、尚に欲しがられてる。
 それに、ぐつぐつと煮えるように胸の中で何かが沸きあがっていて。
 欲なのか情なのかなんて、絶対に冷静ではないこの状況でわかる訳はないけれど。
 もっと尚を蕩けさせたい衝動を抑えきれない。


 もう一度唇を触れ合わせ、尚が丸めている腹筋を撫で下ろす。
 掌の下で、ひくり、ひくりと肌が蠢く。
 尚が必死に隠しているそこを指が掠めると、過敏なほどに強張った身体が跳ねて、ずれた唇の間から甘く震える吐息が零れた。
「…あ……ぁ…、……たいち、…」
 逃れようとしながらも抗えない尚の声は甘ったるい。乱れた吐息が耳を掠める。

 隠しきれない育ちきった隆起をゆっくりと指で辿ると、尚の呼吸は更に荒くなってゆく。丸みを帯びた先端が湯の中でもぬるりと滑った。
 重たげに湯を掻き混ぜる音を鳴らして、尚の腰がくねるのが色っぽい。
 ひっきりなしに吐息を零す唇を何度も啄む。
「ふ………、ぅ……ん、………ん…」
 尚の忙しない呼吸が、俺の唇にぶつかって塞いだ音を立てるのも堪らなく心をそそった。

 張り詰めた尚の自身を、ゆっくりと扱き上げる。
 湯の抵抗で、緩慢に擦り上げる掌に、尚の身体は揺れる。
「あ、……、や………、だめ、も、………んんっ…」
 それだけの温い刺激で、頭の中を占めてゆく甘い甘い吐息は乱れきって切迫し、簡単に尚の身体は昇り詰めた。
 矯正じみた音の荒い呼吸。脱力した身体を抱きしめて。
 閉じる事を忘れた唇の間から舌を差し入れて、無遠慮に内腔を舐め上げ、啜ると、何度も尚は身を跳ねさせた。


 のぼせた尚を半ば抱えるようにして、ひとまず俺の部屋のベッドに寝かす。
 冷え切っていた俺の身体がホットなくらいなのに、尚のもとより温まっていた身体は、過度に煽られてヒートに違いない。
 2DKの俺たちの住処は、DKの住人である尚の部屋はDKの隣。俺の部屋の方が玄関側で風呂場の近くだった。なので、これは下心とは言い切れない。

 尚をベッドに横たえて、心もとなさそうなぐったりした身体に取りあえずバスタオルくらいかけて、その顔を覗きこんだ。
 赤く茹った顔は、まだ蕩けている。
 焦点が甘い瞳がぼんやりと俺の顔を見つめて、それから恥じらうように視線を彷徨わせる。
 そして、ちらりと視線をこちらに投げかけながら、口元に緩みきった笑みを浮かべた。

 ちゅっと唇を啄むと、尚は赤い顔を片手で覆って呻く。
 思わず笑ってしまった。
 これが無理がない本当の姿だなんて、余りにも単純に信じられた。
「尚、俺さぁ」
 尚のまだ乾いていない髪を指で梳いてかきあげる。
 それはいつもの何気ない遣り取りで、いつものままの気持ちで。
「お前の事、すっげー好きみたい」
 ただ、認識の違いだけだった。

 そして、もう確信しているものの、どうしても聞きたくて堪らない。

「お前も、俺の事、すっげー好きだよな?」
 触れた指先から熱が沸きあがるように伝わってきている、赤い赤い肌の尚は、指の間から此方を盗み見ながら、頬をにやけさせてこくこくと頷いた。
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