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約束の夜 1
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ジョエル様のご就寝の準備を整えてから、私自身の準備をさせていただくために一度退室させていただいた。
同衾のお約束はしてしまったのだが、さすがに主様の寝具に身を清めずに上がる事なんてできない。
宿直所で入浴し、簡素なシャツとパンツに着替える。寝衣というわけではないのだが、部屋着くらいの気楽さではあるものだ。この姿でお仕えするのは随分と礼を失してはいるが、普段の装いでという訳にもいかないだろう。
なにせ、ジョエル様との同衾である。
普段通りの服装であったならば、寝る格好ではないと脱がされるのは目に見えている。
たいそうお疲れのご様子であるから、先にお休みになっていて下さらないものか。
なんて希望はことごとく叶う訳などなく。
ジョエル様のお部屋に伺うと、彼はベッドに腰を下ろして手招きをされている。
「お待たせいたしました」
恭しく礼をしてお待たせした事をお詫びすれば、緩んだ頬で此方を見上げる。
「どれだけでも待ってでも、嬉しい」
ここ最近で一番、ご機嫌は麗しいようだ。
ジョエル様は私に手を伸ばす。私は抗わずにその手に捕えられる。
お約束した範囲は、抗う事はできない。それ以上にどれだけ抵抗ができるだろうか。
彼は引き寄せた体躯を抱きしめた。顔の位地にある私の腹部へと擦り寄り唇を寄せられる。温かくくすぐったい刺激に、ひくりと腹筋が揺らいだ。
それから、唇を肌に添わしたまま曇った声で、上目に見つめて強請る。
「ねえ、アンディ、キスしたい」
懲りもせずにいつもの猛攻。
「駄目ですよ。一緒に寝る、というのがお約束だったはずです」
溜息に、わずかに笑いが混じってしまった。こんなどうしようもない遣り取りがひどく心を満たす。
飢えていた。それに気づかされてしまった。私は、ジョエル様の存在に、飢えていたのだと。
ジョエル様はぐいっと顔を上げて、私を仰ぐ。
「うん、じゃ、今日はそれでいい」
花が開くような、華やかで美しい満面の笑み。嬉しそうに弧を描いた唇の端が、幼くていたく可愛らしい。
それから、手を離すといそいそとベッドの真ん中へと身体を移動させる。最高級の艶やかな糸で編み上げられた軽くて柔らかい布団を、ご丁寧に自ら持ち上げてシーツをぽんぽんと叩き、私に隣に来るようにと促す。
まるでどちらが主か従かわからないようなその態度に、また小さく笑みが零れた。
今日の私は、少し緩みきっているのかもしれない。
「アンドリュー、会いたかった」
身を横たえた私に、ジョエル様が手足を絡ませて抱きつく。子供が甘えついたみたいにぎゅーっと力を込めて抱きしめて、顔を摺り寄せる姿は微笑ましい。
そして微笑ましいだけで終わらないのはいつものことで。
首を伸ばして私の頬へと唇を押し当てる。
流されては駄目なのに、振り払う気にはならない。そんな私の様子に彼は気を良くしたように、顔中にキスを降らせて唇を啄んだ。
「……お約束と、違います」
一言苦言を呈せば、熱を孕んだ瞳で私を見つめて、唇に美しい弧を描く。
「嘘だね。だって、今日のアンディーは僕を止める気がないもの」
少年染みた天使の微笑みに艶を乗せる。その瞳に宿る熱は、私を獲物としか見ていないかのように強くて鋭い。
息を飲むほど美しいその姿に、胸の奥が、じりじりと焦がれた。
彼は私よりも七つ年下で、何もかもの身の回りのお世話をさせていただくくらい幼かった。長らくの時を経て、彼はもう十七歳。気づけばもう子供ではなかった。
そう、それに、気づいていたのだ。
何を求めていたのかにも。
やわやわと食まれた唇に、熱い舌が這わされる。濡れた柔らかな感触は淫靡で、乱れそうな息を飲み込んで喉を潰す。
そんな抵抗などものともせずに、擽るようにあわいを舐め解されて、器用な舌が唇の内側に潜り込んでくる。
酷く煽られた。
何とか忍び込もうとしている、欲を帯びた瞳に。熱く乱れた呼吸に。
乱れた艶やかな髪が、私の頬を滑る。私が磨き上げた清浄で柔らかい香りが、微かに甘みを増して目前を埋め尽くす。
その舌を絡めてしまいたいと。
渦巻いた欲望を溜息に逃して、素直に開いた口腔を犯される。
「…アンディー、すき……大好き……」
掠れて上擦った甘い声が、キスの合間に零れ落ちる。蕩けるほど甘いその言葉が、嘘ではない事になんて、もうずっと前から気づいている。
弾む息が伝染するかのように、口の内側の粘膜を舐められる度に、舌を絡め啜られる度に、私の呼吸も乱されていく。
甘く狂おしく、痺れた舌先を貪りたい。疼く本能を瞼を閉ざして押し込める。
何に抗っているのかすら、ぼんやりと滲んでしまう。
仄暗く、胸の内を占めているのは、ただひたすら悦びだった。
ただ一人の方に、これほど求められている歓喜。
そう、私は多分、ずっとこの気持ちをひた隠してきていたのだ。
伝った唾液を吸うように、ジョエル様が私の顎、首筋と唇を這わせる。
解放された唇は蹂躙された名残に、震える吐息を逃すだけで精一杯だった。
ちくりと小さく痛みを伴うくらいに吸い上げ、舌を這わせて、ジョエル様は私の肌を夢中で舐めしゃぶる。
熱を帯びた指先がシャツを弄って、素肌を這った。
私の肌よりもずっと高い体温が、恐る恐る胸元を撫でていく。擽ったさに、笑いを含んだ溜息が零れた。
「ああ……アンディ、…好きだよ、愛してる……ぜんぶ、欲しい…」
熱烈な告白を刻む唇は、すぐに首筋へと戻っていく。ほんの少し離れるのが耐えられないという風に、焦燥を露わに。
全部、貴方に捧げられたならば、貴方は私のものなのでしょう。
ぐつぐつと煮詰まった想いから目を背けた。私は、しもべたらねばと。
溺れないのは、最後の抵抗に近い。
受け入れてしまったら、私は。そしてこのお方は。
まだそういう訳にはいかないのだ。
貴方の幸福を願うから。
同衾のお約束はしてしまったのだが、さすがに主様の寝具に身を清めずに上がる事なんてできない。
宿直所で入浴し、簡素なシャツとパンツに着替える。寝衣というわけではないのだが、部屋着くらいの気楽さではあるものだ。この姿でお仕えするのは随分と礼を失してはいるが、普段の装いでという訳にもいかないだろう。
なにせ、ジョエル様との同衾である。
普段通りの服装であったならば、寝る格好ではないと脱がされるのは目に見えている。
たいそうお疲れのご様子であるから、先にお休みになっていて下さらないものか。
なんて希望はことごとく叶う訳などなく。
ジョエル様のお部屋に伺うと、彼はベッドに腰を下ろして手招きをされている。
「お待たせいたしました」
恭しく礼をしてお待たせした事をお詫びすれば、緩んだ頬で此方を見上げる。
「どれだけでも待ってでも、嬉しい」
ここ最近で一番、ご機嫌は麗しいようだ。
ジョエル様は私に手を伸ばす。私は抗わずにその手に捕えられる。
お約束した範囲は、抗う事はできない。それ以上にどれだけ抵抗ができるだろうか。
彼は引き寄せた体躯を抱きしめた。顔の位地にある私の腹部へと擦り寄り唇を寄せられる。温かくくすぐったい刺激に、ひくりと腹筋が揺らいだ。
それから、唇を肌に添わしたまま曇った声で、上目に見つめて強請る。
「ねえ、アンディ、キスしたい」
懲りもせずにいつもの猛攻。
「駄目ですよ。一緒に寝る、というのがお約束だったはずです」
溜息に、わずかに笑いが混じってしまった。こんなどうしようもない遣り取りがひどく心を満たす。
飢えていた。それに気づかされてしまった。私は、ジョエル様の存在に、飢えていたのだと。
ジョエル様はぐいっと顔を上げて、私を仰ぐ。
「うん、じゃ、今日はそれでいい」
花が開くような、華やかで美しい満面の笑み。嬉しそうに弧を描いた唇の端が、幼くていたく可愛らしい。
それから、手を離すといそいそとベッドの真ん中へと身体を移動させる。最高級の艶やかな糸で編み上げられた軽くて柔らかい布団を、ご丁寧に自ら持ち上げてシーツをぽんぽんと叩き、私に隣に来るようにと促す。
まるでどちらが主か従かわからないようなその態度に、また小さく笑みが零れた。
今日の私は、少し緩みきっているのかもしれない。
「アンドリュー、会いたかった」
身を横たえた私に、ジョエル様が手足を絡ませて抱きつく。子供が甘えついたみたいにぎゅーっと力を込めて抱きしめて、顔を摺り寄せる姿は微笑ましい。
そして微笑ましいだけで終わらないのはいつものことで。
首を伸ばして私の頬へと唇を押し当てる。
流されては駄目なのに、振り払う気にはならない。そんな私の様子に彼は気を良くしたように、顔中にキスを降らせて唇を啄んだ。
「……お約束と、違います」
一言苦言を呈せば、熱を孕んだ瞳で私を見つめて、唇に美しい弧を描く。
「嘘だね。だって、今日のアンディーは僕を止める気がないもの」
少年染みた天使の微笑みに艶を乗せる。その瞳に宿る熱は、私を獲物としか見ていないかのように強くて鋭い。
息を飲むほど美しいその姿に、胸の奥が、じりじりと焦がれた。
彼は私よりも七つ年下で、何もかもの身の回りのお世話をさせていただくくらい幼かった。長らくの時を経て、彼はもう十七歳。気づけばもう子供ではなかった。
そう、それに、気づいていたのだ。
何を求めていたのかにも。
やわやわと食まれた唇に、熱い舌が這わされる。濡れた柔らかな感触は淫靡で、乱れそうな息を飲み込んで喉を潰す。
そんな抵抗などものともせずに、擽るようにあわいを舐め解されて、器用な舌が唇の内側に潜り込んでくる。
酷く煽られた。
何とか忍び込もうとしている、欲を帯びた瞳に。熱く乱れた呼吸に。
乱れた艶やかな髪が、私の頬を滑る。私が磨き上げた清浄で柔らかい香りが、微かに甘みを増して目前を埋め尽くす。
その舌を絡めてしまいたいと。
渦巻いた欲望を溜息に逃して、素直に開いた口腔を犯される。
「…アンディー、すき……大好き……」
掠れて上擦った甘い声が、キスの合間に零れ落ちる。蕩けるほど甘いその言葉が、嘘ではない事になんて、もうずっと前から気づいている。
弾む息が伝染するかのように、口の内側の粘膜を舐められる度に、舌を絡め啜られる度に、私の呼吸も乱されていく。
甘く狂おしく、痺れた舌先を貪りたい。疼く本能を瞼を閉ざして押し込める。
何に抗っているのかすら、ぼんやりと滲んでしまう。
仄暗く、胸の内を占めているのは、ただひたすら悦びだった。
ただ一人の方に、これほど求められている歓喜。
そう、私は多分、ずっとこの気持ちをひた隠してきていたのだ。
伝った唾液を吸うように、ジョエル様が私の顎、首筋と唇を這わせる。
解放された唇は蹂躙された名残に、震える吐息を逃すだけで精一杯だった。
ちくりと小さく痛みを伴うくらいに吸い上げ、舌を這わせて、ジョエル様は私の肌を夢中で舐めしゃぶる。
熱を帯びた指先がシャツを弄って、素肌を這った。
私の肌よりもずっと高い体温が、恐る恐る胸元を撫でていく。擽ったさに、笑いを含んだ溜息が零れた。
「ああ……アンディ、…好きだよ、愛してる……ぜんぶ、欲しい…」
熱烈な告白を刻む唇は、すぐに首筋へと戻っていく。ほんの少し離れるのが耐えられないという風に、焦燥を露わに。
全部、貴方に捧げられたならば、貴方は私のものなのでしょう。
ぐつぐつと煮詰まった想いから目を背けた。私は、しもべたらねばと。
溺れないのは、最後の抵抗に近い。
受け入れてしまったら、私は。そしてこのお方は。
まだそういう訳にはいかないのだ。
貴方の幸福を願うから。
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