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7.猫の昔話(3)
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大和と撫子にも姿だけでなく、共に変化した違和感のない女性らしい声の響きで幻術ではないと伝わったはずだ。ただ、そんな漠然とした説明でこの男が納得するわけがない。
大和はその術についての記憶を探っているのか、難しい顔をしていた。
「お前は猫又だ。性別を変え、いくつもの姿を自在に操れるような妖怪ではない。幻術でそう見せていただけというのならわかるが、違うというのならいったい何の術を使ったんだ?」
「それはアタシにもよくわかってないんだ。けど姿を変えられるようになった時の事なら教えられるよ」
「話せ」
「ふふっ、いいよ」
たった一瞬、夫の姿を考えただけで顔から笑みがこぼれ出した。彼がいなくなってしまって以来、記憶を思い起こす事だけが彼に笑いかけてもらえる手段だ。ただ、弥生の笑顔にはどこか陰りもあった。
弥生は共に暮らした彼との思い出を脳裏に描きながら、懐かしむように語り出した。
「昔、まだ妖怪になりたての2尾の猫又だった頃の話さ。アタシには人間の伴侶がいたんだ」
「人間?」
「そう、人間。あの人とは、アタシが人間に化けて人間界の村を転々としていた時に出会ったんだ。あの人、アタシの容姿にずいぶんと惚れ込んでねぇ。初めのうちは、人間と深く関わるのはろくなことにならないってわかってたから、嫌われるように邪険にしてたんだ。それでもずいぶんと熱心に口説いてきて、あまりにも鬱陶しくなって正体を見せたんだけど、全く怯えもせず、それでもいいって言ってくれたんだ。終いにはアタシも絆されちまってね、夫婦になったんだ。そして一緒に村を渡った。正体がばれる事はなかったよ。けど彼は人間だ。次第にあの人との容姿の差が親子に、祖父と孫に、そして終には彼の抜け殻だけが残った……それが受け入れられなくって、アタシは妖力を使ってあの人の体が朽ちないようにした。そしたらね、数十年経ったある日、あの人の体に変化が生じている事に気付いたのさ。どうにも若返ってるように見えた。それからまた数十年。あの人が出会った時の姿にまで戻った頃、突然彼の体が消えたんだ。必死に探し回ったよ。けど見つからなくて、それでも泣きながら探し続けた。何日もね。そして探すのに疲れて自死しようかと考えるまで思い詰めた。そして視界に入った池に身を投げようかと思って近づいた時に気がついた。自分の姿が探していたその人になってた。それが男の、夫の姿を得た経緯の話だよ」
話終わると、大和が何か考えている姿が視界に入った。さらにはその隣からはズズズという音が聞こえてくる。音の正体が目に入ると、弥生はぎょっとした。それは涙を流し、ひたすらに鼻をすすっている撫子だった。
大和はその術についての記憶を探っているのか、難しい顔をしていた。
「お前は猫又だ。性別を変え、いくつもの姿を自在に操れるような妖怪ではない。幻術でそう見せていただけというのならわかるが、違うというのならいったい何の術を使ったんだ?」
「それはアタシにもよくわかってないんだ。けど姿を変えられるようになった時の事なら教えられるよ」
「話せ」
「ふふっ、いいよ」
たった一瞬、夫の姿を考えただけで顔から笑みがこぼれ出した。彼がいなくなってしまって以来、記憶を思い起こす事だけが彼に笑いかけてもらえる手段だ。ただ、弥生の笑顔にはどこか陰りもあった。
弥生は共に暮らした彼との思い出を脳裏に描きながら、懐かしむように語り出した。
「昔、まだ妖怪になりたての2尾の猫又だった頃の話さ。アタシには人間の伴侶がいたんだ」
「人間?」
「そう、人間。あの人とは、アタシが人間に化けて人間界の村を転々としていた時に出会ったんだ。あの人、アタシの容姿にずいぶんと惚れ込んでねぇ。初めのうちは、人間と深く関わるのはろくなことにならないってわかってたから、嫌われるように邪険にしてたんだ。それでもずいぶんと熱心に口説いてきて、あまりにも鬱陶しくなって正体を見せたんだけど、全く怯えもせず、それでもいいって言ってくれたんだ。終いにはアタシも絆されちまってね、夫婦になったんだ。そして一緒に村を渡った。正体がばれる事はなかったよ。けど彼は人間だ。次第にあの人との容姿の差が親子に、祖父と孫に、そして終には彼の抜け殻だけが残った……それが受け入れられなくって、アタシは妖力を使ってあの人の体が朽ちないようにした。そしたらね、数十年経ったある日、あの人の体に変化が生じている事に気付いたのさ。どうにも若返ってるように見えた。それからまた数十年。あの人が出会った時の姿にまで戻った頃、突然彼の体が消えたんだ。必死に探し回ったよ。けど見つからなくて、それでも泣きながら探し続けた。何日もね。そして探すのに疲れて自死しようかと考えるまで思い詰めた。そして視界に入った池に身を投げようかと思って近づいた時に気がついた。自分の姿が探していたその人になってた。それが男の、夫の姿を得た経緯の話だよ」
話終わると、大和が何か考えている姿が視界に入った。さらにはその隣からはズズズという音が聞こえてくる。音の正体が目に入ると、弥生はぎょっとした。それは涙を流し、ひたすらに鼻をすすっている撫子だった。
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