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13.婚約する狐の親に(4)
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「撫子との婚約に、この者を推そうと思う」
突然の紹介に管桜の当主は不審な目を向ける。会ったこともない男を自分の娘の婚約者に通されたのだから当然の反応だ。
「そちらの方は?」
大和が弥生の方にちらりと視線を送る。挨拶をしろという事なのだろう。弥生は両手を畳の上についた。
「猫又の弥彦と申します。以後お見知りおきを」
深々と頭を下げる。地を治める大妖2人を前にし、弥生の心臓は弾け飛びそうになっていた。
頭を上げると、大和が再び口を開く。
「この者は昨日から俺の側近になった。撫子が泣きついて、嫁入り行列の大半を眠らせた男だ」
「なっ、この者が……⁉」
管桜の当主が立ち上がり、今にも殴り掛かってきそうになると、大和の手が弥生を守ろうとするように横に伸ばされた。
「気を静めてやってくれ。悪意があってやったわけではない。本人も十分に反省していている。それに、撫子もこの男を好いているようでな。出来ればあいつの好きなようにさせてやりたい。承諾していただけるのなら、こちらからの援助の話はそのまま継続させてもらう」
「それは、ありがたいお話なのですが……」
「不満か?」
「正直に言わせていただくと、不満ですね」
「この者が5尾以上の大妖でもか?」
管桜の当主の驚いたような顔が、勢いよく弥生の方へと向く。
「本当に?」
「ああ」
「そんな者が、無名で?」
「そうだ」
撫子を嫁入り行列から連れ出したという汚点はあるが、これから狐の長の側近になり、その長の大和が婚約者にどうかと推す男。さらには大妖という好条件で、愛娘が婚姻を望んでいる男。即座に首を縦に振られてもおかしくない条件が揃ってしまっている。弥生は断ってくれればと、緊張の糸を張り詰めさせていた。
管桜の当主はそんな好条件の中でも、どうすればよいか決めかねているようだった。
「やはりすぐにの承認は出来かねます。娘から願い出た事とは言え、誘拐まがいな事をしたというのも事実。大和様の側近になられた方とはいえ、それは昨日からの事で、何の功績もないとなりますと、そう簡単にお返事は……昭人殿と、という事でしたらすぐにでも了承いたしますが……あの御仁は撫子の事をずっと思ってくださっていますから」
どうやら昭人の思いに気がついていないのは、その思いを向けられている撫子本人くらいなのかもしれない。この場にいる3人はそれぞれで頭を抱えた。
そんな中、大和がしかたないと溜め息をついた。
「ならば、時間を設けるのはどうだろう。婚約者候補として弥彦と昭人を指名し、より撫子に相応しい方と婚姻を結ばせる」
「しかし、昭人殿が承諾されないのでは?」
「……こうなったら俺も腹をくくろう。もし、昭人の方が撫子に相応しいとなれば、俺も真面目に婚姻相手を探す。そうなれば、昭人も多少は撫子に気に入られるよう努力するだろうからな」
ずいぶんと婚姻を渋っていたらしい大和の重かった腰がついにあげられ、弥生に密かな期待が沸き上がる。
(これって、僕が名を上げないように気をつければ、婚姻を結ばずに済むんじゃあ)
悟られないように喜んでいると、大和がじとっとした視線を向けてくる。
「弥彦」
「へ?」
「だからと言って、わざと手柄を立てないようにするのはなしだ。最有力の候補はお前なんだからな」
「……わっわかってるよ」
弥生は笑顔のまま、内心がっくりと肩を落とした。やはり大和を出し抜くのは無理そうだ。
突然の紹介に管桜の当主は不審な目を向ける。会ったこともない男を自分の娘の婚約者に通されたのだから当然の反応だ。
「そちらの方は?」
大和が弥生の方にちらりと視線を送る。挨拶をしろという事なのだろう。弥生は両手を畳の上についた。
「猫又の弥彦と申します。以後お見知りおきを」
深々と頭を下げる。地を治める大妖2人を前にし、弥生の心臓は弾け飛びそうになっていた。
頭を上げると、大和が再び口を開く。
「この者は昨日から俺の側近になった。撫子が泣きついて、嫁入り行列の大半を眠らせた男だ」
「なっ、この者が……⁉」
管桜の当主が立ち上がり、今にも殴り掛かってきそうになると、大和の手が弥生を守ろうとするように横に伸ばされた。
「気を静めてやってくれ。悪意があってやったわけではない。本人も十分に反省していている。それに、撫子もこの男を好いているようでな。出来ればあいつの好きなようにさせてやりたい。承諾していただけるのなら、こちらからの援助の話はそのまま継続させてもらう」
「それは、ありがたいお話なのですが……」
「不満か?」
「正直に言わせていただくと、不満ですね」
「この者が5尾以上の大妖でもか?」
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「本当に?」
「ああ」
「そんな者が、無名で?」
「そうだ」
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管桜の当主はそんな好条件の中でも、どうすればよいか決めかねているようだった。
「やはりすぐにの承認は出来かねます。娘から願い出た事とは言え、誘拐まがいな事をしたというのも事実。大和様の側近になられた方とはいえ、それは昨日からの事で、何の功績もないとなりますと、そう簡単にお返事は……昭人殿と、という事でしたらすぐにでも了承いたしますが……あの御仁は撫子の事をずっと思ってくださっていますから」
どうやら昭人の思いに気がついていないのは、その思いを向けられている撫子本人くらいなのかもしれない。この場にいる3人はそれぞれで頭を抱えた。
そんな中、大和がしかたないと溜め息をついた。
「ならば、時間を設けるのはどうだろう。婚約者候補として弥彦と昭人を指名し、より撫子に相応しい方と婚姻を結ばせる」
「しかし、昭人殿が承諾されないのでは?」
「……こうなったら俺も腹をくくろう。もし、昭人の方が撫子に相応しいとなれば、俺も真面目に婚姻相手を探す。そうなれば、昭人も多少は撫子に気に入られるよう努力するだろうからな」
ずいぶんと婚姻を渋っていたらしい大和の重かった腰がついにあげられ、弥生に密かな期待が沸き上がる。
(これって、僕が名を上げないように気をつければ、婚姻を結ばずに済むんじゃあ)
悟られないように喜んでいると、大和がじとっとした視線を向けてくる。
「弥彦」
「へ?」
「だからと言って、わざと手柄を立てないようにするのはなしだ。最有力の候補はお前なんだからな」
「……わっわかってるよ」
弥生は笑顔のまま、内心がっくりと肩を落とした。やはり大和を出し抜くのは無理そうだ。
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