31 / 40
第三十一話:元カノの本心を聞く
しおりを挟む
――ずっとずっと、智樹が好き。
「……なんでだよ」
頭が真っ白になった。
訊く前に想像していた答えと同じだったはずなのに、実際に俺にもたらした衝撃はその想像を遥かに超えていた。
「それなら……なんであのとき、『別れよう』なんて言ったんだよ!」
知りたい。
なんで好きだったのに、別れる必要があったのか。
なんでその選択に辿りつくことになったのか。
「だってしょうがないじゃない! じゃあ逆に訊くけど、あのまま付き合ってて元に戻れたと思う? ちゃんと仲が良かった頃の私たちみたいに、またなれたと思う?」
考える。
あのまま関係を続けていたとき、どうなっていたのかを。
すでにあの頃、連絡を取り合うことすら少なくなっていた。
会っても口数少なく、なんとなく気まずい雰囲気が流れるだけの時間。
たしかに紗香の言う通りかもしれない。
だがそれを肯定したくはなかった。
「――だとしてもさ、ちゃんと腹割って話し合えばよかっただろ! そうすれば俺だって……!」
「『俺だって』何? あの頃、私に興味すらなかった智樹が……それを言うの?」
「そんなことは……」
想像以上に平坦な声が俺の耳に響き、言葉を詰まらせてしまった。
紗香が内に抱えるのは、悲しみなのか怒りなのか。
上手く判別がつかなかった。
「じゃあさ、この際だから訊くけど、あの頃、私のこと、どう思ってたの?」
「それは……」
思わず黙ってしまう。
言えなかった。
あの頃のことを思い出すのは時間がかかる。
だってずっと目を逸らしてきたのだから。
努めて、思い出さないようにしてきたのだから。
――だが、それは明確に悪手だった。
「…………ほらね。何も言えない。その程度だったんだよ、智樹は。だからもしあのとき私が『やっぱり智樹のことが好きだからやり直してほしい』なんて言ったところで、無理だった。関係は継続出来たかもしれない。でも、私の方が常に下手に出て、顔色を窺って……そんな付き合い方、嫌だよ。智樹とは対等な関係でいたいよ……」
言ってから、紗香は手で目を拭った。
届いてくる声が、途中からどんどん震えていったのがわかった。
伝えたい。
今、伝えなきゃいけないのはわかっている。
でもうまく思考がまとまらない。
俺がそうしてまごついている間にも、紗香は話をどんどん進めていってしまう。
「だから考えたの。一度別れて、またイチから……友達からやり直せば、上手くいくんじゃないかって。恋人としてはダメでも、友達なら……って。例え友達でもずっと近くにいれば、また私のことを見てくれるんじゃないかって。――実際、別れてからは私たち、結構うまくやれてたと思わない? それこそ、付き合っていた頃……最後の半年間よりもよっぽど」
「まあ……な……」
紗香の言う通り、別れてからの俺たちの仲は良好だった。
それこそ、また付き合うのもありなのではないかと思えるほどには。
別れた直後こそ独特の気まずさはあったものの、それは日を追うごとにどんどん払拭されていった。
別れる前よりも、よっぽど仲の良いふたりをやれていた。
「……そもそも、なんでそうなっちゃったんだよ。なんで俺のこと好きだったのに、あんな微妙な感じになっちゃったんだよ」
本当は否定したかった。
うまくやれていたなんて、認めたくなかった。
でも認めざるを得なかった。
だから俺が言えたのは、そんなつまらない言葉だけだった。
だがそんな言葉は届かない。
当たり前だ。
本心を伝えてくれている相手に、口先から反射したようにで出てくる言葉なんて、何の意味もなさない。
当の俺ですら消化しきれていない気持ちなんて、届くはずがない。
「そんなの私が訊きたいよ……! そんなこと、何回も何回も考えた。でもわからなかった。どれだけ考えたって、これが原因だっていうちゃんとことなんて思いつかなくって……。なんでこうなっちゃうんだろう、なんで智樹は私に興味なくなっちゃったんだろう、ってそんなことばかり考えてた。ねえ、なんでなの? 教えてよ……!」
「先に愛想尽かしたのは紗香の方だろ! 俺はいつも通りにしてた! 少なくとも、嫌な態度見せたことなんてない!」
「私だってそんなことしてないよ! だってずっとずっと好きだったもん! そんなことするわけないじゃん!」
ああ……なんでこんなことを言ってしまうんだろう。
本当は喧嘩なんてしたくない。
売り言葉に買い言葉なんて、何一つ、いい結果を生むことなんてないのに。
いま大事なのは、そんなことじゃないのに。
だけどそんな俺の意に反して、勝手に口は言葉を紡いでいく。
「……じゃあ、あれはなんでだよ。俺がメッセージ送ったとき、前と比べて返ってくるのが目に見えて遅くなったのは。それに紗香の方からも全然来なくなってったし」
「そんなの……しょうがないじゃん……。だって怖いよ。何を送ったらいいのかわからないよ。気づかないうちに智樹の逆鱗に触れたりなんかして、嫌われちゃったらどうしよう、ってそんなことばかり考えてた。返信するだけでもそんななのに、自分からなんて送れるわけないじゃない!」
「はあ? 俺がいつそんなこと言ったんだよ!」
「言ってないよ! 言わなかったんだよ……何も……私たちは。だからきっと、こんなふうになっちゃったんだよ……」
「……なんでだよ」
頭が真っ白になった。
訊く前に想像していた答えと同じだったはずなのに、実際に俺にもたらした衝撃はその想像を遥かに超えていた。
「それなら……なんであのとき、『別れよう』なんて言ったんだよ!」
知りたい。
なんで好きだったのに、別れる必要があったのか。
なんでその選択に辿りつくことになったのか。
「だってしょうがないじゃない! じゃあ逆に訊くけど、あのまま付き合ってて元に戻れたと思う? ちゃんと仲が良かった頃の私たちみたいに、またなれたと思う?」
考える。
あのまま関係を続けていたとき、どうなっていたのかを。
すでにあの頃、連絡を取り合うことすら少なくなっていた。
会っても口数少なく、なんとなく気まずい雰囲気が流れるだけの時間。
たしかに紗香の言う通りかもしれない。
だがそれを肯定したくはなかった。
「――だとしてもさ、ちゃんと腹割って話し合えばよかっただろ! そうすれば俺だって……!」
「『俺だって』何? あの頃、私に興味すらなかった智樹が……それを言うの?」
「そんなことは……」
想像以上に平坦な声が俺の耳に響き、言葉を詰まらせてしまった。
紗香が内に抱えるのは、悲しみなのか怒りなのか。
上手く判別がつかなかった。
「じゃあさ、この際だから訊くけど、あの頃、私のこと、どう思ってたの?」
「それは……」
思わず黙ってしまう。
言えなかった。
あの頃のことを思い出すのは時間がかかる。
だってずっと目を逸らしてきたのだから。
努めて、思い出さないようにしてきたのだから。
――だが、それは明確に悪手だった。
「…………ほらね。何も言えない。その程度だったんだよ、智樹は。だからもしあのとき私が『やっぱり智樹のことが好きだからやり直してほしい』なんて言ったところで、無理だった。関係は継続出来たかもしれない。でも、私の方が常に下手に出て、顔色を窺って……そんな付き合い方、嫌だよ。智樹とは対等な関係でいたいよ……」
言ってから、紗香は手で目を拭った。
届いてくる声が、途中からどんどん震えていったのがわかった。
伝えたい。
今、伝えなきゃいけないのはわかっている。
でもうまく思考がまとまらない。
俺がそうしてまごついている間にも、紗香は話をどんどん進めていってしまう。
「だから考えたの。一度別れて、またイチから……友達からやり直せば、上手くいくんじゃないかって。恋人としてはダメでも、友達なら……って。例え友達でもずっと近くにいれば、また私のことを見てくれるんじゃないかって。――実際、別れてからは私たち、結構うまくやれてたと思わない? それこそ、付き合っていた頃……最後の半年間よりもよっぽど」
「まあ……な……」
紗香の言う通り、別れてからの俺たちの仲は良好だった。
それこそ、また付き合うのもありなのではないかと思えるほどには。
別れた直後こそ独特の気まずさはあったものの、それは日を追うごとにどんどん払拭されていった。
別れる前よりも、よっぽど仲の良いふたりをやれていた。
「……そもそも、なんでそうなっちゃったんだよ。なんで俺のこと好きだったのに、あんな微妙な感じになっちゃったんだよ」
本当は否定したかった。
うまくやれていたなんて、認めたくなかった。
でも認めざるを得なかった。
だから俺が言えたのは、そんなつまらない言葉だけだった。
だがそんな言葉は届かない。
当たり前だ。
本心を伝えてくれている相手に、口先から反射したようにで出てくる言葉なんて、何の意味もなさない。
当の俺ですら消化しきれていない気持ちなんて、届くはずがない。
「そんなの私が訊きたいよ……! そんなこと、何回も何回も考えた。でもわからなかった。どれだけ考えたって、これが原因だっていうちゃんとことなんて思いつかなくって……。なんでこうなっちゃうんだろう、なんで智樹は私に興味なくなっちゃったんだろう、ってそんなことばかり考えてた。ねえ、なんでなの? 教えてよ……!」
「先に愛想尽かしたのは紗香の方だろ! 俺はいつも通りにしてた! 少なくとも、嫌な態度見せたことなんてない!」
「私だってそんなことしてないよ! だってずっとずっと好きだったもん! そんなことするわけないじゃん!」
ああ……なんでこんなことを言ってしまうんだろう。
本当は喧嘩なんてしたくない。
売り言葉に買い言葉なんて、何一つ、いい結果を生むことなんてないのに。
いま大事なのは、そんなことじゃないのに。
だけどそんな俺の意に反して、勝手に口は言葉を紡いでいく。
「……じゃあ、あれはなんでだよ。俺がメッセージ送ったとき、前と比べて返ってくるのが目に見えて遅くなったのは。それに紗香の方からも全然来なくなってったし」
「そんなの……しょうがないじゃん……。だって怖いよ。何を送ったらいいのかわからないよ。気づかないうちに智樹の逆鱗に触れたりなんかして、嫌われちゃったらどうしよう、ってそんなことばかり考えてた。返信するだけでもそんななのに、自分からなんて送れるわけないじゃない!」
「はあ? 俺がいつそんなこと言ったんだよ!」
「言ってないよ! 言わなかったんだよ……何も……私たちは。だからきっと、こんなふうになっちゃったんだよ……」
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる