君に「さよなら」を伝えたい

金石みずき

文字の大きさ
3 / 8

第三話:誤解

しおりを挟む
「ね、ねえ、凌太。今日一緒に帰ってもいいかな?」

 帰りのホームルームが終わり、教科書を鞄に詰めていると、既に準備を終えたらしい涼音が訪ねてきた。
 やはりまだ昨日のことを気にしているのだろう。伺うような視線だ。

「あぁ、一緒に帰ろうぜ」

 少しは不安を振り払えれば、と努めて軽い調子で答えて、一緒に学校を後にする。


 帰りの道程を半分ほど歩いたが、俺たちはこれまでほとんど何も話していなかった。
 絶対に今日言おう、と心に決めたのだが、如何せんそのきっかけがない。
 まずは軽く世間話でジャブを打って……と思って話しかけはするのだが、涼音の反応が鈍すぎるのだ。朝はこんな感じじゃなかったのだが、一体何かあったのだろうか。

 違和感を覚えたまま歩き続けたが、もう一〇分もしないうちに家に着いてしまう。そろそろ言わなければならない、と決心して口を開く。

「なぁ――」「ねぇ――」

 思わずお互い顔を見合す。

「な、なに?」
「涼音こそ、なんだよ?」
「いいよ、私のは大したことじゃないから! 凌太から言って!」
「いやいや、ずっと何か考えてたじゃん。言いたい事あんだろ。言えよ」

 自分のことは棚にあげて促すと、「それじゃあ……」と涼音が意を決した様子で話し出した。

「もしかして里香ちゃんと……付き合ってるの?」
「――は?」

 なんだこいつ、何言ってんだ。
 思わぬ問いかけに頭が真っ白になりながらも否定する。

「いやいや、そんなわけねえじゃん」
「嘘! だって昼休み屋上で抱き合ってたでしょ!」
「あ、あれは里香が転びそうになったのを支えただけで……」
「じゃあなんでわざわざ二人だけで屋上に行ったの?!」
「それは……」

 何と言っていいかわからず言い淀むと、涼音が悲しそうな表情をした。

「やっぱりね……。それなら早く言ってよ……。そしたら昨日告白なんてしなかったのに……二人のこと、ちゃんと応援したのに……」
「違う、そうじゃない」

 否定したいだけなのにどうにも言い訳くさくなる。
 俯いた涼音の目からぽろぽろと涙が落ちた。拳は硬く握りしめられ、真っ白なんだか真っ赤なんだかよくわからない色になっていた。

「だから違うんだって! 話聞いてくれよ!」
「二人のこと大事な友達だと思ってたのに……。もう知らない! 話しかけないで!」
「待っ――」

 伸ばした手は空を切り、涼音は走り去ってしまった。
 俺は追いかけることも出来ずに、その場に佇んだ。

「どうすんだよ、これ……」

 思わず仰ぎ見た空は俺の心境を反映したかのような夕焼けに青藍が混じった不穏当なものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...