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32- これは終わりのプロローグ

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 次に目を開けたとき、そこは草原だった。



「……どうやら、生きて帰れたみたいですね」

 生暖かい風に吹かれて、サシャが小さく呟いた。

 まるで長い悪夢を見ていたように、意識はぼんやりと霞んでいる。

 リスペディアは少し気分が悪くなっていたが、徐々に指先から意識が戻っていくのを感じた。
 

「ねぇリスペディア、呪い、なくなってる?」

 テドに尋ねられ、ステータスを確認する。

「……うん、なくなってる」

 当然のように、そこに呪いの表示はなかった。
 あれほどこびりついて取れなかったものが、こんなにも、あっさりと。


「本当!? やったねリスペディア!」

 テドは嬉しそうに目を細め、リスペディアの手を取ってぴょんぴょん跳ねる。


 近くにいるサシャは完全に目を回して倒れているが、テドは元気らしい。

「うーん……良かった、何よりだ……」

 思った以上にシエルもダメージを受けているようで、苦しそうに蹲っている。


 
「……でも、テドは良かったの?」

「え? 何が?」
「私が呪いを失ったってことは、テドのレベルは、上がらなくなっちゃったってことよ」

「いいよいいよ! 僕、リスペディアの呪いが解けて良かった!」


 テドは全く屈託もなくニコニコしていて、そんな顔を見ている内、リスペディアもおかしくなって笑い始めた。


「そうね、素直に喜ぶことにするわ」
「そうだよ! 僕は初期レベルに戻っちゃってるだろうけどね」

 とテドは言って、「まあいいよ」と言う。



「僕にはリリーがいるし、今はサシャっていう新しい仲間もいるし、大丈夫だよ。ねー、リリー?」

「んぁ? なンだよ、大きいコエ、ダスな。なんか、アタマがズキズキすルゼ……」

 目を擦りながら、白い髪の少女が立ち上がる。



 彼女はふらふらと頭を揺らし、夏には不似合いの白いコートを着ていた。

 テドよりも一回り幼く、その小さな額に手の平を当てて、下から睨み上げるようにして、目を開く。


 キラキラした宝石みたいな、輝くオッドアイ。

 それは間違いなく、息を呑むほどのの美少女だった。


 そんな彼女を前にして、リスペディアは息が詰まって、上手く声を出せなかった。



 そんな美しく可憐な彼女は、不思議そうに小さく首を傾げて呟いた。


「……オマエラ、なんか小さくなったカ?」
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