第六監獄の看守長は、あんまり死なない天使らしい

白夢

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42 愉快な仲間たち

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 俺は気分が悪くなりながら、執務室に戻った。

 こんなに最悪の気分の時は、昔なら監獄医とドラッグアルコールパーティーを開催していたのに、今は監獄医もドラッグもアルコールもない。


「……はぁ」

 どうすればいいんだ、と俺は久しぶりに全てが嫌になって天井を仰いだ。


 海とか行って叫んだら、すっきりできるのだろうか。
 この国は内陸国なので、海に出るには帝国か連合国かに亡命する必要があるが。


「やァ。お困りのようだネ」
「ああ全くだ…………ぁ!?」

 目を見開く。
 見慣れた天井、いや職場の天井なんてそんなに仰がないから見慣れているわけではないが、その見慣れない天井の影に、人の顔が浮かんでいた。


「また会ったネ」
「お前は……!!」

 俺は銃を抜いて天井に向かって発砲する。
 弾は照明に当たって砕け散った。


「ちょっと、やめてヨ。僕はまた話し合いに来たんだかラ」

「お前との会話はうんざりだ。俺とお前は分かり合えないってことになっただろうが。今更話し合いなんてできるか」

「簡単に分かり合うことなんてできないヨ。この前は僕も余裕がなくて、怖がらせてしまっタ。ごめんネ」

「ごめんで済んだら弾丸は要らないんだよ! 出て来い!」

 俺は油断なく周囲を見渡すが、奴の姿は見当たらない。


「僕のことを教えるヨ。僕はヴァンピールの覚醒者なんダ。影分身シャドウ・レイを使ってるから、今の僕を殺しても意味はなイ。僕は死体を身代わりにしてるんダ。今日、この国で何人の人が死んだと思ウ?」

「技名つけて喜ぶのは十歳までだクソ野郎。殺してやる」

「喜んでるわけじゃないんだけどナ」

 ヴァンピールは俺の目の前から姿を現し、少し悲しそうに笑った。
 俺は銃口を向けたまま、しかし発砲はせず睨みつける。


「それで、今日は何の用だ? 監視してたなら、俺の機嫌が悪いことくらいは分かっただろ」

「監視されてたことについては、怒ってないノ?」
「もう慣れてる」
「それは良かっタ。今日は、お詫びのしるしにプレゼントを持って来たんダ」

 そう言うと、ヴァンピールは影から何か大きな死体を取り出し、その場に置いた。


「それは?」
「覚醒者の死体だヨ。ここを襲ったヴァンピール」
「……主犯はお前らじゃないのか?」
「違うヨ。捕まえて来たんダ。運ぶのが難しくて、殺したけド」

 ヴァンピールは「プレゼントだヨ」とか言って不気味な笑顔を浮かべた。いや、闇に侵されていてそう見えるだけで、本人は普通に笑っただけかもしれないが。


「ところで、なんだか困ってるみたいだったけド」
「お前のせいで悩みが1つ増えたけどな!」

 俺は手元の万年筆を投げつけた。

 ヴァンピールはそれをするりと避けて、肩を竦める。

「……うん、それはそうなんだけどネ。僕には触れられないし、僕からも触れられないから、本当に争う意味はないヨ」

「話す意味もない。帰れ」
「あの覚醒者を抱えて、守ってたのを見たヨ」

 ヴァンピールは帰るつもりはないようだった。
 俺は舌打ちして、椅子に身を沈める。


「それが仕事だからな」
「職務に忠実なんだネ。あの覚醒者も、随分懐いてるみたいに見えタ」

「あのガキは誰にでもそうだ」

「そんなこともないんだけどネ。それと、僕らはあの場所を色々と探索して回ったときに見つけた資料を読んだんダ。ヴァンピールの治療を、真剣に頑張ろうとしてた人もいたんだって分かって、皆殺しにしたのは、ちょっと反省したんダ。人間の中にも、殺さない方がいい人もいるかもしれないって思っテ」

「だからなんだ?」
「取引したいんダ。君の手伝いをするヨ」

「俺の手伝い? 死んだ看守の代わりでもやってくれるのか?」
「いいヨ」
「帰れ!!」

 俺は再び発砲し、ヴァンピールを黙らせる。
 照明のスイッチに直撃し、部屋は暗闇に包まれた。


「また来るヨ。お話してくれてありがとウ!」
「死ね!」

 俺は色々溜まってイライラして、感情のままに怒鳴り散らした。


 それとほぼ同時に、執務室の扉が開く。


「看守長、持って来たよー!」


 間抜けな声が暗闇に響いた。
 例のサディストだ。俺は憮然として、腕を組んだ。


「……どしたの看守長、こんなに暗くしちゃって。サプライズ?」
「ああ。今日はお前の最後の出勤日だからな」
「ヒエッ、エッ、ななななんで!?」
「世界一鬱陶しいな、お前」
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