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王都での毎日
しおりを挟むルゴシたちとは、王都に着いてすぐ別れた。
王都まであと数百メートルというところで、連絡を受けて待ってたらしい医師とか騎士とか魔術師とかが現れ、ルゴシの惨状に驚き、王都の門をくぐると同時に転移魔法でどこかへ連れて行ってしまったのだ。きっと病院か、それに準じる場所へなのだろう。
少女たちも、ルゴシと一緒に行った。だから、ルゴシや少女たちとの別れは、馬車が門に着くまでの数百メートルで済まされることとなった。
「どんな輝きも、いつかはより新しく強烈な光に塗りつぶされる。アタシには良く分かる。これまで、そうやって塗りつぶす側として生きてきたんだから、それはもう良く分かる。だからでしょうね、塗りつぶされた側がどう振る舞うべきかも良く分かるってわけで……そうだね。とりあえず、食事の場所に迷ったら、アタシに声をかけて下さい。王都だったら、いくらでも美味しい店を紹介してあげますから」
少女たちは、その横で頭を下げてたが、ルゴシが「ほら君たちも」と促すと。
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
と言って、また頭を下げた。
その直後に手を叩いて大笑いするルゴシは、良い保護者なのではないかと思う。
それから、2週間が経った。
●
俺を王都に呼んだのは『お嬢さま』――ミルカ=フォン=ゴーマンだ。
しかし、俺が王都に着いてから2週間が過ぎた現在も、彼女とはまだ会っていない。その間、俺が何をしてたかというと、ゴーマン家が手配した教師たちによるテストとマナーのレッスン。ただひたすら、それだけの毎日だった。
「どうして、こんなコトになっているのやら……ですなあ」
ウィルバーが、そう言う。ため息混じりの、明らかにからかう口調だった。奴のイヤミな物言いはまったく変わらないのだが、同じイヤミでもフレンドリーというか、客観的に見て、俺たちはかなり仲良くなってるのかもしれない。
「自業自得です」
そう答えるしかない。マナーの方はともかくとして。テストの方は、俺がやりすぎたせいだ。妙に難易度の高いテストだったので張り切ったら、それが教師たちの歓心を買ってしまったらしい。テストといっても、ペーパーテストは初日だけで、次の日からは対面で教師の出す問題に答える形になった。教師たちは、俺のことを明らかに面白がってる様子だ。
「もしかして、初日のテストで頑張り過ぎなければ、2日目以降のテストは無かったのではないでしょうか……そう思えて仕方がないのですが……」
そんな俺の見解に、ウィルバーからのコメントは無かった。
代わりに。
「クサリさまの噂を聞いて、是非お会いしたいとの申し出が来ております。2名――剣術と魔術の練達者ですな」
「来てもらって下さい」
それ以外、どう答えたらいい?
●
「エシュロム・メンブロードだ。さ、好きなように打ち込んで来たまえ」
ムスッとした表情で言ったのは、顔も身体も四角い男だった。
「王宮騎士団の『剛剣王』と呼ばれていらっしゃるお方です」
と、耳打ちして離れてくウィルバー。
このエシュロムという男、見た限り、確かに下手ではない。
上手いという程でもないが。
だが森の村で立ち会った冒険者と比べたら、流石に越えられない壁が感じられた。
エシュロム>>>越えられない壁>>>冒険者
「行きます」
「え?」
とりあえず正面から打ち込んだら、受けた木剣が、エシュロムの手から落ちた。
「ちょ、ちょっと待って、ちょっと……さあ、来たまえ!」
木剣を拾って構えるエシュロムに、また打ち込む。
「はい」
「え?」
また落ちた。
「ちょちょちょちょちょちょちょちょ………イヤァ! さあ来い!」
「はい」
さすがに、3度目は落とさなかった。
「どうだ!?」
カンカンカンカンコンカンカン
「ぬぬぬぬ!!」
カンカンカカカカカココンカン
「なんと!?」
コンコンカカカンカカカンカン
「まだまだ! まだまだ!」
剣を交わしながら見ていると、エシュロムがどんどん表情豊かになっていくのが分かった。最初のムスッとした表情が、どんどんほどけてくような感じだ。既視感があった。教師たちと同じだ。まずい。このままだと、この人にも面白がられてしまう。そんなことを考えてたら、不意打ちを受けてしまった。
「ぎょぇえええええっっっ!! ぼいちゃあああああぁっっっ!!」
「ぶふぅううううっ!!」
エシュロムの気合というか雄叫びが、笑いのツボに入ってしまったのだ。なんぼなんでも、それはないでしょう――腹の底が抜けたような脱力感に、ついつい俺は、手加減を忘れてしまった。いつもの両手に木剣を持つスタイルでなく、今日は1本を両手で握っていたのだが、それを片手に持ち替え、空いた手に新たな木剣を顕現。
「ぼほぅっ!!」
片方で剣を受け、気付くともう片方でエシュロムの胴を叩いていた。もちろん途中で『はっ!?』と気付き、威力は大幅減してある。
「すぅうう……」
どすんと倒れ、見るとエシュロムは、にっこり笑った表情で気絶していた。
イビキをかいたりはしてないから、まあ大丈夫か。
大丈夫じゃないのは、俺の方である。
「んんんんっ!? いま、その手に……剣を出したね!? 何をやったのだね? 何をやったのだね? んんんんんんっ!?」
大声でいいながらずかずか近寄ってくるのは、魔導衣を着た大男だ。
魔術の教師、なんだろうなあ……正解でした。
「ナンデア=イデアル氏――王立魔術院の、筆頭教授です」
と、そっと情報だけ置いて立ち去る。それがウィルバーのスタイルか!? 問い詰めたい気持ちを抑えながら、俺は氷弾、炎弾、呪力弾――次々と飛んでくる魔術の弾を、木剣で弾き返したのだった。数えたら、42回。そして――
「おええええええええっ!!」
――あまりに激しい技の応酬に吐いたのは、俺じゃなくて『おうりつまじゅついんのひっとうきょうじゅの、なんであいであるってひと』だ。そこまでやる必要がどこに? 吐くまでパーティーって洋楽があったけど、吐くまで魔術?
と、そんな俺の呆れとは関係なく、その日から剣技と魔術のテストもスケジュールに加えられたのだった。
ウィルバーが言った。
「時間が空いたら、クサリさまに王都を案内するようにと言われてたのですけれどねえ。時間を作るのが、また難しくなってしまいましたねえ……」
おまえ、ちょっと屋上まで(以下略)
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