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幹部狩り
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王都にいる『スネイル』は壊滅。
幹部のボエルッタから、『スネイル』本体の情報も得られた。
それによると、『スネイル』のボスは『マタド=ナリ』にいる。
大陸北部の『ハジマッタ王国』にある街だ。
というわけで――
「じゃ、行っちゃおうか」
イゼルダが言うと、反応は2つに別れた。
顔を強張らせるのと、ほころばせるの。
警邏隊の偉そうな人以外は、全員、後者だった。
5分後、俺たちは『マタド=ナリ』にいた。
●
転移魔法だと、移動時間がかからないから、距離が分からない。もしかしたら、時差があったのかもしれない。王都はまだ夜だったのに、『マタド=ナリ』はもう朝だった。
イゼルダが、通りかかった宿の看板を指さして言った。
「お昼に、あそこに集合ね」
そこからは、別れて自由行動だ。イゼルダと俺、ウィルバーとミルカ、アドニスの3組。別れて数ブロックも歩く頃には、街のあちこちの方角から火の手が上がり始めていた。ミルカの『黒い代行者』だ。彼女は、スネイル構成員の殲滅を任されている。
「あそこの家ですね。グリドモアースが住んでます」
イゼルダと俺は、幹部の担当だ。
情報をもとに、一軒一軒、棲家を訪ねてぶった切っていく。
最初の一軒は『キツネ目のグリドモアース』。
凄腕の『毒使い』だ。
「じゃ、ここは私がやっちゃうね? 一軒ごとに、交代でいきましょう」
右手に剣、左手に硬貨の詰まった袋を持って、イゼルダがドアの前に立つ。
ごとん。
ドアの向こうで何か重い物が落ちた音がし、俺達は家の中へと入った。
ずかずかと奥に進み、着いたのは寝室。
「おうら。起きろ~」
ベッドで寝てる男に、俺は持ってた黒い物を叩きつける。
玄関で拾った、錠前の残骸だ。
「い、いってえなあ。ユウキ? カレン? 誰だよ……」
頭を押さえ、シーツの中から起き上がる青年は、そんな仕草すらもさまになる、しゅっとしたイケメンだった。アドニスと並んだら、さぞ絵になりそうだ。こういうイケメンに対して、そろそろ俺も『もげろ』以外のボキャブラリーを手に入れるべきかもしれない。
俺はしゃがんだ。
頭の上を、幻の剣閃が通り過ぎていく。
「さすがね~。クサリちゃん、思った通りやりやすいわ」
携えた剣を、ぴくりとも動かさぬまま、イゼルダが言った。
イゼルダは、その能力で、剣を振らずに敵を斬る。しかし『実際に剣を振って斬るのと同じ様に、剣の通るルートを空けておいた方がやりやすいのでは?』という俺の推測は、正しかったみたいだ。
振り向くと、部屋の隅で女がまっぷたつになっていた。吊り上がった細い目に、肘までを覆う手袋。ボエルッタの情報によると、あの手袋の下がどうなってるかは、誰にも見せたことがないらしい。
「……お、お、おおおおぅ?」
青年が、目を丸くしていた。いつもならこの時間、彼はまだ熟睡している。ちょっとやそっとの物音では目を覚まさないくらい深く――グリドモアースの薬によって。
これもボエルッタの情報だが、グリドモアースは、毎晩、この青年の寝顔を眺めていたのだという。あの部屋の隅から、毎晩毎晩。部屋に転がる人体の残骸から、青年がその答えにたどり着くことは出来るだろうか? 出来ない方が幸せだとは思うが。
投げキッスして寝室を去り。
家を出るなり、イゼルダが言った。
「ああいう男をさ。ぶん殴りながらファックするのって最高なのよね」
応えず、次の家へと向かった。
二件目は『稲妻のベルクト』。
雷撃系の魔法の使い手だ。
「今度は、私の番ですよね」
『両断』イメージで扉を真っ二つにし、家に入った。情報通り、家の中は床が水浸しになってた。そしてこれも情報通り、部屋の真ん中に置いた椅子に、体育座りしてる男がいる。
これが『稲妻のベルクト』だ。
猜疑心の塊である彼は、寝首をかかれるのを恐れ、夜間のほとんどを、こうして襲撃者を待つことに費やしているのだという。当然、睡眠不足が心配されるわけだが、その分は昼寝で補っているとのことだ。そして、床が水浸しになってるのは――ベルクトが言った。
「待ってて……良かった」
ベルクトの指先から発した雷撃が床に――床を濡らした水に迸る。水を伝って奔った雷撃は、俺とイゼルダを――
「そーいそいそいそいそいそいそい」
――襲う直前、床近くで回した俺の木剣に絡め取られ、
「そいそい、そいやっ!」
最後は黄金色のボールとなって、ベルクトの元へと投げ返された。
「お……俺の、手が」
それを両手で受けるベルクトだったが――手首から先を失うのに、一秒かからなかった。そして、雷撃を自らの身体に与えて得た超スピードで俺に襲いかかったのだが。
「そいやっ!」
いま放った黄金のボールのイメージを叩きつけられ、空中で炭になった。
「すご~い。いまのどうやったの? クサリちゃん」
俺は答えた。
「剣に、イメージを込めたんです。割り箸で綿あめを巻いて取るイメージで雷撃をすくい取って、それを球にして、ベルクトに叩きつけたんですよ」
「へ~。綿あめって何?」
「えーと、それはですねえ……」
ベルクトの家を出ると、街はもう大火事になってた。
しかし、イゼルダは気にした風でもない。
「だってここ、うちの国じゃないし」
とのことだ。
こんな感じで、俺とイゼルダはさくさく幹部を斃していったのだった。
幹部のボエルッタから、『スネイル』本体の情報も得られた。
それによると、『スネイル』のボスは『マタド=ナリ』にいる。
大陸北部の『ハジマッタ王国』にある街だ。
というわけで――
「じゃ、行っちゃおうか」
イゼルダが言うと、反応は2つに別れた。
顔を強張らせるのと、ほころばせるの。
警邏隊の偉そうな人以外は、全員、後者だった。
5分後、俺たちは『マタド=ナリ』にいた。
●
転移魔法だと、移動時間がかからないから、距離が分からない。もしかしたら、時差があったのかもしれない。王都はまだ夜だったのに、『マタド=ナリ』はもう朝だった。
イゼルダが、通りかかった宿の看板を指さして言った。
「お昼に、あそこに集合ね」
そこからは、別れて自由行動だ。イゼルダと俺、ウィルバーとミルカ、アドニスの3組。別れて数ブロックも歩く頃には、街のあちこちの方角から火の手が上がり始めていた。ミルカの『黒い代行者』だ。彼女は、スネイル構成員の殲滅を任されている。
「あそこの家ですね。グリドモアースが住んでます」
イゼルダと俺は、幹部の担当だ。
情報をもとに、一軒一軒、棲家を訪ねてぶった切っていく。
最初の一軒は『キツネ目のグリドモアース』。
凄腕の『毒使い』だ。
「じゃ、ここは私がやっちゃうね? 一軒ごとに、交代でいきましょう」
右手に剣、左手に硬貨の詰まった袋を持って、イゼルダがドアの前に立つ。
ごとん。
ドアの向こうで何か重い物が落ちた音がし、俺達は家の中へと入った。
ずかずかと奥に進み、着いたのは寝室。
「おうら。起きろ~」
ベッドで寝てる男に、俺は持ってた黒い物を叩きつける。
玄関で拾った、錠前の残骸だ。
「い、いってえなあ。ユウキ? カレン? 誰だよ……」
頭を押さえ、シーツの中から起き上がる青年は、そんな仕草すらもさまになる、しゅっとしたイケメンだった。アドニスと並んだら、さぞ絵になりそうだ。こういうイケメンに対して、そろそろ俺も『もげろ』以外のボキャブラリーを手に入れるべきかもしれない。
俺はしゃがんだ。
頭の上を、幻の剣閃が通り過ぎていく。
「さすがね~。クサリちゃん、思った通りやりやすいわ」
携えた剣を、ぴくりとも動かさぬまま、イゼルダが言った。
イゼルダは、その能力で、剣を振らずに敵を斬る。しかし『実際に剣を振って斬るのと同じ様に、剣の通るルートを空けておいた方がやりやすいのでは?』という俺の推測は、正しかったみたいだ。
振り向くと、部屋の隅で女がまっぷたつになっていた。吊り上がった細い目に、肘までを覆う手袋。ボエルッタの情報によると、あの手袋の下がどうなってるかは、誰にも見せたことがないらしい。
「……お、お、おおおおぅ?」
青年が、目を丸くしていた。いつもならこの時間、彼はまだ熟睡している。ちょっとやそっとの物音では目を覚まさないくらい深く――グリドモアースの薬によって。
これもボエルッタの情報だが、グリドモアースは、毎晩、この青年の寝顔を眺めていたのだという。あの部屋の隅から、毎晩毎晩。部屋に転がる人体の残骸から、青年がその答えにたどり着くことは出来るだろうか? 出来ない方が幸せだとは思うが。
投げキッスして寝室を去り。
家を出るなり、イゼルダが言った。
「ああいう男をさ。ぶん殴りながらファックするのって最高なのよね」
応えず、次の家へと向かった。
二件目は『稲妻のベルクト』。
雷撃系の魔法の使い手だ。
「今度は、私の番ですよね」
『両断』イメージで扉を真っ二つにし、家に入った。情報通り、家の中は床が水浸しになってた。そしてこれも情報通り、部屋の真ん中に置いた椅子に、体育座りしてる男がいる。
これが『稲妻のベルクト』だ。
猜疑心の塊である彼は、寝首をかかれるのを恐れ、夜間のほとんどを、こうして襲撃者を待つことに費やしているのだという。当然、睡眠不足が心配されるわけだが、その分は昼寝で補っているとのことだ。そして、床が水浸しになってるのは――ベルクトが言った。
「待ってて……良かった」
ベルクトの指先から発した雷撃が床に――床を濡らした水に迸る。水を伝って奔った雷撃は、俺とイゼルダを――
「そーいそいそいそいそいそいそい」
――襲う直前、床近くで回した俺の木剣に絡め取られ、
「そいそい、そいやっ!」
最後は黄金色のボールとなって、ベルクトの元へと投げ返された。
「お……俺の、手が」
それを両手で受けるベルクトだったが――手首から先を失うのに、一秒かからなかった。そして、雷撃を自らの身体に与えて得た超スピードで俺に襲いかかったのだが。
「そいやっ!」
いま放った黄金のボールのイメージを叩きつけられ、空中で炭になった。
「すご~い。いまのどうやったの? クサリちゃん」
俺は答えた。
「剣に、イメージを込めたんです。割り箸で綿あめを巻いて取るイメージで雷撃をすくい取って、それを球にして、ベルクトに叩きつけたんですよ」
「へ~。綿あめって何?」
「えーと、それはですねえ……」
ベルクトの家を出ると、街はもう大火事になってた。
しかし、イゼルダは気にした風でもない。
「だってここ、うちの国じゃないし」
とのことだ。
こんな感じで、俺とイゼルダはさくさく幹部を斃していったのだった。
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