逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

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 後宮は多少寂しくなったがその後も顔合わせは順調に進んで行き、挨拶が済んでいないのは上級婿の三人だけとなった。


 婿候補達は上級、中級、下級と位が分けられている。
 上級婿は三名だけで、一番初めの夜伽は上級婿の中から選ぶ決まりとなっている。

 本来であれば一番早く挨拶に行くべきな身分だが、急な取り決めとなったこともあり、彼らの諸々の準備を整えさせるため順番を最後にすることとなっていた。


「お初にお目にかかります。ユリアーネ殿下。ルスラルド・ハイスラーと申します」

 上級婿の中で一番初めに挨拶をするルスラルド様は、ハイスラー伯爵家三男という弱い立場だ。だがハイスラー家は建国当初から続く古い名家で、歴代の王族への教育係を代々受け持っていて王室と縁が深いため、後宮内では上級婿の扱いとなっている。

 その家柄からしてハイスラー家は四角四面な者ばかりだが、今回の顔合わせで初めて会ったルスラルド様は、飄々としていてどこか掴めない印象を持つ。

 彼は後宮内で最年長の二十九歳だが、年長者らしい威厳はないし、そもそもかなり若く見える。
 というのも貴族の三男坊ということでずっとフラフラ遊び呆けていたらしい。末息子がいつ醜聞を持ってくるのかと肝を冷やしていた伯爵と夫人が、今回の計画を聞いてこれ幸いと申し出て、末息子を後宮に閉じ込めたのだ。
 伯爵達は彼が王婿になるとは思っていない。恐らく私と何らかの縁ができれば御の字で、放蕩息子を更生施設に入れたように思っているのだろう。後宮も都合よく使われたものだ。

 そして当の本人からも王婿になりたいという気概が一切見られず、後宮入りしてからは日がな一日絵を描いているらしい。
 隣の部屋をアトリエとして使っているようで、通された応接間にも絵具の匂いが微かにした。

 中級と低級婿達は、それぞれの部屋ではなく後宮内の温室で顔合わせをしていたが、上級婿の三人だけは各々の部屋で行うこととなっているため、殿方の部屋を訪れたのはこれが初めてだ。
 ルスラルド様の部屋はどこかアーティスティックなインテリアが並んでいて、思わず目を奪われる。

 それらを邪魔しないためなのか何なのか、中級婿よりも使用人が極端に少ないように感じられた。

「ルスラルド様の描いた絵を見せてもらうことはできるかしら?」
「殿下にお見せできるような出来ではありませんよ」
「構わないわ。もちろん嫌なのなら、無理にとは言わないけれど」
「お目汚しにならないか心配なだけですよ。どうぞこちらに」

 軟派な雰囲気だが年の功なのか家のおかげなのか、物腰柔らかで立ち振る舞いや所作が洗練されているのがわかり、密かに感心する。
 通された部屋にはいくつものイーゼルスタンドがあり、何枚もの絵がかけられていた。

「これはどれも完成しているの?」
「いえ、完成しているのはこれだけです」

 見せられたのはどこかの田舎町の風景画だった。
 夕方と夜の狭間を切り取ったのか、空は綺麗な紫色に描かれているが、どこか退廃的なもの悲しさを覚えるものだった。

「……綺麗」

 思わず正直な感想が漏れ出た。
 絵については教育の一環程度にしか学んでおらず、描くのも観賞するのも肌に合っていないと思っている。だがルスラルド様の絵はただ好きだと思えた。

「ありがとうございます。お若い殿下には興味薄な絵かと思っていましたが、そう仰っていただけれ嬉しいです」

 若い、という部分をやけに強調されたように思えた。
 私とルスラルド様は十ほど年が離れているが、貴族間でそれくらいの差は驚くものでも尻込みするものでもない。
 だが先程からの言葉の端々に、年齢を盾にしてどこか距離を置かれているのがわかる。

 ここは変に距離を詰めず、ひとまず退散したほうが双方のためだろう。
 
「もし何か入用なものがあれば、遠慮なく言ってちょうだいね」
「お心遣い、痛み入ります」
「また絵を見に来てもいいかしら?」
「もちろんです。この絵はお気に召していただけたようで光栄です、ですがお若い殿下には私の絵も、そして私自身も退屈に思えるでしょうね」

 恭しく丁寧な物腰と言葉だ。
 だがそのうちには「どうか自分に目をかけないでください」と強く訴えかけているのがわかった。


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