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5 辞退者
しおりを挟む「辞退?」
顔合わせも順調に進み、挨拶していないのは残り僅かとなった頃のことだった。
既に顔合わせを済ませた子息数名から、この逆ハーレム計画から辞退したいと申し出があり吃驚した。
「理由はなんなの」
「それが、種無しだと判明したため家に戻るように言われたからだと……」
報告に来た後宮管理者も、困惑しているようだ。
これ以上管理者に追求しても答えが出ないことは、彼の様子からして明白だ。
「陛下と王配殿下にもお伝えはしているの?」
「はい。陛下は後宮の件は王配殿下に一任すると。王配殿下は此度の辞退について事を荒立てることはしないと仰せです」
つまりは表向きはお咎め無しということか。
どうにも腑に落ちないが、陛下と王配殿下がそう言っているのなら私から言うことはあるまい。
「わかったわ。辞退者には即刻後宮を出るよう申し伝えて。他の者が混乱しないよう、あまり大々的にはしないよう注意してちょうだい」
「かしこまりました」
後宮管理者が退室し、いつものようにヴォルフと二人きりになったところで深くため息を吐いた。
まだ今日の分の書類仕事が残っているが、今すぐ行う気にはなれず執務机を離れ、応接用に使っているソファに腰掛けると、すぐさま湯気だったお茶が出てきた。
もちろん、用意したのがヴォルフだ。
本当にできた護衛である。もう本業を執事にすべきではとすら思ってしまう。
「……考えておられるのですか? 辞退者のことを」
「えぇ、まあね」
まさか辞退者が出るとは予想していなかった。
仮に種無しが本当なのならば、確かに後宮にいる意味はない。だがそもそもどうやって確認したというのだ。種の有無の検査ができないから、この逆ハーレム計画が実施されているというのに。
そしてそれをわざわざ言って辞退することが意味がわからない。
辞退した者はいずれも家の後継者ではなく、後宮入りがなければ騎士の道に進むか聖職者、あるいは教職者となる道しか残されていない。それはどれも種類の違う辛苦がある道だ。
もちろん始めからその道を望む者も多くいるが、今回辞退を申し出た者たちとの顔合わせした際の印象からして、彼らが自ら騎士や神の道、または教鞭を執りたいと思っているようには到底見えなかった。
考えられるとしたら、彼らが何らかの思惑で後宮入りを果たし、それを達成した。若しくは失敗し手を引いたかだ。
もしそうなのだとしたら、それは恐らく後者だろう。王配派の彼らの思惑が何かしら成功していたら、なんらかの動きがあるはずだ。それに勘付かないほど王室は間抜けではない。だとすれば後宮を出ることを許すはずもない。
だが仮に失敗したとしても、表立っていないのならば後宮を辞退するのは悪手にも思える。
……いや、辞退せざるを得ない状況に追い込まれたということだろうか。
なにより気になるのは、辞退を申し出たのは先日の複数プレイ好き令息のような、顔合わせの際あまり好印象とは言えない者ばかりなことだ。
奇しくもその者達は、いずれも王配派の者ばかり。
そもそも王室の後宮を辞退するというのは、少なからずの不敬にあたる。
女王と王配の許しを得ているため表面上は何のお咎めもないが、貴族間では白い目で見られることは必至。貴族界は縦と横の繋がりが強固だ。見放されれば最悪没落も十分ありえる話。
仮に没落は免れても王配派の彼らは王室への不敬を働いたのにも関わらず、その咎が無いという温情を与えた王室に対し、多大な貸しができたことになる。これでは堂々と王配派などと女王陛下を否定するようなことは宣うことはできなくなり、今後は派閥争いに参加することはできなくなる。
事実上の戦線離脱だ。
家に傷を負ってでも、脱兎の如く後宮を去る理由とはなんだろうか。
「……ねえヴォルフ。あなた、これについて何か知っていることはある?」
「姫様、この件についてあまり深くお考えなさらずとも良いかと思います」
私の質問には何も答えずにヴォルフが言った。
「というと?」
「こう考えられるからです。辞退した者共は、姫様のあまりの美しさと気品に圧倒され、己の矮小さを痛感し辞退したと」
「……それ、本気で言ってるの?」
「何か間違ったことを申したでしょうか」
どうやら本気で言っているようだ。今日も今日とてこの護衛の目には、私が神のように映っているらしい。
そんないつもの調子に、気が抜けそうになる。
この逆ハーレム計画は、後継問題以外にも水面下で何かが動いているように思えてならない。
そう考えこみながら覗いた紅茶の水面には、眉を寄せた自分の顔が映っていた。
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