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血をキレイにする
しおりを挟む正直なところ、ユタバイト家の二人を共に後宮入りさせるとは思わなかった。ユタバイト家は双子以外に子供はいないから、家督を継ぐ一人を残すと思っていたのだ。
だがユタバイト公爵はまだまだ現役。
とすれば、今はお家のことよりも王家を優先したのだろう。そして他の家の椅子を塞ぐため、双子どちらも後宮入りさせたのだ。一つの家から二人が後宮入りしたことに少なからず反発の声はあったが、国唯一の公爵家の圧力に簡単に屈したようだ。
正確に言えば、彼らは王配の座を狙っているというよりも、王の血を継ぎたいというある種純然な忠誠心ゆえの行動だろう。
その考えに感服する思いだ。
もちろん、嫌味である。
ユタバイト家で最初に挨拶するのは弟のドミニク様だ。
ヴォルフと共にドミニク様の部屋を訪れると、全体的に青を基調とした絢爛豪華な内装に改装されている。部屋の持ち主が好きなように改装していいとは通告していたものの、ここまで変えるとは驚きだ。
部屋を見渡す私のことを、ドミニク様が恭しく頭を下げて迎え入れた。
「ごきげんよう。ドミニク様」
「お久しぶりにございます。我が国の偉大なる青き星、ユリアーネ殿下。ご尊顔を拝謁できましたことを嬉しく思います」
あぁ、めんどくさい。と思わず天を仰ぎそうになったのを必死に抑えた。
仰々しい挨拶はまあいいとして「青き星」などと宣うのはユタバイト家くらいだ。
室内の寒々しいほどの青いインテリアといい、青への執着が強すぎて一度医師に診てもらってほうがいいとさえ思えてくる。
「お元気そうでなによりだわ」
「光栄に存じます。殿下は美しさだけでなく陽だまりのようなお優しさを持ち合わせておられる。正統なる青き血を持つ姫様が統治される我が国の未来は、今と違い安寧となること違いありません」
……今と違い、か。
シーゲル国は水面下で派閥争いはあるものの、現状はむしろかなり安寧していると言っていい。
イテラ病をきっかけに他国との交流はより強固となり、貿易も増えて物資は豊かとなったし、なにより医療が驚異的に進んだ。国民からでなく貴族からの税収を上げ、それによって無料で医療を整えられるシステムを作り、働き手を増やし貴族にも還元できるようにもなった。
それらの政策を作ったのは母だが、実際に進めたのは父だ。
だがこの人は「青い血」を持たない父が現在国を統治していることが、どうにも腹に据えかねるようだ。
ニコニコと人当りの良い笑顔で、私に向かって「王の血」しか認めないという確固たる意志がどうにも気持ち悪く思えてならない。
席へと案内され、目の前のテーブルに次々とお茶とお菓子が並べられていく中、ドミニク様はとてもにこやかに私を見つめてくる。そしてようやくテーブルが華やかになったところで、待ってましたとばかりに口を開いた。
「単刀直入にお伺いしたいのですが、殿下は此度の後宮の件をどのように思っておられますか?」
本当に単刀直入だな。
わかってはいたが、ドミニク様は後宮計画に前向きではないことが窺えた。
「どう、とは?」
「後継のためといえど、このままではその尊き御身を多くの者に晒すことになるのですよ?」
その多くの者にあなたも入っているのですが? というのは勿論言わないでおく。
「もちろん心得ております。でもイテラ病によってシーゲルだけでなく世界的にも男性後宮を作られていますから、当然の施策だと思っております。それに元々我が国では昔男性後宮は存在していましたし。……けれど、ドミニク様はあまり賛同されていらっしゃらないご様子ですね」
「えぇ。もちろんです。だってユリアーネ殿下のお相手は私以外他におりません。だから私としては、此度の計画は致し方ないとはいえ少々遺憾の意を表します」
「……どうしてドミニク様しかないと?」
公爵家はユタバイト家しかないが、高位貴族なら他にもいる。必ずドミニク様を伴侶としなければならないことはない。
それにユタバイト家にはもう一人、テオドア様もいる。
「あははっ! 殿下はご冗談もお上手でいらっしゃる」
「……どういうことかしら」
「だってそうでしょう? 青に不純物を入れてしまったら濁って別の色となってしまう」
ドミニク様は至極当然のことを諭すように、微笑んだ。
「我がユタバイト家は、唯一王族の血を引いております。そしてほら、私はご覧の通り髪も瞳も青だ」
青とは言っても、髪は青みがかった灰色とも言えるし、瞳は黒にも見える藍色で、純粋に青とは断じて言えない。
だがドミニク様は誇らしげだった。
「一度薄まってしまった王家の青い血を再び濃くするには、私以外におりますまい」
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