逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

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  本当の黒幕

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 すっかり取れてしまったリップを素早く直し、会場へとまた歩みを進めていく。
 色々してしまったせいで少々遅れているが、まあ許容範囲の遅刻だ。
 
「それにしても、ドレスを褒めてくれてよかった。ヴォルフって背も高いし色気もあるから、エスコートしてもらうのにふさわしくて、尚且つお腹を締めつけないデザインのドレスを選ぶのが大変だったの」

 キスの余韻の照れ臭さからか、少し傲慢な言い方になってしまったとすぐに気づいたが、言われた当の本人はどこか嬉しそうに頬を染めていた。
 
「俺のことを考えてくださったのですか……?」
「パートナーのことを考えるのは当然よ」
「そうですよね」

 ヴォルフは少し俯いた。
 その表情には憤りが垣間見えた。

「今までずっと姫様の後ろに付き従っていたので、むしろ俺のほうが姫様の隣を歩くには、まだふさわしくないような気がしてしまいます」
「なんだ。そんなこと思っていたの?」

 ヴォルフの憂いを一掃するように声をあげて笑うと、長い廊下に僅かに自分の声がまた響いた。
 
「ふさわしくないわけないけれど、確かにヴォルフが隣にいるのは新鮮で楽しいわ」

 会場へと続く扉の前に立つと楽団の音楽がよく聞こえ、多くの人の賑やかな声も聞こえてきた。
 パーティー会場まであと少しだ。
 
「あなたが後ろにいると背筋が伸びるし、あなたが前にいたら頼もしい。あなたが隣にいたら、とても安心するの。――――おいで、ヴォルフ」

 私の言葉に黒い瞳を瞬かせ、すぐさま私の隣に駆け寄ってくれた。
 その腕に自身の腕を絡ませてから、パーティー会場へと入場する。

 扉が開くと招待客が一斉に拍手を送りながら、寄り添う私達を出迎えた。
 その後女王陛下と王配殿下も入場し、陛下の快気の挨拶も終えパーティーは益々盛り上がりを見せていた。

 後宮の婿候補達も参列しているため、順々に挨拶に来てくれた。
 テオドア様とルスラルド様は二人一緒に挨拶に来て、ルスラルド様はとても気さくにヴォルフに声をかけていた。

「ユリアーネ殿下、ヴォルフの行動に困りましたらすぐに私にお伝えください。きちんと調教してみせますので」
「まあ、頼もしいわ。ルスラルド様」
「おいルスラルド……」

 私とテオドア様の消失事件で二人が仲良くなったことにかなり驚いたが、ヴォルフに良き友人ができたことは素直に喜ばしい。
 ルスラルド様はその芸術眼から諸外国との外交を任せようと思っているが、その前にその洗練された立ち振る舞いを買って、ヴォルフのマナー面での王配教育もしてもらう予定でいる。

「本日もお綺麗でいらっしゃいます。ユリアーネ様」
「テオドア様も、すっかり回復されたようで嬉しいわ」
「ありがとうございます。ユリアーネ様もお元気になられて本当にうれしく思います」

 テオドア様は後宮で開いていた勉強会の成績を見越して、後宮が解体された後は私の秘書として働いてもらう予定だ。そのために今は色々と準備に忙しい。

「ユリアーネ様からの御恩を忘れず、誠心誠意尽くしてまいります。だからどうぞこれからも、あなた様のお傍にいさせてください」
「えぇ、もちろん。これからもよろしくね」
「はい……!」

 頬を赤らめながら忠誠を誓ってくれるテオドア様に笑みを返すと、嬉しそうに微笑んでくれた。
 二人とはこれからますます交流が深くなりそうで楽しみだ。

「ユリアーネ様、お疲れでしょうから少し休みましょう」

 不機嫌そうな顔のヴォルフが腰を抱いてきた。
 まったく疲れてはいないが、とりあえずその場を離れてあげることにすると、ルスラルド様はちょっと呆れ気味に、テオドア様は名残惜しそうに見送ってくれた。

 隣を歩くヴォルフの眉間には皺が寄ってしまっている。

「ヴォルフ。せっかくのパーティーなんだからそんなムスッとした顔しないで、ニコッてしてほしいな」
「っ! も、申し訳ございません……。元より笑みをつくることは不得手でして……」

 テオドア様とルスラルド様には多少気を許しているようだが、相変わらずヴォルフは鉄面皮だ。
 だが私の前では表情を崩すことは元々多かったし、最近はその表情がさらに柔らかくなったと思ったけれど、結局それも私の前でだけらしい。
 誰彼構わず愛想を振りまけとは言わないが、これから王族の一員として生きていくのだから、私以外の人に向ける笑みの一つでも覚えてほしい。

「ヴォルフの笑顔、とっても素敵なのに」

 だがヴォルフが私の前でだけしか笑わないというのは、どうにも独占欲を心地よくくすぐってくる。
 しょうがない。ヴォルフの分も私が笑みを作ればいいか。
 つまりこれはあれだ。惚れた弱みというやつだ。
 

 ようやく一通りの挨拶を終えたところで、本当に休憩を取ろうと会場から出ると、ヴォルフが先程のように不機嫌そうな顔でいた。
 
「どうかしたの?」
「……会場中があなた様を見つめておりました」

 耳が垂れ下がった犬のように小さく答えた。

「私は王女なんだから、そりゃあみんな私を見るでしょうね」
「そういうことではなく……。テオドア卿なんて特に……」

 傍から見たら無表情に見えるのだろうが、私から見たらどう見ても嫉妬して不貞腐れているようにしか見えない。
 それが可愛くてつい笑みを零してしまう。
 
「まったく。あなたって本当に私に愛されている自覚が足りないわね」
「そ、そういうつもりでは……! ユリアーネ様のお気持ちを軽んじているわけでも信じていないわけでもありません!」
「私がどれくらいヴォルフのことが好きか、教えてあげましょうか?」
 
 驚いた様子だがすぐに「ぜひ……!」と前のめりに聞いてきたことが犬っぽくてまたおかしく、声を殺しながら笑った後、ヴォルフを屈ませてそっと耳元で囁いた。

 
「もしあなたと私の立場が逆転していたら、あなたの周りの令嬢をことごとく蹴散らすくらい、ヴォルフのことが大好きよ」

 
 どんな反応をするのか見たくてすぐに顔を覗き込むと、驚いたように目を丸くした後、頬を赤らめながら幸せそうに相好を崩した。

 その笑みを見て胸がいっぱいになるほどの多幸感に包まれ、いつもの革手袋をつけていない手を繋いであげながら、私も頬を緩めたのだった。


 
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