逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

文字の大きさ
54 / 54

  本当の黒幕

しおりを挟む



 
 
 すっかり取れてしまったリップを素早く直し、会場へとまた歩みを進めていく。
 色々してしまったせいで少々遅れているが、まあ許容範囲の遅刻だ。
 
「それにしても、ドレスを褒めてくれてよかった。ヴォルフって背も高いし色気もあるから、エスコートしてもらうのにふさわしくて、尚且つお腹を締めつけないデザインのドレスを選ぶのが大変だったの」

 キスの余韻の照れ臭さからか、少し傲慢な言い方になってしまったとすぐに気づいたが、言われた当の本人はどこか嬉しそうに頬を染めていた。
 
「俺のことを考えてくださったのですか……?」
「パートナーのことを考えるのは当然よ」
「そうですよね」

 ヴォルフは少し俯いた。
 その表情には憤りが垣間見えた。

「今までずっと姫様の後ろに付き従っていたので、むしろ俺のほうが姫様の隣を歩くには、まだふさわしくないような気がしてしまいます」
「なんだ。そんなこと思っていたの?」

 ヴォルフの憂いを一掃するように声をあげて笑うと、長い廊下に僅かに自分の声がまた響いた。
 
「ふさわしくないわけないけれど、確かにヴォルフが隣にいるのは新鮮で楽しいわ」

 会場へと続く扉の前に立つと楽団の音楽がよく聞こえ、多くの人の賑やかな声も聞こえてきた。
 パーティー会場まであと少しだ。
 
「あなたが後ろにいると背筋が伸びるし、あなたが前にいたら頼もしい。あなたが隣にいたら、とても安心するの。――――おいで、ヴォルフ」

 私の言葉に黒い瞳を瞬かせ、すぐさま私の隣に駆け寄ってくれた。
 その腕に自身の腕を絡ませてから、パーティー会場へと入場する。

 扉が開くと招待客が一斉に拍手を送りながら、寄り添う私達を出迎えた。
 その後女王陛下と王配殿下も入場し、陛下の快気の挨拶も終えパーティーは益々盛り上がりを見せていた。

 後宮の婿候補達も参列しているため、順々に挨拶に来てくれた。
 テオドア様とルスラルド様は二人一緒に挨拶に来て、ルスラルド様はとても気さくにヴォルフに声をかけていた。

「ユリアーネ殿下、ヴォルフの行動に困りましたらすぐに私にお伝えください。きちんと調教してみせますので」
「まあ、頼もしいわ。ルスラルド様」
「おいルスラルド……」

 私とテオドア様の消失事件で二人が仲良くなったことにかなり驚いたが、ヴォルフに良き友人ができたことは素直に喜ばしい。
 ルスラルド様はその芸術眼から諸外国との外交を任せようと思っているが、その前にその洗練された立ち振る舞いを買って、ヴォルフのマナー面での王配教育もしてもらう予定でいる。

「本日もお綺麗でいらっしゃいます。ユリアーネ様」
「テオドア様も、すっかり回復されたようで嬉しいわ」
「ありがとうございます。ユリアーネ様もお元気になられて本当にうれしく思います」

 テオドア様は後宮で開いていた勉強会の成績を見越して、後宮が解体された後は私の秘書として働いてもらう予定だ。そのために今は色々と準備に忙しい。

「ユリアーネ様からの御恩を忘れず、誠心誠意尽くしてまいります。だからどうぞこれからも、あなた様のお傍にいさせてください」
「えぇ、もちろん。これからもよろしくね」
「はい……!」

 頬を赤らめながら忠誠を誓ってくれるテオドア様に笑みを返すと、嬉しそうに微笑んでくれた。
 二人とはこれからますます交流が深くなりそうで楽しみだ。

「ユリアーネ様、お疲れでしょうから少し休みましょう」

 不機嫌そうな顔のヴォルフが腰を抱いてきた。
 まったく疲れてはいないが、とりあえずその場を離れてあげることにすると、ルスラルド様はちょっと呆れ気味に、テオドア様は名残惜しそうに見送ってくれた。

 隣を歩くヴォルフの眉間には皺が寄ってしまっている。

「ヴォルフ。せっかくのパーティーなんだからそんなムスッとした顔しないで、ニコッてしてほしいな」
「っ! も、申し訳ございません……。元より笑みをつくることは不得手でして……」

 テオドア様とルスラルド様には多少気を許しているようだが、相変わらずヴォルフは鉄面皮だ。
 だが私の前では表情を崩すことは元々多かったし、最近はその表情がさらに柔らかくなったと思ったけれど、結局それも私の前でだけらしい。
 誰彼構わず愛想を振りまけとは言わないが、これから王族の一員として生きていくのだから、私以外の人に向ける笑みの一つでも覚えてほしい。

「ヴォルフの笑顔、とっても素敵なのに」

 だがヴォルフが私の前でだけしか笑わないというのは、どうにも独占欲を心地よくくすぐってくる。
 しょうがない。ヴォルフの分も私が笑みを作ればいいか。
 つまりこれはあれだ。惚れた弱みというやつだ。
 

 ようやく一通りの挨拶を終えたところで、本当に休憩を取ろうと会場から出ると、ヴォルフが先程のように不機嫌そうな顔でいた。
 
「どうかしたの?」
「……会場中があなた様を見つめておりました」

 耳が垂れ下がった犬のように小さく答えた。

「私は王女なんだから、そりゃあみんな私を見るでしょうね」
「そういうことではなく……。テオドア卿なんて特に……」

 傍から見たら無表情に見えるのだろうが、私から見たらどう見ても嫉妬して不貞腐れているようにしか見えない。
 それが可愛くてつい笑みを零してしまう。
 
「まったく。あなたって本当に私に愛されている自覚が足りないわね」
「そ、そういうつもりでは……! ユリアーネ様のお気持ちを軽んじているわけでも信じていないわけでもありません!」
「私がどれくらいヴォルフのことが好きか、教えてあげましょうか?」
 
 驚いた様子だがすぐに「ぜひ……!」と前のめりに聞いてきたことが犬っぽくてまたおかしく、声を殺しながら笑った後、ヴォルフを屈ませてそっと耳元で囁いた。

 
「もしあなたと私の立場が逆転していたら、あなたの周りの令嬢をことごとく蹴散らすくらい、ヴォルフのことが大好きよ」

 
 どんな反応をするのか見たくてすぐに顔を覗き込むと、驚いたように目を丸くした後、頬を赤らめながら幸せそうに相好を崩した。

 その笑みを見て胸がいっぱいになるほどの多幸感に包まれ、いつもの革手袋をつけていない手を繋いであげながら、私も頬を緩めたのだった。


 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

ハードモードな異世界で生き抜いてたら敵国の将軍に捕まったのですが

影原
恋愛
異世界転移しても誰にも助けられることなく、厳しい生活を送っていたルリ。ある日、治癒師の力に目覚めたら、聖堂に連れていかれ、さらには金にがめつい師によって、戦場に派遣されてしまう。 ああ、神様、お助けください! なんて信じていない神様に祈りを捧げながら兵士を治療していたら、あれこれあって敵国の将軍に捕まっちゃった話。 敵国の将軍×異世界転移してハードモードな日々を送る女 ------------------- 続以降のあらすじ。 同じ日本から来たらしい聖女。そんな聖女と一緒に帰れるかもしれない、そんな希望を抱いたら、木っ端みじんに希望が砕け散り、予定調和的に囲い込まれるハードモード異世界話です。 前半は主人公視点、後半はダーリオ視点。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...