1 / 54
プロローグ
しおりを挟む昔々あるところに、かわいそうな女の子がいました。
女の子は家族にいびられる毎日を送り、自分の人生には希望などない真っ暗闇なものだと思っていました。
ですが女の子のもとにある日突然、目が眩むほど綺麗な王子様がやってきました。
王子様は悪いやつを退治し、女の子に手を差し伸べ、助けてくれました。
それから二人は互いに愛し合い結婚をして、女の子はお姫様になり、幸せに暮らしました。
子供の頃、そんなよくある筋書きの本を読んだ。
そして思った。
王子様というのは、かわいそうな子を助けてくれる人のことなのかな? と。
だとしたら私はどうなるのだろう?
だって私は家族にいじめられておらず、とっても幸せな毎日を送っていて、全然かわいそうじゃない。
しかもすでにお姫様だ。
そんな私の前に、王子様は現れてくれるのかな?
いや、そもそも私に王子様は必要なのかな。と。
そうして、私は深く考えた。
◇ ◇ ◇
「ユリアーネ殿下は本当にお美しい御方でいらっしゃる」
午後の日差しは、薔薇が咲き誇る温室に心地よい光を齎している。
一面に広がる草花は心地よい香りと見目を楽しませてくれるものなのに、目の前の令息は入室したときですらそれを楽しまず、着席してからずっと賛辞の言葉を述べ続けている。
「見るだけで甘味を感じさせるようなローズピンクの御髪と、早朝の水景色を思わせる澄んだ淡青の瞳に心寄せる者も多いことでしょう。もちろん、私もその一人だ」
「まあ。お上手でいらっしゃるわ」
「嘘偽りない言葉にございます」
その嘘偽りない言葉に似たような歯の浮くような賛辞を、今日も何人にも浴びせられている。
生まれてこの方、ずっと同じようなことを言われているから今更辟易もしないが、朝からぶっ通しで称賛されているとさすがに疲れてきてしまう。
そろそろ表情筋が麻痺してきたと思ったとき、黒い革手袋を付けた大きな手が、私を庇うように急に目の前に現れた。
「なっ、なんだ。急に殿下の御前に手を出すなど無礼だぞ!」
指の隙間から、向かいに座る令息の怒る表情がよく見えた。
手の持ち主は顔を見ずともわかっている。今の今まで私が座るソファの後ろに侍っていたはずの護衛騎士が、私を守るように前に立っていた。
「失礼。姫様はどう見てもご体調の優れないご様子。目の前の姫様のご様子にすら気付けない者に、姫様との未来を見据える資格などないかと」
「なっ……!」
こら……! と言いたいところだがいつもの淑女然とした態度を崩すことはしなかった。
体はすこぶる元気だが表情筋は疲弊はしているため、体調が優れないというのは大枠でいえば間違ってはいない。だが私はそれを悟られないよう振舞えていたはず。それを今日初めて話をした方に見抜けるはずがない。
むしろ後ろにいたはずなのに、何故お前は気付いたんだと言いたいほどだ。
明らかに顔を引き攣らせている様子の令息に申し訳なさがたつが、とにかく今は休みたい。
「で、殿下の護衛は、些か干渉が過ぎますな……はは」
「申し訳ございません。忠誠心が強いもので。ですが護衛の言う通り少々体調が優れないようなので、今日はお暇させていただきますわ」
「そんな……! まだ少ししか……」
「ではまた改めて」
その場を後にすると、後ろから引き止める声がしたが、護衛騎士のヴォルフが私の姿を隠すようにピッタリ後ろに立った。
「ハア……」
自室へと戻り、自分とヴォルフ以外誰もいないことを改めて確認したところで、壁に手をつき大きなため息を吐いた。
いったい自分は今何をやっているんだと言いたくなるが、その答えはわかりきっている。
だが、口に出さずにはいられなかった。
「どうして、こんなことになってしまったの……」
81
あなたにおすすめの小説
ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない
橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。
そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。
1~2万文字の短編予定→中編に変更します。
いつもながらの溺愛執着ものです。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
無能と追放された魔導鍛冶師、最強の騎士に拾われ溺愛される
ムラサメ
恋愛
「君の打つ剣は輝きが足りない。もっと華やかに光る、騎士団の象徴となる剣を打てないのか」
実家の鍛冶屋からも、婚約者である騎士団長カイルからも「無能」と切り捨てられた鍛冶師・メル。不純物を削ぎ落とし、使い手の命を守るためだけに特化した彼女の「究極の業」は、美しさを求める凡夫たちには理解されなかった。
冷たい雨の中、行き場を失い魔物に襲われた彼女を救ったのは、隣国の至宝であり、その強すぎる魔力ゆえに触れる武器すべてを粉砕してしまう最強の騎士――アルベールだった。
圧倒的な武力で魔物を屠り、砕けた愛剣を悲しげに見つめるアルベール。周囲がその「化け物じみた力」を恐れて遠巻きにする中で、メルだけは違った。彼女は泥にまみれた鉄の破片を拾い上げ、おっとりと微笑む。
「……騎士様。この子は、あなたの力に応えようとして、精一杯頑張ったみたいですよ」
その場で振るわれたメルのハンマーが、世界で唯一、アルベールの全力を受け止める「不壊の剣」を産み落とした瞬間――最強ゆえに孤独だった英雄の運命が、狂おしく回り始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる