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1 逆ハーレム計画
しおりを挟む事の発端は三ヶ月前。
我が国の王配殿下であり、私の父から言い渡されたとんでもない一言から始まった。
森と海に囲まれ、豊かな資源に恵まれた平和な小国、シーゲル王国。
その第一王女であるユリアーネ・シーゲルが私だ。
第一王女とはいっても、兄弟姉妹も従兄弟すらいないため私だけが王位継承権を持っているため、私は将来この国の女王となることが定められている。
それを自分の運命と受け取って幼い頃から勉強にも勤しんできた。
女性の王位継承はシーゲルだけでなく、世界的に見てもさほど珍しいことではない。
実際、現在の王は私の母である。
だが元々体の弱い母はさらに体を悪くしてしまい療養中のため、現在は治世は王配である父が担っている。
そんなある日、父から呼び出され、言い渡されたのは衝撃的な一言だった。
「ユリアーネ。お前にハーレムを築いてほしいんだ」
とり損ねたカップが大きな音を立てたと同時に、自分の口から「……は?」と呆けた声が出た。
そんな私を無視して父は言葉を続けていく。
「あ、でもハーレムというのは多くの女性が一人の男を囲うことだから、この場合は逆ってことで逆ハーレムだな」
「ちょっと待って、お父様。全然意味がわからないのだけど」
「つまり王室の婿候補達を集めて、ユリアーネの逆ハーレムを作ろうということだ」
言い直した程度でまったく意味がわからない。
意味がわからなすぎて、だんだん怒りが湧いてくるほどだ。
「結婚相手はお父様とお母様が選ぶ方なら誰でもいいって思っているの。それなのにどうしてハーレムなんてものを作らないといけないの?」
「まあまあ落ち着いてくれ。いいか、ユリアーネ。お前に逆ハーレムを築いて欲しい理由は、昔流行った“イテラ病”のことがあるからなんだ」
イテラ病とは十数年前、全世界に広がった男性だけが罹患する伝染病だ。
数日間高熱と喘息のような咳が続く症状で、初めは重い風邪が流行ったのだと思われたが、男性だけが次々と倒れていくことからイテラ病だということがわかった。数週間安静にしていれば治る病気ではあったが、幼い子供や老齢の男性の多くは命を落とす痛ましい出来事となってしまった。
特に当時のシーゲルは医療にはあまり通じていなかったため、他国からの薬の輸入に頼らざるを得ない状況にあったこともあり、被害は他国に比べて大きかった。
以来、父と母は他国から優秀な薬師と医師を呼び寄せ、シーゲルの医療レベルを向上させることに邁進している。
その甲斐あってかすでにイテラ病の特効薬はシーゲルでも作ることが可能となり、今やイテラ病と言う名前もまったく聞かなくなっている。
それが今回の逆ハーレムを作るとどう繋がるのだろうか。
「実はイテラ病は罹患していても、症状が無いということも多々あるらしいんだ。しかもそれだけじゃなく後遺症を残すことががわかったんだ」
「後遺症?」
「お前も知っているだろう。ここ数年で出生率が著しく下がっていることを」
「えぇ勿論。だから今度は不妊治療ができる医師を呼んだのでしょう?」
「あぁ。その医師達の話でわかったことなんだが、イテラ病の後遺症というのは、その……生殖機能不全なんだ」
言い辛そうに父が呟き、喉を潤わせるようにお茶を飲んだ。
一瞬会話が止まったことで、茶器の音がやけに大きく聞こえてくる。
「生殖機能不全……ってことは子供ができない体になってしまったということ?」
「そうだ。我が娘よ」
「出生率が下がったのは、男性側の不妊ということ?」
「その通りだ。我が娘よ」
一瞬だけ思案して、今度を身を乗り出すように言葉を続けた。
「つまり仮に私が結婚した相手がイテラ病に無症状で罹っていたら、生殖機能がない恐れがあって子ができない。だから少しでも子ができるよう逆ハーレムを作れと、そういうこと?」
「さすがだ、我が娘よ」
「勘弁してちょうだい」
重いため息を止められず、見せつけるように長く息を吐いた。
母は年齢で言えば子供を産めないわけではないが、現状の体のことを考えるとそれは望めない。
当然将来女王となる私は、治政だけでなく次代を継ぐため、子を産むことも王としての定めとわかっている。だから将来は、適当な相手と結婚して子供を産むものだとわかっていたし、それを当然と受け入れてもいた。
だがそれとこれとは話が別だ。
「そういうのって事前に検査でわからないものなの?」
「今のシーゲルの医療技術では無理だ。他国にいけばわかるらしいが、検査にかなり時間と金がかかる上に、近隣諸国ではないから移動だけでも更に時間も金もかかる。仮にしたとしても確実性はないらしい。いくら王族の後継問題といえど、そこに国庫を割くわけにはいかない」
父は医療だけでなく国の生活基盤を良いものとするため尽力していて、それに多大な予算を打っている。ようやく王都の設備が終わり、人々の暮らしが段違いに良くなったところだ。これから地方都市に手を伸ばしていこうという最中、打開策があるのに後継問題に余計な費用をかけたくないという考えは大いにわかる。
仮に検査したとしても一人目が不妊という結果だった場合、またもう一人調べてもらうとなったら容易く国庫はなくなってしまう。
そもそも王族の後継問題に他国を巻き込むことは、良しとは言えない。
話はわかったし否とは言えないが、気は進まない。
王族の結婚というのは殺伐としたもので、そこに愛情などというものがないことも知っている。王は国の頂点ではあるけれど、見方を変えれば国のために己を犠牲にして傅く者。
だから愛し合い仲睦まじい両親は希少で、例外中の例外だとわかっていた。
でもいつか、愛し合いはできずとも互いに国のために尊重し合える相手と結婚したいと思っていた。
なのに、まさかの逆ハーレムときた。
「まあつまりハーレムというより後宮だ。既に後宮に入れる者は私のほうで選定してあるから、整い次第一度全員と顔合わせをしてほしい。もし意中の者がいるのなら、貴族であれば優先的に後宮に入れていい。それにほら、多くの男性から求められるなんて夢のようじゃないか?」
「意中の者なんていませんし、多くの男性から求められたいとも思っていません」
「そ、そうか……そうだよな。すまない」
見るからにしょぼんと落ち込む父を見て、少し強い物言いだったと良心が痛み、二の句が継げなくなってしまった。
こんな弱弱しい見た目と雰囲気の父だが、国の統治を母に代わってしてくれているのだからこれ以上強くは言えない。
体がドッと重くなったのを感じ、これ見よがしにまたため息を吐いた。
「色々疑問質問もまだまだありますが、今日は一旦休ませてもらいます。今のお話は少し考えさせてほしいわ」
「そうだな。お前のことなのだからゆっくり考えてくれ。私も失礼するよ。じゃあユリアーネ、早めに返事を頼む」
父は逃げるように部屋を出ていった。
ゆっくり考えろと言ったそばから早めに返事をくれと言ったことに若干苛立ったが無視することにした。
とりあえず今はゆっくり考えることもせず、ただただ休みたい。
「……私達も戻りましょう、ヴォルフ」
「はい、姫様」
いつものように私の後ろで置物のように黙って立っていたヴォルフに声をかけ、重い足取りで自室へと戻った。
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