竜の恩返し。の裏返し【R18】

冬見 六花

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【 裏 】

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 それからリセと色んな世界へ行き、旅をした。
 リセは旅をしているときもあまり楽しそうではなくずっと「帰りたい」と言うばかりだったけど、何度か異世界を転移するとそういったことは言わなくなっていった。

 そのころから、リセは僕の肉テールスープを食べてくれるようになった。
 これも人間の番を持つ竜人から聞いた話だが、なんでも竜人の肉を継続的に食べると人間でも竜人と同じほどの寿命になれるらしい。しかもそれだけでなく、その肉の持ち主のことを慕うようになるらしいのだ。
 まあリセはすでに僕を慕ってくれているけれど、その気持ちが大きくなることはむしろ喜ばしいことだ。

 よかった。
 リセの洗脳解除はちゃんと順調だ。
 僕は堪らなく嬉しい気持ちを抱きながら、リセに食べてもらうために何度も何度も自分の尻尾を切り落とした。


 幾度かの世渡りとスープのおかげで、リセは僕が話しかけたらすぐに返事を返してくれるようになったし、僕が抱きしめても少ししか拒まなくなったし、だんだんと僕に顔を向けてくれるようにもなっていて、治療の経過は良好と言えるものだった。


 でも、あの害悪男だけはどうにもリセの記憶から抹消することができなかった。


 同衾してくれるようになり、夜を一緒に過ごすようになったが、リセは時折夢の中であの男を思い浮かべているようだった。

「れい……と……」

 眠りながら寂しそうに漏らすリセの声を聞くたびに、手当たり次第何から何までぶっ壊してやりたくなる気持ちに苛まれ、リセを抱きしめることでそれを必死に抑えていた。
 リセは優しいから、僕を愛しているのにそいつが深層に棲みついているせいで、僕にどうやって愛情表現をしていいのかわからないんだ。本当は僕だけを愛しているのに、そいつに遠慮してしまっているんだ。

 優しいリセ。
 可愛いリセ。
 可哀そうなリセ。

 このまま害悪男がリセの中から根絶するまで世渡りを繰り返せばいいのだろうが、話を聞いた竜人の番のように、リセが人形みたいになることは嫌だった。
 最初の巣に住んでいたときなら、迷わずそこまでやっていただろうが、リセと話をすることの楽しさを知ってしまった今、それを望んではいない。


「あっ、そうだ」


 急に思いついた名案に、思わず声が出てしまった。

 リセの中に棲む害悪男を、僕だと思わせればいいんだ。
 そうしたらリセは心置きなく愛する僕に、愛を伝えてくれるようになる。
 まったく同じ名前にすることはさすがに嫌だから「レイド」という名前にでもしよう。竜人にとって名前など別にどうでもいいもので、名前がないまま死ぬ者だっているほどだ。

 あと1回だけ世渡りをしよう。
 そして「レイド」と名乗りさえすればいいんだ。

 嫌いな男と混同されるだなんてもちろん吐きそうなほど嫌だけど、リセが心ゆくまで僕を愛せるようになるのなら、僕は心底憎い男にだってなれる。
 そう、すべては愛するリセのため。
 リセのためなら僕はどんな嫌なことだってできる。



 僕に永遠の忙しさをくれた、愛するリセのためなのだから……――――







「これ以上世渡りをしたら、リセは人形のようになってしまうかもだもんな。洗脳は完全に解けたわけではないけれど、まあ許容範囲だ。……リセの心に他の男がいても許してあげる僕って、なんて器が広いんだろう!」

 夜空に向かってひとしきり笑った後、高らかに独り言ちた。
 そんな僕の周りに一羽の青い蝶がうざったらしく飛んできて、蝶に目線を送り舌打ちをした。

 その瞬間、周囲の空気が爆ぜたような殺気が周囲を覆った。


「どこまでもどこまでもリセにくっついてくんじゃねえよ、虫けらが」


 蝶は一瞬怯んだように距離を取ったが、すぐに周りをウロチョロと飛んできた。

「……言っとくけど、お前別にリセの元彼とかじゃないから。リセを洗脳して彼氏面してた頭のおかしい凶悪犯だから。気持ち悪い妄想すんのは自由だけど、妄想と事実を一緒にしないでくれる?」


 リセが元居た世界で、リセの隣にのさばっていた男は、何度世渡りをしても僕らの前に現れた。
 とはいっても、いずれも人間の姿ではない。良くて動物、あとは虫や草木だ。

 頭のおかしい奴がリセの周りをうろつくことは決して愉快ではない。むしろ不愉快だ。
 だが、僕はこの狂人の執念深さだけは認めている。何度こいつを消そうとも、何かしらの形でまた僕らの前へ現れる悍ましい男なのだ。
 こういう男には、いくら言葉を重ねても通じない。だって頭がおかしいのだから。


 ――――だから、見せつけてやればいいのだ。


 リセがどれほど僕を愛しているか、僕達がどれほど愛し合っているかを、この虫けらに思う存分見せつけてやればいい。
 お前の洗脳はもう解けた。お前はそこで言葉も発することも、指を咥えることすらできずに見ていればいい。

「あはっ、あはははははは! さ、帰ってリセの隣でねーむろ! あ、その前にスープも作り足さないと」

 リセにはまだまだまだまだ僕の肉を食べてもらわないと。
 人間が竜人になるにはそれなりに時間がかかるのだから。


「僕らは、お互いがいないともう生きていけないんだもんね」








 ずっと我慢していた高笑いも終え、晴れやかな気持ちで家へと帰り、こっそりとベッドで戻ってみるとリセは変わらず可愛く眠ったままだった。

 まだ体が人間の要素を残しているというのに無茶をさせてしまったから、相当疲れさせてしまったのだろう。
 かわいそうに、早く僕と同じ体にしてあげなくちゃ。

「リセ、リーセ♡」

 眠るリセを抱き寄せながら意図せず甘い声で呼びかけると、リセは「う~ん」と唸りながら僕に抱きついてきてくれた。

「ははっ♡ 甘えん坊さん♡」

 リセの体が完全に僕と同じになったら、この手狭な家じゃなくてもっと広い家に引っ越そう。大丈夫、もう準備は整えてあるんだ。
 あぁ、でもインテリアはリセが好きなものにしてあげたいな。リセを人前に出すわけないから、色々用意してそこから選んでもらわないと。

 リセが退屈にならないように、いろんなものを用意してあげよう。
 ――――……退屈は、本当に心を殺すものだから。


「リセ、かわいいねぇ。かわいいだけじゃなくてとっても偉いねぇ」


 リセと出会っていなかった、あの退屈で退屈でしょうがない日々を思い出す。
 日々の境が曖昧で脳がゆっくりと壊死していくような、心の奥底からゆっくりと消し炭になっていくようなあの日々を。

 だからね、リセ。
 僕は君に感謝なんて言葉では言い表せないほどの恩がある。
 返しきれるわけがないほどの大恩がある。


 僕を、退屈から一生切り離してくれて、ありがとう。



「リセはぁ、僕に愛されるためだけに生きてるんだもんね~? だから僕の傍で生きてるだけで、とぉぉぉっっっても偉いねぇ♡」




 一生終わらない恩返しをしていこう。
 リセが僕の傍で生きてくれていることへの恩を、永遠に返して、そして永遠に恩を受けよう。



 眠るリセの耳元で、自分の言葉を甘くドロドロに溶かしながらそっと囁いた。




「愛してるよ。……僕の恩人リセ♡」








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感想 7

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みんなの感想(7件)

ぱら
2024.10.19 ぱら

どっちとも執着が…(′°ω°‵)ドッチガヨイノカナ❔

2024.10.19 冬見 六花

ぱらさん

リセちゃんが幸せなのでどっちでもおけ!w

解除
NOGAMI
2024.10.19 NOGAMI
ネタバレ含む
2024.10.19 冬見 六花

NOGAMIさん

リセちゃんはめっちゃ愛されちゃってますよねーw
あらすじ&キーワードにもあるように、表はハピエン風なのでね…w

解除
NOGAMI
2024.10.19 NOGAMI
ネタバレ含む
2024.10.19 冬見 六花

NOGAMIさん

文字通り身を削っての愛❤️
最高ですね(*´ω`*)w

解除

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