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VS猪神③
しおりを挟む渾身の一撃を猪の顎に炸裂させたが、効果は薄いようである。 そんなことはわかっている、己が身体を凶器として奴を仕留めるなんて不可能だ。 しかし俺は馬乗りになって二発、三発と同じ位置にパンチを繰り出す。 意外に硬く、拳から血が滲む、構うものかと四発目、五発目を打ち込む。 やがて、動きが鈍くなったのを確認する。 俺は奴に対して勝利を確認した。
勝利するためのスキルを、俺は声高らかに叫ぶ。
「泥人形作成ーーっ!!!」
俺の唯一と言っても良いスキル、泥人形作成は手元にある材料を使って、人形を作成すると言う、実際の戦闘中には決して役に立つ類いのスキルではない。 むしろ下準備を入念に行い、勝つための戦術を自分で考え、そのための兵隊を作るスキルだ。
敢えてもう一度言おう、このスキルはこと戦闘中においてカスであると。
俺はこの場で新しい泥人形を作成する。
材料は目の前に揃ってる。
降り注ぐ泥。
そして猪だ。
猪に跨ったまま、周辺の泥を集めて猪の顔面を中心に泥をコネくり回す。 当然だが猪に泥パックかましてる訳じゃあない。
俺の目的は泥を使って奴を窒息死させることにある。
意識を取り戻し、俺を背中に乗せたまま暴れ回り、俺を振り落とすことに成功した。
しかしもう遅い、泥は泥人形としてある程度の強度を保有する。 頭を振り回した程度では払い落すことは出来まい。
俺は駄目押しとばかりに辺りの泥人形を抱え挙げて、そのまま猪に投げつけ、泥の強度を強化する。 頼むから、早くくたばってくれ。 本気でそう願うばかりだ。
しばらくの後、だいたい5分程度か?暴れ回った猪は四つの膝を折り、その場に横たわる。 静寂が訪れ、俺の荒げた息が妙に五月蝿く感じた。
「…か、」
「…勝った?」
「…のか?」
思わずナビコのいる方向をふり向く。
ナビコはコクリと軽く首を縦に振った。 それを見た俺は、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
「は、はは…やったんだな、俺」
喜びと、安心感から少し涙がでる。 体中は血と泥塗れで、そこら中が傷と痣だらけで痛い、明日は完全に筋肉痛間違いなしだ。
「オ疲レ様デシタ」
ナビコのその言葉を聞いて、深い眠りに落ちていく。
遠くで鐘の鳴る音がした気がした。
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