ドーマン・アシヤの異世界見聞録

シュペーマン

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我が名は蘆屋道満

ギルド査問委員会

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ギルドは国境の見境なく世界中に存在する。
いくら国家間が戦争状態であろうとギルドは中立を保ち、第三者の影響を受けない。その為全世界共通のギルド規定が存在し、それを順守する事が国家から治外法権を認められる信頼となっていた。


「今回の議題は例の冒険者チーム『陰陽』の扱いとギルド長ガエンの処遇についてだ…」


壮年の男がそう切り出した。今ラーロット王国を賑わせる話題の一つだ。


「…いいんじゃないですか?ガエンの減俸で済ませてしまえば」


「バカなことを言うでないわ!ルーキーからCランクなど聞いた事がない!現在のSランクであってもEから始めたと言うのに!!」


別の男が激昂する。Sランクを加え8段階存在するギルドランクを飛び級で昇格する事自体は珍しくない。しかしそれにも限度というものがあるだ。力を持ったものであっても他に問題を抱えている場合もあるのだから。


「確かにガエンはふざけた前例を作ってしまいましたね。しかし彼らはAランクでも難しい事を成し遂げたのも事実」


「それとは話か別だ!ギルド長を縛り上げた上髪を剃り落としたそうではないか!そんな奴がまともな筈はない!」


「焼き払っただ」


想像しただけで身が震えたのかそっと頭皮に手をやる男性陣。


「と言っても『陰陽』のリーダーは歳を召した老人だそうじゃないか。世の中のルールというものはある程度わきまえているのでは?彼について情報はあるのかい?」


「それが全くありません。噂では極東の亡国からやって来たというのが有力だそうですが…」


若めの男が申し訳なさそうに答える。彼は情報収集を任とするにも関わらず『陰陽』の正体を掴めずにいた。


「話によると彼一人でガエンを締め上げたとか…」


「誠に面妖な…相当な強者であるな」


「メンバーの一人はあの『黒鬼』と全くと言っていいほど似ているという話ではないか、似顔絵を見たがあれ程まで『黒鬼』を発現した鬼人族など見た事がない」


「そうよ!その子は莫大な魔力で鬼珠を壊したんですって!?魔道士100人集めても出来ないわよ!」


備品管理の女がヒステリックに奇声をあげる。新たな鬼珠を用意するにはそれなりの鐘がかかってしまう。


「それに比べれば残りの赤い男は地味だが火炎魔術に関してはSランク間近と言われる『紅蓮』を超えるそうだな…」


「蹴りだけでブラックボアを倒しておるぞ…」


「「「「………………………」」」」


正直なところ彼ら『ギルド査問委員会』では突然として現れた大物ルーキーをどう扱っていいのかわからなかった。力の底が知れず下手に刺激すれば暴れる危険性もないわけではない。


「実力は申し分なし、しかし正体不明であり目的も不明か」


「…そういえば『陰陽』のリーダー、ドーマン・アシヤは冒険者になる前に商業ギルドに寄っています」


「なに?これほどの実力を保ちながら何故商業ギルドに?」


「それは不明です。しかしどうやら彼らはラーロット王国に商人となる為入って来たようです」


「ふ、ふざけた事を申すな!既にAランクの域にある者が商人だと!?」


Aランクになれる者は一握りしか居ない。上にSランクという人外がいるが、通常であればAランクが最高位である。人類最高位に片手間でなれるはずがない。


「冒険者になったのは資金稼ぎか、それならば金を求める冒険者として納得はいくが」


「…非常識極まりないがその線はありそうですね、しかし精神面での安全性はまだ証明されていない」


「…それならば特別な試験でも設ければ良いのでは?」


「確かにな、本来ならばCランク昇格に必要な試験を省いているからな」


「でもどうするの?本来の試験は半年に一度、前回の試験は一カ月前よ?」


「むむむ、合同で行う試験であるからな、準備のままならない冒険者を巻き込むことになるか…」


Cランク昇格試験はEランク冒険者と合同で討伐がメインとなる。その為人手が必要になる。


「では問題児をあてがってやるのはどうだろうか?」


「「問題児?」」


「試験に通れず燻っているDランクを使えばいいんですよ。共に試験に合格すればCランクにあげてやれば良いんです」


「…それは危険ではないか?Cランク試験に通れないと言うのは実力よりも正確に起因するのだろう?せっかくの逸材を台無しにしてしまうのでは?」


Cランク昇格試験は実力よりも他チームとの連携が取れるか、協調性に問題は無いかなどの精神面が重要視される。


「実力的にはAランクでもおかしくないのであれば、自己防衛は可能では?」


「しかし条件に合う冒険者などそう見つかるか?」


そこが問題である。Dランクで立ち止まってしまう冒険者なら既にドロップアウトし別の職や最悪盗賊となっているだろう。


「…1組いるぞ」


一人の男が重い声で答える。そういうと彼の部下が資料を出す。


「ほぉ?資料も出すとは用意周到ではないか」


「ああ、なんせ此奴らは議題としてもあげるつもりだったしな」


「そのチームに問題が?」


「それは影で殺人を繰り返している疑いのある狂人様な者では無いだろうな?」


不安の声が上がる。基本的に彼らはBランク以上の冒険者、ギルド内の不正について話し合う。Dランクなどここ数年扱っていなかった。


「エルフで構成された『葉刃』を知っているか?」


「そ、そいつらは…」


あからさまに動揺する情報収集担当の男。


「どうした?そいつらが何だと言うのだ?」


「『葉刃』のリーダー、リン・ヤオは…その、『エルフの里』の姫という情報が…」


「「「…はぁ?」」」


素っ頓狂な声が重なる。


「『エルフの里』といえば同種の中でもエルフ至上主義で知られた右翼タカ派では無いか」


『エルフの里』
遠方の秘境グーテン山脈の広大な盆地、そこには巨大な森が存在し、エルフの国がある。多種族との交流を絶っており、その全容は他のエルフの口伝でしか伝わっていないが、エルフ至上主義である事で知られている。エルフが全てこの国出身という訳ではない為、エルフの中でも変わり者とされているらしい。


「何故その様な国の、それも王族が、よりにもよって多文化主義のラーロットなんかに…」


「詳しくは分かりません…、しかし時期を考えますと『エルフの婚姻』の時期と被ります」


「まさか婿探しか!?」


「バカな!血統主義でもあるあの国の姫が他所から血を入れようなどと考えるものか?」


「エルフであれば問題ないのだろうか?」

「Sランクの『風神』はエルフのリーダーであったな?…まさか彼狙いなのでは?」


「それはあるだろうな、あの国に王族はあれど貴族位は存在せんからな。縁を結ぶなら近親か平民が必然じゃ、………確かそういった前例があったのではなかったか?」


「そ、それについては至急調査いたします!」


「…それで?何故『葉刃』はDランクで止まっているのかしら?」


「奴らは3人組だが協調性皆無と言っていい。傲慢な態度が他チームとの連携で支障を出している

「バカじゃないの?自分たちの態度を改める気にならないのかしら?」


「もう2回も落ちているにも関わらず未だ反省の色はないそうだ。下手に実力がある分食べていく分には問題ないらしいが…」


「よく今まで暴れなかったな…」


「さぁ?無駄に高貴でプライドが高いお陰で今の所助かっているが、小さな小競り合いが続いている。このまま放置するわけにはいかんだろう?」


「『陰陽』にはいささか荷が重いやもしれんが、他に都合がつく者も居らんしなぁ…」


「では一度採決を取ってみるとするか」


「では、Cランク冒険者チーム『陰陽』に課す補助試験について。Dランク冒険者チーム『葉刃』との合同討伐任務を行う事。ラーロット王国第二都市冒険者ギルド長、ガエン・タイガーに対する処罰として二年の減俸と奉仕作業を課す事に賛成か決を採ります。両方に賛成の場合は二つの札を、片方に反対の場合は対応する札を上げないでください」


全会一致。全ての札が上がっていた。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

たま(恥晒)
2017.01.23 たま(恥晒)

面白いです!
頑張って下さい!

2017.01.27 シュペーマン

返信が遅れてすみません。コメントありがとうございます。駄作で幼稚な文章ですが、暇な時に見てやってください。

解除

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