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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
やじるし 12
しおりを挟むうぅん、と呻きながら寝返りを打つ。
何処か遠くでピーピーピーと煩い電子音が響いている。
――嗚呼、目覚ましかあ。
頭が認識して数秒後、がばっ、と少年の上体が起き上がった。
ラブホのキングサイズのベッドの上に一人、少年はいた。
青年の気配は、もうこの部屋にはない。
「嘘吐きだなあ、お兄さんは」
やられたな、と呟きベッドから降りた。
ソファー前に設置されているガラス製のローテーブルの上に、メモ書きとお札が数枚置かれているのに気付く。
『会計は其処にある金でしておけ。おつりは小遣いにでもしろ』
そう書かれたメモ書きをくしゃりと丸めてゴミ箱に放った。
テレビ横の壁につけられたエアシューターで会計を済ませる。
「また、会えるかなあ。可能性は、ゼロに近いだろうけど。無理にでも色々と聞いておくべきだったー」
悔し気に頬を膨らませて、少年はホテルを立ち去った。
こんなにも青年に固執するのは、自分のやじるしと対になるやじるしを彼が持っているからだと、少年は思う。
初めて出逢えたのだ。
自分と他人のやじるしが、ピッタリと嵌まり合う日が来るとは、考えたこともなかった。
少年は周りからは少し浮いていて、彼の価値観は常識とは数歩違うところにあった。
全く非常識でもなく、かと言って万人に受け入れられるものでもなく、中途半端に浮いて、少年は一人取り残されている。
少年の価値観を笑って、おかしいね、と言う人間は沢山いた。
わざとらしく偽りの肯定を示す者も然りだ。
気付かないとでも思っているのか、能面に張り付けた薄ら笑いが、少年の心に嫌悪を置いていく。
息苦しくても喘ぐことすら許されない。
汚い不要物なのだと、少年は自分を評していた。
そう認識するに至るには、勿論原因はあるのだが、しかしながら、それが直接少年の価値観を形成しているのかと問えば、そうでもない。
原因はキッカケに過ぎず、死にたいと願うことにもまた、理由はないのだ。
原因を理由として当て嵌めるのは、短絡的な暴論である。
少年の生と死への渇望は、同一の強さで存在し、それ故に、他の自殺願望者とも違う価値観を持っていた。
結局のところ、己の弱さが死を望み、己の弱さが生を望んでいる。
そこに尽きるのだろう。
青年の不器用な笑い顔を思い出す。
彼は普段笑うことなどないのだろう。
他に愛を抱くこともない人間だ。
見ていてそう感じたのは、楽しいと感じたことがないと言っていたからだろうか。
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