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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 23
しおりを挟む会計カウンターから少し離れた場所でラッピングを待つ。
ほら、と渡された小銭を財布にしまいながら、なんで、と無意識に問う言葉が出ていた。
「触られるの、無理なんだろ」
彼はそれだけ言うと、僅かに口端を上げる。
「あんま無理すんな」
ぼすん、と頭に置かれた手は、明紫亜の髪に埋もれていく。
ありがと、と俯き加減でお礼を言った。
胸が張り裂けそうで、この場から逃げ出してしまいたい。
優しくされたら、もっともっと甘えたくなる。
頼ってしまいたくなる。
押し込んだ想いが、表に出ようとして辛い。
本当は、バスに乗らなくてもいいように、ゲームに参加しなくてもいいように、お風呂に皆で入らなくてもいいように、どうにかならないかと司破に言い掛けた。
司破になら、頼っても良いのかもしれないと、そんなことを考えた自分が無性に汚いものに思えて、言葉は出ていかなかった。
不要物の分際で、他人に頼っていい訳が、ないのだ。
それが例え司破であろうと、自分の事情に巻き込んでいい筈がない。
司破は教師なのだ。
特定の生徒を特別扱いしては、いけない。
それは彼の為にならない。
本当に言いたい言葉は凍り付いて、偽りの言葉は簡単にスルスルと口を出ていくのだ。
優しくしないでよ、と内心で文句を告げて、明紫亜は司破の服を掴んだ。
くいくい、と引っ張り彼を上目で見遣る。
「司破さん、家でご飯、食べていってよ。おばちゃんにお願いするから」
ね、と首を傾けて、くたりと笑い掛ける。
まだ、離れたくなかった。
傍にいたくて、触れていたくて、堪らない。
きっと、車での出来事も、本当はおかしいと気付いていて、この男は何も聞いてこないのだ。
笑え、とその一言だけで明紫亜を笑顔にさせる。
狡い狡い男だ。
そして自分もまた、狡い男なのだ。
いつもならば上手く働く計算も、司破にだと誤算になることが多い。
それが嬉しくて、堪らなく快感で、手放したくないと思う。
少しずつ、少しずつ、本音を引き出されていくのは、酷く怖くて恐怖が胸を占めるのに、司破との距離が近付くような気がして、それすらも快感だった。
ラッピングされた袋を受け取り、エスカレーターを上がっていく。
司破の返事を聞く前に番号を呼ばれてしまい、司破が何を考えているのかは解らなかった。
表情が読めないのだから、言葉を交わして推測を立てた上で、どう事を動かしていくのかを考えないといけないのだが、その言葉でさえも、無口というフィルターで覆われて、計算することを捨てなくてはならないことが度々ある。
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