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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 14
しおりを挟む体が震えていた。
伏せる前の顔は、涙が頬を伝っていた。
「おい、神沼?」
震える肩を掴んで顔を上げさせると、やだ、と身を捩り抵抗される。
うーっ、と唸り、大粒の涙を流している明紫亜に息が詰まった。
司破さんん、と泣き声で名を呼ばれ、体が熱くなる。
「瀬名先生は?」
なんとかそれだけを問うた。
明紫亜は、掴まれた肩を揺らしながら、頬を膨らませている。
「布団、貰いに、いってます」
ぐすん、と鼻を鳴らす明紫亜の体を腕に閉じ込めて、首筋に顔を埋めた。
半乾きの髪は、もうキノコに戻りつつあり、石鹸の香りがした。
「ああくそ、いないのか。心臓が、止まるかと思った。キノコはどうしたんだよ。キノコが守ってくれるんだろ? キノコじゃなくなるから襲われんだぞ」
うえあ、と変な声が腕の中からした。
明紫亜からは頻繁に独特な音が発せられ、それもまた司破を楽しませる。
そっ、と体を離せば、嬉しそうに目を輝かせる明紫亜がいた。
涙は止まっているが、頬は濡れたままだ。
「やっとキノコさんの素晴らしさを解ってくれましたか! えと、キノコさんの唯一の弱点はお水で、濡れると力が入らなくなるんです」
ゴシゴシと頬を擦る手を掴み、頬に跡を残す水滴を舐め取っていく。
しょっぱいな、と笑えば、明紫亜の口からは、ふおお、と奇声が飛び出した。
「どんな設定だ、パクリかよ」
手を放し、くしゃくしゃとマッシュルームを撫でる。
びくん、と明紫亜の肩が跳ねた。
不安な顔で見上げてくる彼に、どうしようもなく劣情が沸き起こる。
体中を弄(まさぐ)り、快感でトロトロにしてしまいたい。
欲望を突き入れて、誰のものなのかを思い知らせてやりたい。
心も体も、全て、自分のものにして、閉じ込めてしまいたい。
ああくそ、と悪態を吐いて、劣情を抑え込むように明紫亜の唇に噛み付く。
彼の体が逃げようと後ろに引くのを追い掛け、強引に舌を絡めた。
「瀬名、せんせ、戻って、くる、から」
ダメだよ、といつも本気で抵抗しない明紫亜が胸を押しやって顔を背ける。
体は余計に熱くなり、このまま無理矢理にでも全てを奪い尽くしたい衝動に陥った。
「そうだな。でも、お仕置きは必要だろ? 他の男に触られてんじゃねぇぞ、馬鹿キノコ。帰ったら覚えとけ」
熱を逃がすように吐息を吐き出し、髪を掻き上げながら、にやり、と悪戯な笑みで言い放つ。
俯いて体を震わせながらも明紫亜は、はい、と頷いた。
ああくそ、と何度目かになるか解らない悪態を吐き、向いのソファーにと腰を降ろす。
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