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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 01
しおりを挟む【秘密の関係】
ふふふーん、ふっふん、ふふんふー、とご機嫌で鼻歌混じりに神沼 明紫亜(カミヌマ メシア)は校舎までの道を歩いて行く。
燦々と降り注ぐ日差しが茶褐色のマッシュルームのような髪を照らしていた。
ぱっつんカットな前髪も歩行に合わせて控え目に揺れる。
前日にはオリエンテーションを、無事にとは言えないものの、そこまでの騒ぎにすることなく終えた。
そして、想いを寄せる人とお試しとは言え、恋人同士になれたのだ。
明紫亜は人生で最大級に機嫌がよく、いつもよりも二割増しで鼻歌の長さが割増となっている。
朝っぱらから歌うキノコが歩く珍光景を目に、他の生徒は遠巻きに歩いていた。
坂道のキツイ校門までの道をスキップでもしそうな勢いで歩く明紫亜の背中に声が掛けられる。
「神沼! おは、おは、おはよ! なんかご機嫌だね」
明紫亜とは違う方向から来たらしいサラサラの黒髪を靡かせる眼鏡の似合う彼は、早足で明紫亜に近付き隣に並んだ。
おどおどと目線を彷徨わせ眼鏡を、くいっと上げる。
明紫亜のクラスの委員長、水保 義一郎(ミズホ ギイチロウ)である。
「あ! 委員長ー! おはよー! むふふ、ふふん、そうなんだよー! 昨日は悲しいことといいことがあってね、僕はいいことだけを胸に秘めて生きるって決めたんだ! 悲しみよ、さようなら!」
あっはは、と笑い両手を広げ演技掛かった大袈裟な動きをする明紫亜はとても目立つ。
だがそれも、明紫亜にとっては計画の内だった。
校門前に立ち、身嗜みや荷物チェックを行っている教師の姿を視界に捉え明紫亜は、くふりと含み笑いを浮かべる。
その中にいる明紫亜のクラスの副担に聞かせる為にワザと大きな声と動きをしたのだ。
嘘じゃないしね、と心の中で呟き、首を傾げる義一郎にと視線を戻す。
「え、え、え? 悲しみって、大丈夫なのか? 神沼、何かあっ」
「やっだなあ、委員長ってば! 僕の傷を抉らないで? せっかく忘れようって頑張っているんだから! 委員長のいけずー!」
目を白黒させ、わたわたと両手を上下させる義一郎を内心で、ナイス、と褒めつつも途中で遮り、よよよ、と泣き崩れる真似をしてみせる。
目元に当てた手の隙間から様子を窺えば、義一郎が動揺からか挙動不審にとなっていた。
「あ、あ、あ、か、か、神沼ー!? ごめ、ごめん、ごめん!」
頭を抱え込んで謝罪を繰り返す様に、やり過ぎたか、と苦笑を溢す。
「ううん、ちょっと元気出たよ。ありがとう、委員長。行こっか、遅刻しちゃうし」
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