あべらちお

Neu(ノイ)

文字の大きさ
101 / 242
一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 06

しおりを挟む


汚い不要物だから愛されなかったと言う自己否定の気持ちと、汚い不要物でいれば母は救われると言う自己犠牲の相反した気持ちが、明紫亜の心に深い闇を産み、価値観を歪な形へと変えていったことは否めない。
汚いと詰られ傷付いた幼い明紫亜は、それでも叱られることに生きる糧を見い出していた。
母は自分に優しく触れることもなかったし、明紫亜を見る時は、大抵が辛そうにしていた。
憎悪、嫌悪、殺意、そう言った感情が全て明紫亜に向けられていたからこそ、彼女は自分自身を保てていたのだと、明紫亜は幼いながらにそう信じていた。


 恐らく、彼女は養育費を受け取っていたのだろう。
生活費以外にお金を注ぐ母は、毎月ギリギリの生活を送っていたのにも関わらず、明紫亜に掛けるお金にだけは困っていた様子はなかった。
それは当時の明紫亜でもおかしいと思う事象であったのだ。
それだから、解らないと言う父は、本当は誰なのか判明していて、養育費を貰っているのではないかと、そう思ったのだ。
それを周りには知られたくない様子だった。
私生児で父親が明紫亜の存在を認めなかったのか。
あそこまで明紫亜を嫌う母。
明紫亜に向ける殺意に近い憎悪の感情。
それらを鑑みて推察した結果、明紫亜は一つの答えに辿り着いていた。
母を嫌いだと思う気持ちと、大好きな気持ちがせめぎ合い、結局明紫亜は母を受け入れることにしたのだ。
明紫亜の存在は、母にとっては無い方が良くて、それでも生きたいと願う自分に出来ることは、それしかなかった。
汚い不要物だから嫌われているんだと考えると、少しだけ楽になれた。
自分の出生自体を否定するよりは、存在が汚いからだと思った方がまだマシだった。


 無理矢理産まされた子供かもしれない。
推理の結果、生じた疑惑は胸の奥深くに仕舞い込んだ。
望まない人間に無理矢理産まされた子供なのかもしれない。
その疑惑は、仕舞い込んでも気付くと目の前にあった。
導き出した答えは、明紫亜にとっては真理であり、其処から逃げ出す為に、強迫概念で埋め尽くした。
汚い不要物、要らない、価値のない人間。
汚いから、要らないから、自分は、愛されない。
決して母からの愛を、求めてはいけないのだ。
彼女を苦しめたくはない。
母が明紫亜を殺したくて餓死寸前に追い込んだのだとしても、それで良かった。
涼子は彼女のことを許せないようだったが、明紫亜に母への怒りは既にない。
母が明紫亜を嫌うことで生きていられたのなら、それだけで幸せだった。
産まれてきて良かったと思える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...