あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 17

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心配だと眉を顰める明紫亜を、マジマジと凝視する義一郎の口は間抜けにもポカンと半開きになっている。
暫時動きのなかった義一郎の目が瞬いた。

「瀬名先生は優しい人だと僕は思ったけど。メシアは先生のこと、嫌いなのか?」
「んー、嫌いではないよ? 好きな部類に入るけど。そういう感情とは別の問題かな。同族嫌悪に近い恐怖、みたいな感じ?」

悲しそうに歪む義一郎の顔を眺め、明紫亜は自身の顎を擦り、慎重に言葉を選んでいく。
ふむう、と吐息を漏らし思案気に義一郎を眺めていた明紫亜の首が縦に揺れ、納得したと笑みが浮かんだ。

「ギーチが瀬名先生のこと好きで問題ないなら、僕がとやかく言うことでもないし。うん、今のは気にしなくていいよ。ただ、少しだけ頭の片隅にでも置いといてね。瀬名先生は手強い人、だってこと」

左手の人差し指を頬にあて小首を傾げる明紫亜に、義一郎は困ったように笑い目を伏せる。

「僕からしたら、瀬名先生よりもよっぽど笹垣先生や横畑先生の方が怖くて手強いと思うけど。でも、メシアがそういうなら気を付けるよ」

義一郎は最後の一口を口に運び咀嚼すると頷いた。
明紫亜も残った唐揚げを味わうとごくりと呑み込む。
二人で手を合わせ、ご馳走様、と呟いて弁当箱を仕舞った。


 ふと義一郎が思い詰めた顔で明紫亜を凝視していることに気付き、弁当箱を鞄に入れながら首を傾げる。
何か他に聞きたいことでもあるのか、はたまた気になることでもあったのか、と義一郎を見詰め返し、ふわりと微笑みを向ければ、途端に義一郎の顔は朱に染まった。

「僕の顔、何か着いてる?」
「う、ううん! ちが、違うけど。あの、もう一つ、聞きたいこと、あって」

自身の顔を指差し聞きやれば、義一郎の首がブンブンと勢い良く左右に揺れる。
視線がどんどん伏せられ、机の一点を見たまま彼の顔は上がらない。
なあに、と問うと義一郎の顔が、ガバリっ、と上向いた。
真剣な眼差しに貫かれて息が止まる。

「オリエンテーションで、メシアを送り迎えしていた人、誰なのかなって」

ゆっくりと息を吐き出していく。
あまりにも必死な形相で身構えてしまったが、そういうことかと苦笑が溢れる。

「僕、下宿してて、そこの家主さんだよー。筋肉ムキムキなのに女子力無駄に高い優しい人なんだ。今度、紹介するから遊びにおいでよ」
 
可能な限りの事実を伝えると義一郎はあからさまに安堵した表情を浮かべた。
なんとなく彼の様子がおかしい気もするが、だからと言って何がおかしいとも明確には解らない。
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