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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 21
しおりを挟むへえ、と相槌を打った杉木は手を引っ込めるとにんまりと笑顔を向けた。
「今更だけど、俺は杉木。涙夏って名前なんだけどさ、女っぽいからあんま好きじゃないのな。適当に呼んで」
よろしく神沼、と爽やかに放たれた台詞は、明紫亜にとっては新鮮だった。
変わり者扱いや、腫れ物に触れるかのような扱いは散々受けてきたが、それを全く気にせずに接してくる人間は殆どいない。
それだから、明紫亜はこの男を気に入ったのだ。
特別親しく話す訳でもなく、オリエンテーションでも絡みはなかったが、挨拶は必ずしてくれるし、とても友好的で、時折、視線を感じたりもする。
心配してくれているのか、と思うと何故だか胸が苦しくなった。
初めて杉木と話した時のことを思い出していると彼の手が下に降ろされ、次の授業の教科書を準備し始める。
「怯えてなんか、いないよ。ちょっと、吃驚しただけ。ごめんな、嫌な想いさせて」
荒い息を整えながら隣に視線を投げた。
何処となく大人びた微笑を浮かべる杉木の横顔を眺める。
「なあ神沼。少しづつでいいと思うんだよね、俺。ちょっとづつ慣れて、大丈夫になったら教えて。本当はすげぇ頭とか撫で回したいし、ハグとかしたいから。神沼のこと気に入ってんだよ? 本当は一番に触りたかったんだけど、委員長に先越されたな。妬けるわ、はは」
杉木の目が明紫亜を捉え、まるで愛しい者を見るかのように甘い表情を魅せた。
少し拗ねた顔で唇を尖らせた後、明紫亜を見詰めながら屈託なく笑った。
ふがう、と独特な驚愕の声を上げ、明紫亜も授業の支度を始める。
目を合わせていられなくて明紫亜は机を凝視した。
「杉るんったら熱烈ねー! 僕、モテ期? ついにキノコが世界を征服する時がやってきたのかも!」
教科書とノートを机上に並べ筆箱を置き、巫山戯た口調で戯(おど)けてみせると、杉木の唇が弧を描いていく。
「なにそれ、神沼の発想、マジウケる。もし良かったら今日さ、放課後遊ばない?」
口元を片手で押さえ笑っている杉木に尋ねられ、んへ、と間抜けな声が飛び出した。
明紫亜は目をぱちくりと瞬かせ無意識に教科書を開く。
「ごめん、杉るん。今日は先約あるんだよー。また今度誘って?」
ぱん、と顔の前で両手を合わせてペコペコと頭を下げる。
溜息を吐き出し髪を掻き乱している杉木に謝り倒した。
遊びに誘われたことが単純に嬉しくて、断らなくてはならないことに申し訳なく思う。
「はは、また先越されたか。残念。じゃあさ、メシアって名前で呼んでもいい?」
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