あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 77

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司破に伝わって欲しくて、ただただ彼を見詰めた。


 ちーん、と間抜けな音が響いたのは、司破の口が開き何かを発する直前のことだった。

「ちょっ、っ、し、ばっ、さ……ん?」

舌打ちの音と共に手首を掴まれ司破に引き摺られるようにしてエレベーターを降りる。
戸惑いに声を掛けても返答はない。
彼は廊下を無言で進んで行き、目的の部屋の前で立ち止まると片手で器用に鍵を解除して扉を開けた。


 部屋の中に入るなり引き摺り込んだ明紫亜を抱き上げる。
焦ったように司破の肩を片手で掴む明紫亜だったが、反対の手に持った箱が司破の背中に勢いよく当たり、ケーキが崩れていないか場違いな動揺に陥った。
司破の頭に額をぶつけ「司破さん!」と強い口調で名前を呼んでも反応はない。
明紫亜を抱き上げたまま奥に進み、ソファーの上にと彼を放り投げ、上に伸し掛かった。

「ケーキ! ケーキがっ! せっかく買ったのに……っ!」

ソファーに投げられたのに合わせてケーキの入った箱も横を向いたり下を向いたりし、明紫亜は涙目で司破を睨み付ける。
彼は堪えた様子もなく「うるせぇ、キノコ」と低い声で呟き、未だに明紫亜の手に握られている箱を奪い取り、横のローテーブルの上にと移動させた。

「食えれば問題ないだろ。そんなことより。……メシアが足りてねぇんだよ。補給させろ」

切羽詰まった声色が耳元を擽り、明紫亜はつい首を縮こませていた。
ソファーの肘掛けに頭を預け、司破の頭が下りていくのをただ眺めるしか出来ない。
首筋に埋もれていく司破の顔は無表情で、一体何を考えているのか全く解らなかった。
司破の唇の隙間から覗いた舌が明紫亜の肌を辿る。
その感触にゾワゾワとしたものを感じて身を捩るも、舐められた箇所をキツく吸われていた。
同じ場所を少しづつ位置を変えて吸われ、明紫亜はどうしていいのか解らなくなる。

「な、に? や、司破さ、ん。なんか、ちが。いつもと、ちが、う、っ」

噛まれるのとは違う感覚に戸惑い瞳を揺らす明紫亜を下から眺め、司破は今付けたばかりの鬱血痕を指で撫でた。
杉木の残した噛み跡の上にくっきりと浮かぶ印に満足したのか双眸を細め、震えている明紫亜のブレザーに手を掛ける。

「キスマーク、知らないのか?」
「……っ、え、と。名前は、知って、る、です、けど」

ブレザーを脱がしながら静かに問い掛けてくる司破に両目を高速で瞬かせ、明紫亜は俯いた。
そう、と相槌を打つ司破の手は明紫亜の腕からブレザーを引き抜いて床にと落としていく。
明紫亜の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
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