あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 79

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それでも伝えたくて必死で「司破さん」と何度も何度も名前を呼んだ。


 会いたい、と告げたら迷惑になる気がしていた。
司破は社会人で忙しい人で、子供の自分が彼の時間を奪うことは、なんだかとてもいけないことのように思えたのだ。
ただでさえ、司破には甘えてばかりで申し訳が立たないのだから、これ以上は邪魔になってはいけないと自戒した。
だけれど、司破も会いたいと思ってくれていたのなら、明紫亜が「会いたい」と口にすることも許されるのかもしれない。
それだけのことが明紫亜の心を震わせる。
素直になっても許される、その現実が明紫亜に齎す幸福感は決して小さくはない。


 明紫亜にとって、『甘える自分』は悪である。
死ぬ気で弱さを抑え込んできた。
弱さを他人に晒す行為は罪に等しい。
母を苦しめる自分に『甘え』など許される筈もなかった。
全ては明紫亜の存在が悪くて、生まれてきたことが間違いで、誰にも愛されてはいけなくて、幸せなど望んではならない。
その強迫概念は、物心ついた頃から明紫亜の内に巣食っていた。
どんなに親戚から愛されても、消えることのない強迫概念は、一生明紫亜が抱えていくべき罰なのだ。
それなのに、司破の存在はそれすらも壊していく。
明紫亜の知らなかった世界が目の前に広がっていく。
絶望に埋め尽くされていた脳に新しい景色を齎した。
時には暴力的に明紫亜を侵食していく司破の存在は、脅威であると共に救いでもあるのだ。


 ぎしり、と音を立てて司破がソファーから降りるのが解った。
ゆっくりと顔を覆う手を外すと、司破の手に頭を撫でられる。
優しい仕草に、ふんぐう、と奇声が飛び出す。
それに軽く笑った司破の腕が明紫亜の首の後ろと膝裏に入り込んだ、と認識した時には体が持ち上がっており、司破に横抱きにされている事実に息を止めていた。

「しっ、ば、さっ、ん!」

降ろして、と手足をジタバタさせるも、司破に睨まれてしまい、むんぐ、と唸り動きを止める。
唇を尖らせる明紫亜をベッドに放り、仰向けに転がる彼に乗り上げる司破の口角が上がっていく。

「お前はもう少し、俺から愛されていることを認識するべきだと結論が出たんでな。今日は、噛んだり絞めたりアブノーマルな行為は全部なしだ。メシアがどんなに自分を否定したって構わないが。お前を愛する俺のことを否定する権利は誰にもないだろ? 黙って受け入れろ」

傲慢な台詞をヤケに優しく甘い口調で告げて司破は、目を見開いている明紫亜の口を答えを聞く前に塞いだ。
幾度も唇に触れるだけの可愛らしい触れ合いを繰り返し、口唇は下にと下りていく。
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