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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係(勉強合宿編)24
しおりを挟む明紫亜の世界は司破に出逢ったことで変容した。
既存の世界が壊れていく様を恐ろしいと思いながらも、彼が見せてくれる世界から目を反らせない。
救いなどと甘美な言葉で済まされるものではないが、明紫亜にとって、痛みを伴う変化を含めて司破から与えられるもの全てが救いだった。
もし、涙夏との間に司破を裏切るような想いがあるとしたら、それはあまりにも形容しがたい痛みを明紫亜に齎すだろう。
司破を裏切る、それだけは絶対に嫌だった。
けれども、涙夏と自分には切っても切り離せない『何か』が存在しているのだと、その『何か』を涙夏は絆と呼んでいるのだと解っているのだ。
果たしてその絆がなんなのか、明紫亜には解らない。
司破を裏切るものだったとするならば、考えるだけでも恐ろしかった。
ぐっ、と胸を圧迫されるようで、込み上げてくる熱いものに心臓が潰されるのではないかと錯覚すら抱いてしまう。
押し上げてくる言葉にならない感情の渦が少年の内部を満たし、どうしていいのか解らなくさせていた。
無言で涙夏の背を追い掛けて行く。
調理場ではしゃぎながら調理している女子達を通り越し、火起こし場に戻ると、眼鏡を曇らせた義一郎がしゃがみ込んでいた。
なんともポツンとした雰囲気が哀愁を漂わせている。
ぶはっ、と涙夏が息を吐き出して笑った。
陰鬱な空気が一気に変わったのが肌で感じられる。
「委員長、ただいま。高校生とは思えない存在感醸してるぞ」
くっくっ、と肩を震わせ笑う涙夏に、明紫亜の心も安堵に包まれていく。
泣き出してしまいたい胸の突っ掛かりが解(ほぐ)れ、強張っていた表情も自然と綻んだ。
「あ、おかえり、二人共! そんなに笑ってどうしたの? ささ、其処に飯盒を置いて。火傷には気を付けてね」
首を傾げながらも炎の上で熱されているスタンドを示す義一郎に頷き、明紫亜は恐る恐る立ち上る炎にと近付いていく。
むわっ、と体を包む熱気に皮膚がひりつくような錯覚を覚える。
涙夏が飯盒を置くと、すっ、と明紫亜に向かい手を差し出してきた。
意図を察した明紫亜の首が横に振られていく。
「大丈夫だよ、ルイカ。僕、出来るから」
自分でやりたいのだと主張すれば、心配そうに眉尻を下げた涙夏の手が渋々と下げられた。
明紫亜の周りの人間は過保護なのだ。
大事にされているのは嬉しいが、少年は成長したかった。
「気を付けろよ」
心配する涙夏に緊張した声で「うん」と返事をし、明紫亜の飯盒を握る手が下ろされていく。
焼けるような熱気に頬が紅く色付いているのが解る。
薄っすら、と汗が滲んだ。
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