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一章:好きです、先輩
好き過ぎて 01
しおりを挟む【好き過ぎて】
商社系の会社に勤めて六年目になる彰治が、教育係として安月に付き始めたのは、凡そ一年前のことである。
今でこそまだマシになったものの、何故入社出来たのかと首を捻りたくなる程に馬鹿で仕事もこなせないことの方が多かった。
正直、彰治も匙を投げたい衝動に何度も襲われた。
それでも安月を見捨てなかったのは、馬鹿なりに覚えようとする意欲が垣間見えたからだ。
夜遅くまで勉強していたのだろう、夜中に質問のメールが入っていることもあった。
朝、目が覚めてから気付き、出社前に返信することが毎日のように続いた。
そんな彼の姿勢は、彰治としても応援したくなるものだったのだ。
一年が経ち、まだまだ拙いところはあるが、それでも何とか仕事のミスも減ってはいる。
二人で飲みに行く回数も自然と増えた。
適当に仕事をこなし、何も感じることもなく淡々と生きているだけの人間よりも、馬鹿なりに頑張っている人間の方が彰治としては好きなのだ。
安月も何だかんだ文句を言いながらも色々と教えてくれる彰治に懐いていた。
単純に先輩後輩として好意を抱かれているのだと思っていたのが、つい一ヶ月前のこと。
安月から告白を受けて一ヶ月。
季節は初夏に入ろうとしていた。
五月に突入し、長い休みも終わって間もなくしてのことだった。
あれから、安月との関係は今まで通りの先輩後輩ではあるものの、何処かで戸惑いを拭えずにいる彰治である。
逆に安月の態度は変わることはなかった。
それがまた、彰治の調子を狂わせる。
何も変わらないようで、何かが少し変化していた最中(さなか)に其れは訪れた。
「府末ー! 三田村ー! ちょい来てー!」
独特な語尾の伸ばし方をする、言うなれば語尾が上がる上司に呼ばれ、隣の安月と顔を見合わせる。
また何かミスしたのか、と思ったことが顔に出たのか、安月の表情が曇った。
それでも心当たりはないのか、首を左右に振っている。
仕事の手を休め二人並んで上司のデスクに赴けば、上司ともう一人、若い男性がいた。
座っている上司の隣に立つその青年は、深々と頭(こうべ)を垂れる。
「新入社員の阿形君だー。一ヶ月の研修を終えて、本日付けでうちの部署に配属になった。宜しくやってくれ」
「阿形 毅(アガタ タケル)と申します! 若輩者では御座いますが、ご指導ご鞭撻の程、お願い致します!」
上司の紹介を受けて、下げていた上半身が、ガバリと勢い良く上がり、体の横にビシッと両腕がくっついた。
ガチガチに緊張しているのだろう、表情は固い。
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