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一章:好きです、先輩
好き過ぎて 02
しおりを挟む「それでね、府末さー。そろそろ三田村独り立ち出来るよねー? どう、三田村ー、仕事慣れたー?」
「俺は、正直まだまだ未熟者で、出来ることなら府末さんに付いて貰いたいです」
上司の問い掛けに、いつもよりも真剣な語調を響かせる安月を、知らず知らずの内に窺い見る彰治だった。
何となくだが話の内容は解る。
安月の拳はキツく握られていた。
予想外の出来事だったのだろう、眉尻が下がり情けない顔を晒している。
「あ、そうなのー? でもさー、最近頑張ってるみたいじゃない。会社としてもいつまでも新人扱い出来ないのねー。まっ、いい機会だと思って、独り立ちしてよ。同じ部署に変わりはないし、今まで通り府末を頼っても良いしねー。形としてそろそろ一人前になって欲しい訳なの、会社としては」
うんうん、と頷きながらも引かない上司に安月も承諾するしかないのは、彰治にも理解出来た。
「そういうことだからさー、府末。今日から阿形君の教育係ね。色々頼んだよー」
「はい。府末 彰治です。宜しく」
彰治とて上司に逆らえる訳もなく、首肯して、直立不動でいる阿形に笑みを向けた。
さっ、と片手を差し出せば、阿形は頭を下げて握り返してくる。
「じゃ、三田村、頑張れよー! 府末、後は頼んだ! 席は一つ空いてたでしょ、其処でお願いね」
上司はそれだけ言い残し、無責任にも部屋から出て行った。
彰治は握っていた毅の手を離すと安月の肩を叩く。
面白くないのか、ぶすっとしている。
「おい、三田村。仕事なんだから切り替えろよ。お前も挨拶しろって。後輩になるんだぞ」
コソコソと耳打ちすれば、いきなり手首を掴まれた。
今にも泣きそうな顔の安月に睨まれる。
どう対応したら良いのか解らずに黙り込んだ。
「府末さん。俺の気持ち、忘れないで下さいよ?」
縋るように、ぎゅうと手首を持たれるも、それはすぐに離れていった。
「三田村 安月です。よろしく」
安月は表情のない顔で頭を下げ、毅に片手を差し出す。
毅はにこやかに、よろしくお願いします、とその手を握り返した。
「じゃあ、阿形君、こっち来てくれるか? 取り敢えず、デスク周りの説明と施設の説明するから。三田村は継続してさっきの仕事やってくれ。解らないことがあれぱ遠慮なく聞けよ?」
毅を手招きし隣にやって来るのを確認すれば、安月に声を掛ける。
彼の背中を軽く叩き、下から覗き込むように安月の目を見遣る。
「はい。先輩、俺頑張りますから、ちゃんと出来たらご褒美くれますか?」
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