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一章:好きです、先輩
先輩の危険と後輩の噂 01
しおりを挟む【先輩の危険と後輩の噂】
彰治が毅の教育係になって一ヶ月が経った。
彼は初日から変わることなく、表面上では仕事をしているように見せて、その実、いい加減なことばかりを繰り返している。
安月と違い、仕事が出来ないのではなく、故意に手を抜いていることは彰治も解ってはいる。
それとなく注意をしてはみたが、その場限りの謝罪をされておしまいになってしまう。
本人にヤル気がないのなら、それ以上彰治に出来ることもなく、新人の尻拭いに奔走される日々に疲れ切っている。
この一ヶ月、自分の仕事と毅のフォローで残業続きだった。
日付が変わっても帰れないことも多く、その度に安月が一緒に残ってくれていた。
何度も飲みに行く約束をしては「行けなくなった」と断る毎日で、それでも怒らずに彰治に付き合う安月に感謝しか出来ない。
だが、彰治は気付いてもいた。
日を重ねる毎に、安月の機嫌が悪くなっている。
毅の教育係である以上、安月といるよりも毅に着いていることの方が多い。
先日ついには「もっと先輩といたいっす。府末さん不足でおかしくなりそう」と帰り際に不意打ちで唇を奪われた。
叱りはしたが手伝って貰っている身分で強くは拒めず、ぎゅうぎゅう、と抱き竦められたまま動けなかった。
暫く安月の抱擁から抜け出せず、両手の置き場に困った挙句、彼の肩を掴んでいた。
抱き締められて解ったことは、安月のガタイが思った以上にガッシリしていると言うことだ。
何かスポーツでもしているのか、ジムにでも通っているのか。
ぼんやりとそんなことを考え、男の腕に捕らわれている事実から逃避していた彰治の耳に安月の吐息が掛かった。
「……明日、出張することになりました。日帰りですけど。俺、先輩から離れたくないんすよ。仕事サボりたい」
縋るような情けない声で告げる安月に「バーカ」と軽く笑ってしまう。
首筋に額を擦り付けてくる安月が大型犬みたいに思えてつい頭を撫でていた。
「仕事はちゃんとしろ。……ほら、頑張ったらご褒美やるから、サボりはやめろよ?」
つい必要以上に安月を甘やかしてしまうのは何故だろうか、と浮かんだ疑問は、パッと脳裏に過ぎった映像で解決する。
「先輩? 何か面白いことでもありました?」
ふはっ、と笑いを堪えられずに噴き出した彰治の身体を漸く離した安月に怪訝な眼差しを向けられた。
「いや。なんかお前が、昔飼ってた犬に似てるって気付いたら可笑しくてな。デカイ図体して甘えたでさ。可愛かったんだよ」
ムッとした表情で眉間に皺を寄せる安月の手に両頬を挟まれ額同士がぶつかる。
「ご褒美、先輩の家で宅飲みがいいっす」
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